第16話 魔姫双影1

 クラーケンを獲り、クロキ達はアスピドケロンに乗ってナルゴルに戻る事にする。

 海は少し荒れているが巨大なアスピドケロンならば問題はなく、その甲羅の上にある館はあまり揺れていない。

 座椅子に座り、窓の外を見るとクラーケンが見える。

 クラーケンは巨大なので縄で結びアスピドケロンに引いて運ぶ事にしている。

 魔法で完全に凍らせているので流氷を運んでいるみたいであった。

 クロキは視線を館の中に戻す。

 そこではポレンとプチナが相変わらず食べている。

 給仕をしているセルキーの男性達はとても忙しそうだった。

 クロキは膝の上にいるイヌラの頭を撫でる。

 するとイヌラが「きゅ~」っと可愛らしい鳴き声をあげる。

 イヌラはセルキーだ。

 しかし、まだ小さいので人の姿になる事は出来ない。

 そのため、アザラシの子供と変わらない。膝の上に置いているとぬいぐるみみたいで、とても可愛いとクロキは思う。

 その時、クロキの指輪が反応する


「あれ? クーナがこちらに向かって来ている? もしかすると自分が帰って来るのが遅くて待ちきれなくなったのかも」


 クロキは指輪を見て呟く。

 指輪はクーナが近くに来ている事を教えてくれていた。

 そして、こちらに来る速度が速いので、グロリアスに乗って来ている事がわかる。

 魔竜と呼ばれるグロリアスは巨体であるにもかかわらず速く飛べる。

 すぐにたどり着くだろう。


「ごめんね。イヌラ。少し離れてくれるかな?」


 イヌラは少し悲しそうな顔をするが、クロキは構わず側に控えている女性セルキーに渡す。


「はい閣下」


 セルキーの女性はにこやかにイヌラを抱きかかえる。

 貝殻ビキニなので、すごく目のやり場にこまる。


「どうしたのですかクロキ先生?」


 何とかだらしない顔になるのを防ぎクロキが外に出ようしたときだった。

 様子に気付いたポレンが声をかける。


「はい、ポレン殿下。どうやら自分の迎えが来たようです。ですから出迎えようと思います」


 クロキはそう言うとポレンに頭を下げ、館の出口へと行く。

 館の外に出て数分。巨大な影が海の向こうから飛んで来るのがわかる。


「クロキ!!!」


 グロリアスがアスピドケロンにたどり着くとクーナは飛び降りてクロキに抱き着く。


「クーナ。どうしたの? 待ちきれなかったの?」


 そう聞くとクーナがこくんと頷く。

 その様子はとても可愛らしい。

 クロキは「よっしゃ!!」と心の中でガッツポーズをする。

 クロキは可愛い子からこんな風に言ってもらえた事は今までにないので、素直に嬉しく思う。


「クロキが遅いから会いに来た」


 クーナは上目遣いでクロキを見上げる。

 その様子がとても可愛いので、クロキの顔はだらしなくゆがむ。


(いけない、いけない。気を引き締めないと)


 クロキがそんな事を考えているとグロリアスがアスピドケロンに着陸する。

 グロリアスが乗ると、アスピドケロンがゆれて側にいたオーク達の悲鳴を上げる。

 だけどグロリアスはそんな事など気にせず、クロキに甘えるように頭を自分に寄せて来る。

 グロリアスも寂しかったようであった。


「ごめんね。グロリアス。良い子にしてたかい?」


 クロキはグロリアスの鼻を撫でる。

 するとグロリアスが嬉しそうに鳴く。


(こういう所はイヌラと変わらないな。クーナと同じで、とても可愛い)

 

