第27話 美神の到着
「それで……。よろしいのですか? ポレン殿下?」
「はい。できれば私もアルフォス様を助けて欲しいな~って、思っちゃったり」
暗黒騎士であるクロキに聞かれてポレンはちらりと横を見ながら言う。
横には不機嫌そうなクーナが立っている。
クーナはレーナによって動きと口を封じられてしまった。
しばらく、自由に動く事もできず、喋る事もできない。
クーナを封じ、巨大竜と化したクロキを止めたレーナはアルフォスを見逃すように要求した。
そのレーナは癒しの魔法を使うためにアルフォスの所に行っている。
そして美女達もまたレーナと同じように癒しの魔法を使いアルフォスを回復させようと必死になっている。
無事だと良いなとポレンは思う。
美男子は世界の宝であり、失われるのはもったいないのである。
(それにしても先生の一撃はすごかったな)
ポレンが周囲を見ると所々大地がえぐれている。
これはアルフォスを地面に叩きつけた時の衝撃によるものだ。
その大穴の真ん中にポレン達は立っている。
ポレンが聞いたところによるとクロキは全力ではなかったらしい。
それでも、凄まじい威力であった。
その力を使ったクロキは魔剣を杖代わりにして前屈みになって立っている。
やはり、あれほど巨大な力を使えば、ただではすまないのだろうかとポレンは推測する。
「「「アルフォス様!!!」」」
美女達が喜びの声をあげる。
アルフォスが目を覚ましたのである。
やがて、ポレンの目の前にいる美女達が左右に分かれる。
そこには詩の女神ミューサに支えられたアルフォスが立っている。
土に汚れているが、それでもアルフォスの顔に傷はない。
かなり消耗している様子だが、その華麗な美しさは少しも損なわれていない様子であった。
「どうやら僕は負けたようだね……。ははは……。全くなんて様だ……」
アルフォスは自嘲気味に笑うとクロキを見る。
「ねえ……。顔を見せてくれないかな? 僕に勝った君の顔をみたいのだけど」
そう言われてクロキは兜を外す。
クロキの顔を見た美女達がどよめく。
そりゃそうだろうとポレンは思う。
クロキはエリオスの若い神族の殿方達に負けない程に顔が整っているのである。
「嘘……。顔が整っているなんて……」
「意外だわ。魔王の仲間の邪神って、ほらなんていうか気持ち悪いのしかいないんじゃなかったっけ?」
「そうそう何て言うか顔がぐしゃってしているというか……」
「そうよね、何ていうか気持ち悪いのばっかりだったわよね……」
「おかしいわ。何で魔王の下にいるのかしら」
美女達が口々に言う。
(どう? クロキ先生はエリオスの殿方にだって負けてないでしょうが!)
ポレンは「ふふん」と鼻を鳴らして美女達を見る。
「それが君の顔か。覚えておくよ……」
アルフォスとクロキの視線が交差する。
(見つめ合う殿方。中々良い感じだ!)
ポレンは魔法の映像で永久保存しておきたいと思う。
「アルフォス!! ポレン殿下の願いにより! 見逃してやる! ただし殿下を侮辱した事への謝罪はしてもらうぞ!!」
クロキはアルフォス達に向かって言う。
美女達が怯えた表情になる。
まだクロキが怖いようであった。
竜の咆哮には恐怖の魔法と同じ効果がある。
耐魔力が低い者だと永遠におびえ続けなければならない。
現にプチナは竜に変わったクロキの咆哮を聞いて本当に漏らしていたのをポレンは思い出す。
「……ごめんなさいブタさん。酷い事を言って悪かったわ」
「私も謝るわ、ブタちゃん。許してね」
「本当にごめんなさい。良く見ると子ブタみたいで可愛いわ」
「本当。猪の子みたいで可愛いのに悪く行ってごめんなさい」
「この前、私を信仰する人間から格好良い雄ブタを捧げられたの。良かったら貴方にあげるわ」
美女達が口ぐちに謝る。
(何か謝られている気がしない――――!!!!!)
ポレンは複雑な表情になる。
美女達にとってポレンがブタなのは変わりがなかった。
「僕からも謝らせてくれないかな。魔界の姫君」
そう言ってアルフォスはミューサから離れてポレン達の方に来る。
「えっ!? アルフォス様が!? そんな畏れ多い!!」
ポレンは心の中で歓声を上げる。
アルフォスに直接声を掛けてもらえるのは世界中の女の子の夢である。
アルフォスはポレンの側に来ると優しく微笑む。
その笑みはとても魅力的であった。
(これなら彼女達に謝ってもらわなくても良いかな~)
そんな事を考えてポレンはにやけてしまう。
アルフォスは近づくと跪く。
そして、跪いたアルフォスが手を取る。
「ごめんね。僕の女の子達が酷い事を言って。君はこんなに可愛らしいのに。魔界に君のような可憐な子がいるとは思わなかったよ。今度は2人だけで会ってくれないかな?」
そう言って手の甲に口づけをする。
その動作はあまりにも自然すぎて誰も動けなくなる。
ナルゴルの姫の前に跪くエリオスの騎士の姿は珍しい事であった。
そして、爽やかな笑みを浮かべるとアルフォスは立ち上がりクーナの前から立ち去る。
(って!!! あるぇ―――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
ポレンは心の中で絶叫する。
アルフォスが跪いて口づけしたのはクーナの手の甲であった。
横にいたポレンは愕然とする。
(あるぇー!? おかしいぞう? 姫は私なんですけど―――!!! もしかしてアルフォス様は私の存在に気付いていない!? 私の隣にいるクーナ師匠の方しか見てなかったんじゃ!!?)
