二〇二二年 四月二日

 年が明けたと思ったら、あっという間に四月です。季節は春、何かを始めるのも卒業するにも良いシーズンです。


「卒業シーズンだからといってカブいじりを止めることは有りません」


 ところでこの『バイク素人が悪戦苦闘しながら修理するエッセイ』の読者はどれくらいの整備スキルをもっているのでしょう? 私の場合は必要に迫られて仕方がなくやっています。もちろん基本的に素人がお家でバイクを直しているわけですから、専用設備がある訳でもありませんし、工具だって限られています。もちろん出来ないことは山ほどあります。


「今回はブレーキ周辺の整備とタイヤ交換の準備をしたいと思います」


 今回修理中のプレスカブは八万六千キロほど走ったジャンクです。書類こそある物のハンドルやエンジン、シートに荷台ハンドルキャブレター……欠品多数で「捨ててしまえ」と言われるレベルでした。やっとこさカブらしい形までもって来れましたが……そう、形はね……。


「マフラーを取り付けて一見走り出しそうな見た目ですが、実際は走れたもんじゃありません。走ったら確実に事故を起こします」


 スーパーカブに限らずオートバイは『走る・曲がる・止まる』が大事です。ナンバー登録すれば走ることは可能でしょう。しかし、今の状態では無理です。


「このカブはタイヤの溝が無く、ブレーキレバーを握るとグリップまで握れてしまいます。ブレーキペダルは調整ナットをかなり締めこまないと踏みしろが出ません」


 恐らくブレーキシューが減っているのでしょう。シューを交換するとなればホイールを外しますからタイヤ交換もついでに、後輪は硬化しているであろうハブダンパーの交換もしたいところです。


「フロントタイヤを外してブレーキ周辺をチェックしましょう」


 ブレーキワイヤーとスピードメーターのケーブルを外してアクスルナットを緩め、ブレーキパネルごとホイールを外します。


「ブレーキパネルに取付されているブレーキシューをチェックします。おや? ブレーキの調整代が無い状態なのにシューの摩擦材は残っています。これはおかしい」


 過去の整備で組み間違えたのでしょうか? とにあえず摩擦材が削れて粉まみれになったブレーキドラムを清掃します。


「プレーキダストは有害な成分が含まれているらしいのでブレーキクリーナーで洗い流します。おや?」


 ブレーキダストを洗い流したブレーキドラムを見ると、摩擦材の当たり面が周囲より凹んでいます。いや、そんな予感はしていたんです。距離を走ったカブがシューを交換してもブレーキの効きが悪いとか調整が出来ないとかを体験していますから。


「これは非常に良くない状況です。ドラムが減っていてはブレーキシューを新品にしたところで隙間は広いままです。これではブレーキレバーをガッツリ効くまで握る事ができません」


 途方に暮れた私は物置の奥に転がっていたフロントホイールを点検しました。どうやら同じものらしく形状は同じです。シューの当たり面もそれほど摩耗していません。


「仮組みしてみましょう」


 シューの残量は半分ほどあります。今までは調整ナットを目一杯締めこんでやっと握りしろが出るくらいでした。これで駄目ならブレーキワイヤーが伸びているのでしょう、


「ブレーキ調整ネジの締め込み量が今までの半分になりました」


 予想通り握りしろが出ました。新品のシューに交換したらさらに調整ナットの締め込み量が減るでしょう。このホイールを使います。


「使わないホイールを一旦元通りに組んで、今度使うホイールからすり減ったタイヤを外して錆落ししておきます」


 自分でタイヤ交換をすれば安上がりですが、今回は街のタイヤ屋さんに交換をお願いします。古いタイヤ外しておけば作業工賃を安くして貰える……とイイなぁと思います。


「タイヤレバーが一本しかありませんが、外すだけなら何とかなるでしょう」


 何でも自分でやってしまうイメージがあるかもしれませんが、安全にかかわる部分だけにプロに任せようと思います。じつは私、チューブ入りタイヤの交換経験がほとんどないのです。チューブ入りでも合わせホイールなら簡単なのですが、合わせじゃない奴はチューブが噛みこんだりしてどうも上手く出来ません。苦手なんです。


「何とかチューブを傷めずタイヤを外せました」


 ワイヤーブラシやサンドペーパーで浮き錆を取り除き、錆転換剤を吹き付けておきます。


「次は後輪です」


 ドラムの摩耗は何となく予想が付いていました。そこで後輪はあらかじめホイールを購入してあります。ところがハズレでして、使わないフロントホイールと同じくらいドラムが摩耗しています。


「ネットオークションは現物確認できないのが痛いですねぇ」


 元々ついていたホイールを確認すると、それほどブレーキドラムは摩耗していませんでした。摩耗限度が内径一三一ミリメートル。測定値は一三〇.二ミリメートルでした。


「ノギスで計測したので正確ではありません。ですが、明らかにドラムの程度は良好です」


 古いホイールに先ほど取り外したタイヤとチューブを組んで車体へ取り付けします。


「車輪が付いているので移動が楽に出来ます」


 ここで時刻は十六時半、暖かくなりましたが日が陰ると寒いです。本日の作業はここで終了します。

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