 クロキ達が再会を喜んでいると周りが騒がしくなる。

 クーナとグロリアスに驚いたリブルムの配下とエザサの配下が集まって来たのだ。

 ドラゴニュート達はリブルムと共にグロリアスに感嘆の表情を浮かべ、エザサの配下のオークの男達はクーナを見てだらしない表情をしてエザサに怒られる。

 クーナは可愛くて、グロリアスは格好良いので当然の反応であった。


「おおおおおおおおおおおお!!!!!」


 そしてそんな、ドラゴニュートやオークとは別に驚く声が上がる。

 クロキが振り向くとそこにはポレンがいる。

 ポレンは凄く驚いた表情で驚いている。その目は大きく開かれてクロキ達を見ている。

 ポレンが見ている先にはクーナがいる。

 ポレンはクーナを見て驚き、体を震わせている様子であった。


(殿下はどうしたのだろう?)


 クロキはポレンを見る。

 ポレンはその体を震わせて動けないようだった。

 

「ク! クロキ先生!! その、すっごい! エロカワ美少女は一体どなたですか―――?!!!」


 ポレンの叫び声がアスピドケロンに鳴り響くのだった。






 もぐもぐ、はむはむ。


 ポレンはセルキーの男性達が運ぶ料理を半ばやけになりながら口に入れる。


(はあ~。結局クロキ先生に助けてもらえなかったな。良いな~、ぷーちゃんはカッコ良く助けてもらえて、さらにお姫様抱っこまでしてもらえてさ。 なんで、私はこうもうまくいかないのだろう?)


 ポレンは一緒に食べているプチナをとても羨ましく思う。


「はむはむ。これ美味しいのさ。殿下」


 その、プチナはポレンの横でお魚にかぶりついている。

 美味しいのは確かだけどポレンは何だか納得がいかなかった。


「ぶう~。確かにそうだね……。ぷーちゃん……」


 ポレンは少し不機嫌になりながらゆでた大海老を食べる。

 プチナは食べるのに夢中でポレンの様子に気付かない。


(まあ良いけどさ。それも、これもクラーケンが弱いのが悪いのよ! まさか、私が軽く叩いただけでやられるなんて)


 ポレンはやけ食いでさらに多くの海の幸を頬張る。


「あの……。ポレン殿下……。どうかなさいました?」


 イヌルはポレンが不機嫌なのに気付き、怯えた表情で聞く。

 イヌルを初めとしたセルキーはクラーケンを退治したポレンを讃えると同時に畏怖している。

 そのため、時々怯えた表情をするのであった。


(う~ん、おしい、そんな顔をされたら楽しめない。折角美男子なのに)


 ポレンはイヌルの格好を見て残念に思う。

 だが、ポレンの力であれば軽くおさわりをしただけで骨を砕きかねない。

 だから、怖がるのも仕方がない事であった。

 しかし、美形の殿方に怖がられるのはポレンとしては正直哀しい。


(私の相手をできるのはクロキ先生ぐらいなのかも)


 ポレンは窓際にいるクロキを見る。

 クロキは椅子にすわり膝にセルキーの子供を乗せている。

 兜を外しているのでその顔が良く見える。

 とても優しい表情でセルキーの子供を撫でている。

 黒い髪から覗く瞳はとても穏やかである。

 ポレンは過去に魔法の映像で美形揃いのエリオスの男神を見た事がある。

 クロキの顔はそのエリオスの男神にも負けてはいない。

 ポレンはそんなクロキを見て、涎を出す。


(まずい、まずい。これじゃあまるで、お母様と一緒に居る時のお父様みたいじゃない。こんな所まで似たくないなあ)

 

 ポレンがそんな事を考えて涎をぬぐい取っていると、突然クロキが立ち上がる。

 クロキは膝に抱いていたセルキーの子供をセルキーの女性に預けて外に出ようとする。

 

