第8話 少年探偵団結成
「ねえ、その事で考えたんだけどさ。僕達で犯人を見つけられないかな?」
ボームのその言葉にコウキとオズは驚いて目を開く。
「えっと、ボーム。すでに勇者様達が捜査をしているんだよ。俺達にやる事があるのかな?」
オズが当然の事を言う。
エルドに住む者ならば、光の勇者レイジとその仲間達の力を知っている。
彼らが犯人を見つけられないのに、他の誰かが犯人を見つけられるとは思えないと思うのは当然であった。
「勇者様達が犯人を見つけてくれるのなら、それでも良いさ。オズの妹の疑いは晴れるんだからさ。でもさ、もしも犯人がわからなかったら、疑われたままだよ」
ボームはそう言ってオズを見る。
ボームに言われてオズは黙ってしまう。
(でも、ボームの言う通り、このままなのは嫌だ……。それにこのまま何もしないまま待っていても、気が滅入るだけだ。それは良くない事だと思う)
そう考えたコウキもオズを見る。
このままだとオズ達は疑われたままだ。
そんなのは良くない。
「自分もボームの言う通りだと思う。自分達も動くべきだよ。その方が良い」
コウキはボームの言う事に賛同する。
このままだとオズは気落ちしたままだ。
待っているよりも動いている方が良い。
その間に勇者達が犯人を見つけるのなら、それで構わない。
コウキはそう結論する。
「コウ、ボーム。ありがとう……。でも、どうやって探すんだい?」
オズはお礼を言うとコウキとボームを見る。
「ええと、それは……。ボーム、何か当てがあるの?」
オズに問われコウキはボームを見る。
そのボームは腕を組んで「ふふふ」と笑っている。
「それなら、だいじょうぶだよ。御当主様を頼るんだ。御当主様はすごく頼りになるんだよ!」
ボームは目を輝かせて言う。
ボームの言う御当主と言うのは貴族の岩中である。
かなり頼りにしているのが、ボームの態度からわかる。
「良いのかな? そのボームの当主はその……」
オズは言葉を詰まらせる。
オズの大畑家とボームの岩中家は争っていると聞いている。
オズが頼って良いか迷うのも当然だった。
「大丈夫だよ! 御当主様ならきっと助けてくれる! 明日一緒に行ってみようよ!」
だけど、ボームは気にしていない様子だった。
「これは行ってみるしかないと思うな。一緒に行こうよ、オズ」
コウキもオズを誘う。
黙っていればバレない。
コウキはそう考えオズを誘う。
他に方法を思いつかない以上。
ボームと案に乗るしかない。
少年達は明日に備えて休むのだった。
◆
捜査を終え、チユキはオーディス神殿へと来る。
既に時刻は夜であり、チユキを除く仲間達は王宮へと戻っている。
チユキは用事があるのでオーディス神殿に立ち寄ってから帰る予定であった。
「結局犯人はわからないままでしたな」
オーディス神殿を預かるソガス司祭が溜息を吐く。
結局犯人はわからないままだ。
それを大畑に伝えると、大畑達は落胆した。
神にも等しい力を持つ勇者達をもってしても、犯人がわからなかったのだから、落胆するのも無理はない。
これで光の勇者達の権威は下がるだろう。
悔しいが仕方のない事であった。
「そうね。でもこれで大変な事になりそうだわ。大畑の血気盛んな者達が敵対する貴族に殴り込みに行きかねない状況よ」
チユキは額を抑えて言う。
このまま犯人が見つからなければ、大畑の配下が疑わしい貴族達に喧嘩を売りかねない。
下手をすれば内戦である。
もちろんチユキ達がいるからそうはならないように動く。
しかし、小さな争いまでは目が届かない。
そこでオーディス神殿に協力をお願いするために来たのである。
「確かにそうですな。貴族達が勇者様達の目の届かない場所で争うかもしれません。争いによって無実の者が被害に会うかもです。夜ですが神殿に属する者達に収集をかけています。出来る限りの事をしましょう」
ソガスが沈痛な面持ちで言う。
ソガスは事の重大さがわかっているようだ。
「はい、何とか貴族達の争いを止めなくては」
チユキは首を振る。
貴族は舐められたら殺すのは当たり前である。
貴族以外の者にも被害が及ぶ可能性もあった。
