第27話 闇の刃と死の刃

 書庫の中クロキの持つ闇の刃とザガートの持つ死の刃が交差する。


「行くぞ! 暗黒騎士! 八刃灰燼剣!」


 ザガートは叫ぶと剣を振るう。

 するとその刃が八つに別れクロキを襲う。

 クロキはザガートの剣を受け流し、腕を斬り、返す剣でザガートの首を刎ねる。

 首と腕を斬り落とされたザガートの肉体は後ろに下がる。

  

「さすがだ。これ程の剣士がいるとはな」


 頭と腕を再生させながらザガートは喜びの声を上げる。


(そんなに嬉しいのだろうか? 自分としては強い相手とは戦いたくないんだけどな……)


 クロキは戦いが好きではない。

 しかし、避けられない戦いもあるため、日々剣の修練を欠かさず行っている。

 だけど、出来れば戦いは避けたいと思っているのだ。


「そう……。そちらもかなり剣の修練を積んだみたいだけど」


 クロキは剣を構えるザガートを見る。

 ザガートもまた剣士であった。

 ただし、その剣技は偏っている。

 防御を全く考えていないのだ。

 そのため、何度も斬られている。

 

(驚異的な再生能力か……。だから、防御を考えないのかもしれない。まずはその再生能力を何とかしなければならないな)


 クロキは黒い炎を出す。

 ヒュドラは傷口を焼く事で再生を封じる事ができる。

 それと同じことをしようと思ったのだ。


「黒い炎……。やはりそうか、貴様があのアルフォスを破った暗黒騎士だな。母が不安に思うわけだ。まさか、かの魔剣と戦えるとはな! これ程の喜びはないぞ!」


 ザガートは再び嬉しそうにする。

 クロキではなく、あえて魔剣と言うあたり、何か剣に対してこだわりがあるのかもしれない。


「魔剣に敬意を示して、こちらも本気行くとしよう」


 そう言うとザガートは後ろに下がり、付き従っていた者達を斬り裂く。


 突然の事にクロキは止める事ができなかった。


「ザガート様……。何を……」

「お前たちの命を使わせてもらう。役に立てて嬉しいだろう」


 ザガートがさらに剣を突き刺すとその刃が怪しく光る。

 その様子は剣が命を吸っているように見える。


「どういうつもりだ!? お前を信じて付いて来た者達を殺すなんて!」


 クロキはザガートを止めるべく、前に出る。


「おっと、少し待ってもらおうか。出て来い! 我が眷属よ!」


 ザガートが叫んだ時だった。

 上空から3本の剣が出て来てクロキの前に突き刺さる。

 3本の剣はその後、浮かび上がりクロキを阻もうとする。


 意思を持つセンシェント踊るダンシングソード


 使い手がいなくても空中に浮かび、自らの意思で敵を斬る剣である。

 クロキは襲い掛かる3本の剣を魔剣で弾き叩き落とす。

 意思を持つセンシェント踊るダンシングソードは叩き落されたぐらいでは動きを止めず再び動き出す。

 その間にザガートは付き従ってきた者達に剣を突き立て命を吸う。

 

「さあ、もっとだ! 我が眷属達よ! 呼び声に応えよ!」


 ザガートは再び叫ぶ。

 するとさらに剣が上空から現れる。

 新たに現れた剣は12本。

 その全てが意思を持つセンシェント踊るダンシングソードのようであった。


「そうか、本体はそっちだったのか……」


 クロキは身体ではなく、その体が持つ剣を見る。

 ザガートは意思を持つセンシェントソードであり、それを持つ身体ではない。

 身体はザガートに操られていて、意思がないのだろう。

 

(どうりで防御をしないわけだ……)

 

 肉体は剣が吸った命がある限り無限に再生する。

 そもそも、ザガートが操る肉体は様々な生物が融合したような姿だ。

 命だけでなく、吸った種族のそれぞれの能力も与える事ができるのかもしれない。


「その通りだ。この肉体はかつて剣聖と呼ばれた程の者の肉体。そして、これまでも数多の剣士の命を吸い、強化してきた」


 ザガートは嬉しそうに言う。

 ザガートの剣技は剣聖を始めとした数多の剣士が長い修練で得たものだろう。

 ザガートのものではない。

 クロキは知らないが、かつてザガートは鍛冶の力に目覚めた死の御子であった。

 特に剣を作る事を好み。

 より世界に死をもたらす剣を作る事に没頭して、最後には自らの肉と骨を剣へと変えた。

 死の刃とはそんなザガートに送られた綽名である。


「暗黒騎士よ、その最高の剣技……。このザガートのものにしてやろう」


 ザガートの剣身が不気味に光ると呼び出された剣達が動き始める。

 クロキは冷たい瞳でザガートを見る。

 剣士が良き剣を求めるのではなく、剣が良き剣士を求める。

 これではあべこべだ。


意思を持つセンシェントソードか……。使い手のためにならない剣なんて、ナマクラ以下だ……)


 そう思いクロキは自身の持つ魔剣を見る。

 この魔剣から時々意思のようなものを感じる時があった。

 しかし、それを主張するような事はない。

 剣は使い手のためにある。

 その領分を守る、真なる剣であった。

 ナルゴルの剣からモデスの剣。そして、今クロキの剣と言える武器である。

 