「どうしたのですか? クロキ先生?」

「はい、ポレン殿下。どうやら自分の迎えが来たようです。ですから出迎えようと思います」


 そう言ってクロキは頭を下げ、そのまま館の出口へと歩いていく。


「おや? どうやら白銀の姫様が来たようなのさ」


 プチナはクロキの背中を見ながら言う。


「白銀の姫? 誰それ?ぷーちゃん?」


 ポレンは首を傾げて聞く。


「それはもちろん。閣下の奥さんなのさ」

「えっ!?」


 プチナの爆弾発言にポレンは食べていた焼き蟹を落す。


(えっ? クロキ先生、奥さんがいたの? 知らなかった……)


 プチナの言葉が衝撃となってポレンの中を駆け巡る。


「どどどどどど?! どういう事なの?! ぷーちゃんんんん?!!!!!!」


 ポレンはプチナに近づくと首を掴んでゆする。


「い!!痛いのさ! 殿下! 言ったとおりの意味なのさ!!」


 ゆすりすぎたためプチナは目を回して動かなくなる。


(白銀の姫……。すごく気になる)


 ポレンはプチナを離すとクロキが去った方向を見る。


「きゃあああああああああああ!!!!!!!」


 突然セルキーの女性が悲鳴を上げる。

 ポレンが窓から外を見ると巨大な漆黒の竜がアスピドケロンに迫っているのが見える。


(どうしよう? あの竜はクラ―ケンよりも強そうだ)


 危険を感じたポレンは大急ぎで館の出口へと向かう。

 出口にはエザサの配下のオーク達が大勢詰め寄せていて塞いでいる。

 外に出られず、ポレンがどうしようか迷っていると気付いたオークが道を空けるように促してくれる。

 ポレンは館の外に出る。

 外に出ると巨大な竜がいる。

 竜は大人しくしていて攻撃の意志は感じられない。

 ポレンが良く見ると竜の足元にクロキがいるのが見える。


(そういえばクロキ先生は竜を乗騎にしているんだった。きっと、この竜はクロキ先生の乗騎なんだ。だから大人しいのかな)


 そして、ポレンはクロキと一緒に誰かいる事に気付く。

 そして、ポレンがその誰かを見た時だった。


「おおおおおおおおおおおお!!!!!」


 ポレンは思わず大声を出してしまう。

 クロキの側にいたのはとんでもない美少女であった。

 美しい白銀の髪に透けるような綺麗な肌。

 蒼と黒を基調にした衣装には宝石が散りばめられている。

 そして、その服の上からでもわかるぼん!!きゅん!!ばん!!な身体。

 また、腰の衣装の丈が短いためか、細く綺麗な足が出ている。

 その足は艶めかしくて、とてもエロかった。

 いや、足だけではない。存在自体がとてもエロティックである。

 ポレンはこれだけ美しい女性を見るのは母親であるモーナ以来であった。

 これほど美少女ならばエリオスの女神にだって勝てるだろう。

 

(やっぱり、この美少女が白銀の姫なのかな? 勝てねえ……。勝てねえよ……。 どうして胸があんなに大きいのに、どうして腰はあんなに細くいられるの? 私なんか体に凹凸が全くないんだぞ!? どうなってんやがんだ!?)


 ポレンはそう思い自身の体を見る丸みを帯びた身体には胸どころかくびれなど全くない。

 ポレンは涙が出そうになる。

 今まで、だって綺麗な女の子はいた。

 だけど、ポレンにこれほどの衝撃を与えた者はいない。


(私もこんな美少女になりたい!!)


 ポレンの心の中に強い感情が芽生えて来るのを感じる。

 ポレンは彼女と話をしてみたいと思う。

 だから紹介をしてもらいたかった。


「ク! クロキ先生! その、すっごい! エロカワ美少女は一体どなたですか――――!?」


 ポレンの声がアスピドケロンに鳴り響くのだった。


★★★★★★★★★★★★後書き★★★★★★★★★★★★


最近家に帰ると、すぐに眠くなります。

疲れがたまっているのかな……

そんなわけで誤字脱字があったら報告して下さると嬉しいです。


「カクヨム」でも読んで下さると嬉しいです。

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