「全くです。過去にも聖レナリア共和国で大畑が他の貴族と争いになりかけた事があります。ある方法で未然に防がれましたが、それを思い出します」
ソガスがそう言うとチユキは首を傾げる。
「以前にも貴族達が争う事があったのですか? ある方法とはどのような方法なのでしょう?」
チユキはソガスに聞く。
「あまり、良い話ではありませんよ。チユキ様……。無実の者を犯人に仕立て上げた、あの方法は……」
ソガスは昔の事を話す。
数十年前の事である、聖レナリア共和国で大畑の一族の若者達と他の貴族の若者達が喧嘩した事があった。
ただの喧嘩であればそれですんだが、運悪く死者が出てしまったのだ。
死んだのは大畑の若者達と敵対する貴族の若者。
身内が殺された事で収まりがつかず、貴族同士の全面戦争になるかもしれなかった。
さすがに事態を重くみたレーナ神殿は喧嘩に参加した大畑側の若者を一人相手に差し出させる事で、和解するよう命じたのである。
しかし、その時大畑は全く無関係の若者を身内に仕立て上げて差し出したのだ。
若者の名はダンテス。
ダンテスは身寄りがなく、たまたま喧嘩のすぐ近くにいただけだった。
身寄りがなく後ろ盾がない、ダンテスに大畑は目を付けて犠牲の羊としたのである。
ダンテスは無実を訴えたが、大畑は周りに金を握らせ不利な証言をさせた。
ダンテスは口を塞がれた後、大畑の敵対貴族に引き渡された。
「私はその時、まだ司祭ではなくどうする事もできませんでした。貴族を怖れたのか、ダンテスの友人で救おうとする者はなく……、いやボーマスとかいう者だけは彼を救おうとしておりましたな。どちらにせよ哀れなものです」
ソガスは首を振って言う。
当時オーディス神殿の司祭長は大畑と繋がりが深く、ダンテスを見殺しにした。
ソガスはオーディス神殿に属していたが、まだ若輩の身で何も出来なかったそうだ。
それを聞いてチユキはその若者を哀れに思う。
この世界では非市民はもちろん、市民であっても、どこの家、つまりは
市民であるので一応裁判を受ける事はできるが、大貴族の前では正しくは行われない。
ダンテスもそういった者のようで、悲惨な目にあったようだ。
エルドの裁判も細かい所は関与していない。
なぜなら全ての訴状等を受け取っていたら、それだけで一日が終わるだろうからだ。
勇者達直属の戦士団である「黄金の夜明け団」やオーディス神殿の手を借りても、全ての人の争いごとを片付けるのは難しく、そのため、小さな争い民間の調停人がまとめる。
ただ、その調停人はどこかの貴族の被保護者である事が多く、当然保護者である貴族に有利な調停をする。
その結果、何も悪くないのに損をする者が後を絶たないようだった。
チユキとしても何とかしたかったが、手が回らない状況である。
「そういう事があったのですか……。そのような手は使えないし、それに暗殺者が再び行動を起こすのなら無意味です」
チユキは首を振る。
大畑は生き返ったので、再び暗殺者が動くかもしれない。
そうなれば誰かを無理やり犯人に仕立てても無意味である。
もちろん、最初からそんな手を使うつもりはチユキにはない。
(全く、魔物達がいるのだから、人間同士で手を取りあわないといけないというのに……。ううん、安心して住める場所が少ないから人間同士で争い起きるのかしら)
チユキは溜息を吐く。
魔物多いこの世界。
人間が安心して住める地は限られている。
その住める地を巡って人間同士で争う事もあるかもしれなかった。
そう考えると、命知らずで粗野なトールズ信徒がまともに思えてくるから不思議である。
彼らは人間が住める地を増やそうと、命がけで戦っているのだから。
「そうですな、それにしても何者でしょう? おそらく怨恨による復讐でしょうが……。戻って来たばかりだというのにこんな事になるとは思いませんでしたぞ」
ソガスは窓の外を見て言う。
少し前までソガスは聖レナリア共和国にあるオーディス神殿に行っていた。戻って来たとたんにこんな事件が起こったのだ。
お疲れ様としか言いようがない。
「そうですね。何者でしょう?」
チユキも窓から外を見る。
星が綺麗に瞬き、月明かりが街並みを照らしている。
(この月明かりの中、復讐者は再び刃を研いでいるのだろうか?)