ポレンは最初からアルフォスの目に入っていなかった事に気付く。
手の甲に口づけしてもらったクーナも含めてその場の誰もが呆然とする。
「さらばだ、暗黒騎士! この借りはいつか返す! また会おう!!」
アルフォスはそう言うと華麗に去って行く。
美女達も後に続き、その去り方は見事だ。まるで風のようであった。
あっというまにアルフォス様の空船が離れて行く。
「あいつ……。何も気付いてないぞ……」
しばらくして、ようやく動けるようになったクーナはアルフォス達が去った方角を見ながら言う。
そのクーナの目はジト目になっていた。
「ええと、あまりにも自然な動作だったからさらに動くのが遅れた……」
クロキもまた呆然とアルフォスが去った方を見て言う。
さすがにクロキも憮然とした表情をする。
「礼を言うわよ、クロ……。いえ暗黒騎士。アルフォスを見逃してくれて」
突然ポレン達は声を掛けられる。
そこにはレーナとレーナに従う天使達がいる。
レーナ達はアルフォス様と行動を共にしない様子であった。
「別に……。そちらの願いじゃない。殿下がそう願ったからだ」
クロキはレーナの方を見ないで言う。
レーナはその様子を意味ありげな笑みを浮かべる。
「ふふ。まあ良いわ。そういう事にしてあげる。そちらにも立場があるでしょうからね。それじゃあね。貴方達も御菓子の城に向かうのでしょう? 先に行かせてもらうわ」
レーナ達が去って行く。
そこでポレンはここまで来た目的を思い出す。
「そ、そうだ! オババ様とダティエを救いに行くのだった! 忘れてたー!」
「そうなのさ! 忘れていたのさ!」
ポレンとプチナが叫ぶ。
「殿下。我々も向かいましょう」
「はい、先生。ですが大丈夫なのですか? その……先程から様子が……」
ポレンは先程からクロキの様子がおかしい事に気付いていた。
剣を杖にして前屈みになっていて動きにくそうであった。
「ああ。これですか、大丈夫です殿下。ただの副作用です。竜の力を活性化させると生命力がとんでもなく高まり、こうなってしまうのです……。ただ、動き難いのは確かですが、問題はありません。行きましょう」
クロキは問題ないと笑って言う。だけど、ポレンには無理をしているように見えた。
「そうだぞ、ポレン。クロキは後でクーナが何とかする。心配する必要はない」
クーナが胸を張って言うと、豊かな胸がプルンと揺れる。
「そうですよ、ポレン殿下。我々もいるのですから閣下は大丈夫です」
「待て? グゥノよ。それはどういう意味だ。お前達の出番はないぞ」
「「「「ええ~!!そんな~!!」」」」
クーナと女性のデイモン達が言い争いを始める。
「待ってみんな!! これ以上はクロキ先生に無理はさせられないよ!! オババ様を助けに私が先頭に立ちます!! クロキ先生は見ていて下さい! 行くよ、ぷーちゃん!! 変身だよ!!」
ポレンは横にいるプチナに言う。
「わかったのさ……。殿下の覚悟をお手伝いするのさ」
そう言うとプチナの姿が変わっていく。
これから大熊へと変身するのである。
(先生は私のために戦ってくれた! これ以上は無理をさせられない!)