「さあ、我が眷属よ。主の呼び声に応えよ。最強の魔剣を使う剣士を死の刃の糧とするのだ」


 ザガートが言うと意思を持つセンシェントソード達が動き始める。

 その中にはザガートが斬り殺した者の剣もあった。

 ザガートの作りし剣は死の剣である。

 使い手に大きな力を与えるかわりに精神を蝕み、やがて亡者となる。

 亡者となった剣士は剣を用いて世界に死をばら撒く。

 その死の剣がクロキに向かって来る。


(魔剣よ……。行こうか……。こんなナマクラ以下に負けるわけにはいかない)


 クロキは魔剣を握り、右足を前に出し体を回転させて剣を振るう。

 黒い炎を纏った闇の刃が直状の剣、曲刀、波状の剣の死の刃を斬り裂く。


「何!?」


 ザガートは驚く声を出す。

 自身の眷属である3本の剣が瞬時に斬り裂かれ床に落とされたのだ。

 3本の死の剣は残骸となり動かない。


(まだだ……。まだ行くよ)


 クロキは床を滑るような動きで間合いを詰めると飛び上がり、闇の刃を繰り出す。

 斬撃が空間を支配する。

 瘴気を放つ全てのザガートの眷属はその存在を金属片へと変えて辺りへ散らばる。


「ザガート……。眷属はこれで全部? 待ってあげるから次を呼んでも良いよ。ナマクラ以下がいくら集まっても、真の剣にはかなわない事を教えてあげる」


 クロキは魔剣をザガートに向ける。すると手に持つ魔剣が震えるのがわかる。

 クロキの感情に共鳴しているようであった。


「馬鹿な……。恐怖しているだと……」


 魔剣を向けられたザガートは後ろに下がる。

 一振りの剣となり、死の剣の王となったザガートには恐怖の感情などなくなったはずであった。

 しかし、クロキに対峙し、真なる剣を向けられた時、捨てた感情が蘇ったのである。


「ありえぬ! 我が恐怖する等! 幾万幾千の数多の命を吸い! 我が身を研ぎ澄まし! 出会った竜も巨人すらも全て斬り伏せて来た! 認めぬ! 認めぬ!」


 ザガートの剣身が震える。

 剣とは戦うためのものであり、死の戦神でもあるザガートにとって恐怖する事は許せない事なのだろう。


「行くぞ! 暗黒騎士! 我が刃の糧となれ!」


 ザガートはその身に瘴気を纏わせると向かって来る。

 瘴気が刃となりクロキに襲い掛かる。

 クロキも黒い炎を刃と変えて、打ち消す。


「おのれ!」


 叫びながらザガートは間合いを詰め、自身を振るう。

 先程よりも瘴気が増している。

 

(刃が鋭くなっている……。だけど、最初に比べて振りが雑だ。弱くなっている)


 クロキはザガートを打ち返しながら冷静に判断する。

 ザガートは力の全てを解放しているが、そのかわり肉体の剣技を使う事ができていない。

 使い手があってこその剣であり、本気を出せば出す程、弱くなっているのだ。

 対してクロキの側は使い手も剣もそれぞれの力を合わせて戦っている。

 闇の刃と死の刃が激しくぶつかり合う。

 押しているのは闇の刃で押されているのは死の刃だ。


(もう終わらせよう……)


 クロキはザガートを弾き飛ばすと剣を上段に構える。


「行くぞ! ザガート!」


 クロキは叫びと共に全ての魔力を剣に込めると一気に間合いを詰めて振り下ろす。

 ザガートは思わず剣を前に出し、防御の姿勢を取る。

 これはザガートの意志ではない。

 クロキの力により操っていた肉体が忘れていた恐怖を呼び起こされ、防御行動を取らせたのだ。


「馬鹿な! 防御だと!」


 ザガートは自身の初めての防御行動に驚く。

 

「最後ぐらい。使い手のために行動しなよ」


 クロキは腰から背中、そして腕に力を込める。

 闇の刃が死の刃に食い込んでいく。

 もはや、ザガートに逃げ場ない。


「や、やめろ……」


 ザガートは必死で抵抗する。

 その発する声には恐怖があった。

 クロキはさらに力を込める。

 魔剣の赤い紋様が血のように蠢くと闇の刃が鋭さを増す。

 

「あ……」


 ザガートの最後の言葉と共に剣身が断ち斬られ、その肉体も闇の刃によって2つに裂かれる。

 裂かれた肉体の手が剣の柄を力なく落とす。

 二つになったザガートから蒼い光が立ち上り、やがて消えていく。

 吸いとった命が抜け出していくようであった。


「少し時間をかけすぎた。急がないと……」


 クロキはザガートの柄の部分に剣を突き立てると先を見る。

 キョウカとチユキが心配である。

 クロキは急ぎ先に進むのであった。

 





★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


更新です。

そして、設定資料集を更新。

限定近況ノートの第2弾もアップしました。

近況ノートはポレンのイラスト付きです。お金を貰えるほどのイラストではないので、小説の投げ銭としていただきたいです。


毎月480円は高額に感じるところがあります。

ギフトは毎月ではなく、年に2回か、3回もらえると嬉しいです。


限定近況ノートに書く内容ですが、キャラのスピンオフが一番良いのだろうと思います。

イシュティアの日常とか書いたら、かなりエロくなりそうですね(>_<)

また、次回もイラストを載せたいと思いますが、誰にしようか迷っています。



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