チユキはそんな事を考えるのだった。
◆
「勇者達によって生き返ったか……。悪運の強い男だ。だが、蘇生は確実に命を縮めるはずだ……。奴の子は凡庸な者ばかり、潰すのはたやすい」
月明かりの中でその者は思わず呟く。
蘇生の魔法は男の知識では例え蘇っても寿命が縮まるはずであった。
どれくらいかはわからない。
そこがその者にとって歯がゆい所だろう。
眼先には大畑の屋敷があり、周囲は騒がしくなっている。
蘇ったとはいえ、大貴族が殺されたのだ。
大畑と繋がりのある者達が我先にと屋敷を訪れている。
その者はその中に混じり屋敷の様子を見ているのだ。
その様子は糞に群がる蠅のようであった。
(あの男にそんな価値はないというのに……)
その者はそんな事を考えおかしくなる。
復讐。
それがその者にとって生きる意味である。
大畑によって人生を狂わされた者は多い。
その者もその1人である。
そして、その者の目論見通り大畑を殺す事に成功した。
ここまでは想定内である。
しかし、一つ気になる事があった。
意図していない事が起こっている。
(私だけではないのか……。確認する必要があるな。だが今は挨拶をしておくか……。状況によっては次の手も考えよう)
素知らぬそぶりでその者は屋敷へと近づく。
大畑の屋敷は騒がしいままであった。
◆
王宮の屋根、ナオは街並みを見る。
月明かりがあるので能力がなくても、街の細部まで様子を見る事ができる。
「さすがに無理っすね。絞るのは……」
ナオは頬を掻く。
どうやって毒を浴びせたのかナオにもわからなかったのである。
怪しい者を探そうにも今度は多すぎて全員を調べるのは面倒臭い。
そもそも、あの大畑のために動くのは嫌だった。
貴族達は争うかもしれないが、チユキが何とか止めるだろう。
そのため、面倒くさくない範囲で街の様子を見ているのである。
怪しい者は入って来ているがナオや仲間達を傷つけられる者はいない。
今回の事件を起こしたのは大畑に恨みを持つ者だろう。
それは人間である可能性が高い。
そして、手を貸した者がいるはずであり、その者はかなりの力を持つ者である。
だが、標的が大畑である以上、ナオとしてはやる気が出ないのであった。
「まあ、少しは動くっすけど気が乗らないっす」
ナオは月を見上げてそう思うのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
コウキっていくつなの?
そういうコメントが結構あります。
コウキもサーナも神族であり不老であり、外的要因がない限り死ななかったりします。
ただ成長が早く、現在8~10歳ぐらいの見た目です。成長しきったら見た目は変わりません。
クロキと出会った時は見た目5歳ぐらいでした。
サーナも神族なので成長が早く、現在見た目は3~4歳ぐらいです。
どこかでその事を書く予定です。
この世界、成長は種族で異なったりします。見た目もまちまち。
ドワーフは生まれて7年ぐらいで成人、おっさんのような見た目になります。
だけど人間よりも長寿。
フェアリーは卵から孵ったばかりの時は老人のような醜い姿で、その後繭から出てくると羽の生えた人間の子どものような姿になります。
ちなみにオズは11歳でボームは10歳です。
この世界は成人年齢が明確に定まっていませんが、13~20歳ぐらいで大人と同じ扱いを受けます。
今月は限定近況ノートを書けるかわからないです。
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