だからポレンは自分が動こうと思うのだった。
◆
「出てきな!! 世界の根を食み!! 全てを腐らせる土の大蛇ニドヘグよ!! このヘルカートの呼び声に応えな!!」
目の前にいる三つ首のカエル魔女ヘルカート土の上位精霊を召喚する。
あくまでレイジを支援するのを邪魔するつもりのようであった。
土の上位精霊ニドヘグはあらゆる物を腐らせ大地に還す能力を持つ。
このままでは周囲が大変な事になるだろう。
「リノさん!!」
チユキは慌ててリノの名を呼ぶ。
「わかってるよ! チユキさん! 世界の頂にて翼を羽ばたかせる風の大鷲! フレスベルグよ! リノの呼び声に応えて!!」
リノがニドヘグに対抗して風の上位精霊フレスベルグを呼び出す。
フレスベルグは風を起こしてニドヘグを封じる。
これで周囲への被害は減るはずであった。
チユキは将軍達には撤退するように指示を出しているので、地上の森には誰もいないはずであった。
フレスベルグを呼び出すとリノは再び歌い始める。
リノの歌は魔法の歌である。
歌はヘルカートが呼び出した何百匹もの
リノはその呪歌を消すために対抗して呪歌を歌っているのだ。
リノの可愛い歌声と
リノは上位精霊を操りながら、同時に呪歌も使う。その姿は真剣である。
普段の遊んでいる姿からは想像できない。
チユキもリノを見て負けていられないと思う。
「七重爆裂弾!!!」
「ふん!! 妖雷よ!!」
チユキの放った爆裂弾はヘルカートの放った雷撃によって簡単に防がれる。
爆裂弾は空中で爆発してヘルカートには届かない。
ヘルカートには三つの首が有る。
そのため、同時に三つの魔法を同時に使う事ができる。
1の首でニドヘグを操り、2の首でチユキの相手をして、3の首で天候を操っている。
空には魔法の雨雲が広がり、ヘルカート自身と
とんでもない強力な魔力の持ち主だとチユキは思う。
チユキとリノの2人と互角であった。
このままではどうにもならないと思い、チユキはシロネとナオの方を見る。
シロネとナオは
ギルタルは最初に見せた人間の姿から、赤い鎧のような外骨格に、四つ腕に四つの足、両肩から足まで届く巨大なハサミを翼のように広げた異形の姿へと変わり、シロネとナオの2人と戦っている。
四つの腕には弓と槍を持ち、巨大ハサミから
ギルタルはかなり強く、レイジの次に強いシロネとナオを相手に優勢に戦っている。
チユキはナオが翼ある豹に変身して戦っている姿を見るのは久しぶりであった。
それだけ、ギルタルが強敵なのである。
チユキはこれ程の相手がいるとは思わなかった。
おかげでレイジを支援するどころか、ヘルカートにも近づけない。
このままでは押し切られるだろう。
チユキはレイジの方を見る。
レイジはたった1人で邪神達の相手をして、その大部分を叩きのめしていた。
邪神達は仲間割れを起こしていたとはいえ、流石である。
しかし、数は減ったが、残った邪神はかなり強い。
最初の頃のように簡単に倒せる邪神の数が減って来ている。
レイジは黒獅子頭の神と剣を交えている。
黒獅子頭の神は中々の腕で、レイジを相手に一歩も引いていない。
巨大な七つの星の紋章が入った大剣を振るいレイジと戦っている。
レイジは2本の剣でたくみに受け流しているが、倒す事まではできていない。
そして、最初にレイジに吹っ飛ばされたキラキラした神も参戦している。
キラキラした方の神も中々の腕であるようで、レイジと同じく光の魔法を使い、また同じように二刀流であった。
ただ、黒獅子と仲が悪いらしく全く連携が取れていないので、そこまで脅威になっていない。
結局勝負が決まらず、膠着状態になっている。
チユキは撤退すべきだと思っている。
問題は、この辺りには転移魔法が阻害されている事であった。
そのため逃げるのが難しくなっていた。
チユキは思考を巡らせる。
「ゲロ!? 何!?」
チユキがそんな事を考えている時だった。
ヘルカートが慌てた声を出す。
チユキが振り返ると雨雲を突き破り巨大な空船が姿を見せる。
「何? あれ!? すごく派手な空船?」
チユキは突然現れた空船を見て驚く。
空船は巨大である上にとんでもなく派手であった。
チユキは見ていて目が痛くなる。
チユキ達だけでなく急に現れたド派手な空船にレイジや戦っていた神々も注目する。
レーナの空船が優美なら、突然現れた空船は豪華であった。
その空船の船首には1人の女性が立っている。
戦闘中だというのに不覚にも、その場の全員がその女性に目が奪われてしまう。
「うわあ……。すごいおっぱい……」
リノは女性を見て目を丸くする。
空船の船首にいるその女性の胸はあまりにも大きい。
巨乳というよりも爆乳であった。
胸が小さいのを気にしているリノはそれを見て、羨ましそうな声を出す。
しかも、その女性の服装は半裸で、爆乳ともいえるその胸の先しか隠しておらず、服の布地は普通の水着よりも小さい。
着ている白い布地は薄く透けていて大事な所が見えそうであった。
しかも、顔も良く、長い髪には沢山の宝石が散りばめられている。
チユキは何者だろうかと首を傾げる。
「みんなーーー!! 美と愛の女神イシュティアちゃんが来てあげたわよ―――!!!!!」
美女の明るい声。
チユキ達は突然の美の女神の来訪に呆然とするのだった。
★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★
更新です。
実は暗黒騎士物語の英語訳版を作りたいな~とか思ったりしています。
また11月中に第6章を終わらせたくて無理をしています。
誤字脱字等がありましたら教えて下さると助かります。
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