メーカー想定外の組み合わせ

 ホンダスーパーカブはシリーズ累計生産台数一億台を超える大ヒット作です。通称『カブ系』や『横型』と呼ばれる空冷単気筒エンジンは多くの車種に搭載され、世界中を駆け巡っています。


「その中で最もありふれているのがOHC・排気量49㏄のエンジンです」

 ※個人的見解です


 スーパーカブのエンジンは排気量ごとに細かな変更がされています。シリンダーやピストンの違いは一目見ただけで解りますが、同じ様に見えるクランクシャフトだってよく見れば排気量のモデルは部品の肉厚が増していたり、オイルポンプもよく見れば厚みが違って吐出量が増えていたり……等々。


「今回はCD50のクランクケースにカブ90のピストン・シリンダー・クランクシャフト・オイルポンプ・ヘッドを組み込みます」


 小型バイクの冷却方式で多い空冷式はオイルが重要です。潤滑だけではなくて冷却でも大きな役割を担うオイル。メーカーもその辺りを考えているのでしょう、90㏄エンジンは50㏄エンジンよりもオイルポンプの容量を増しています。


「今回は手元に有るホンダ純正カブ90用オイルポンプを使用します」


 予算に余裕があってホンダ純正部品にこだわるマニアは更に排気量の大きいスーパーカブ100EXの部品を使うのもよいでしょう。


「改造部品のメーカーが出している大容量オイルポンプを使うのも手段ですが、部品によっては遠心クラッチと接触する物があります」


 同じ系列のモンキーやマグナ50などのマニュアルクラッチ車は大丈夫です。遠心クラッチ車は遠心クラッチ本体とオイルポンプにクリアランスが必要です。


「念の為にオイルポンプは仮組してクリアランスを確認しましょう。今回は遠心クラッチ車のカブ90からの流用ですから問題は無いはず……ん? おかしいですね、オイルポンプがクランクケースに収まりません」


 ここで京の脳裏に以前ネットで見かけた文章が思い浮かびました。


―――カブ系五〇㏄用クランクケースにはオイルポンプが収まる凹が浅いものがある。カブ九〇のオイルポンプ駆動軸を使う時にブッシュが入らない場合があるので注意―――


 クランクシャフトがカブ五〇・七〇用ならブッシュを入れずにノーマルのポンプ駆動軸を使えば済む話です。ところが今回はカブ九〇用クランクシャフトを使います。カブ九〇用クランクシャフトはストロークが長く、クランクシャフト中心から離れた位置にコネクティングロッド(ピストンとクランクシャフトを繋ぐ部品)の大端部が来ます。それを避ける為にポンプ駆動軸は細いものを使います。


「これは困りました。クランクシャフトを避ける細い軸を使いたいのですが、細い軸を使った場合にクランクケース内で安定させるブッシュが使えません」


 ブッシュが使えなければポンプ駆動軸が安定しません。クランクケースの加工は素人では難しい作業です。ポンプ駆動軸のクランクシャフトが当る部分を削る手も有りますが、これも素人が作業するには難しく、回転部分だけあって下手に加工して破損したらと思うと手が出ません。ここで京はひらめきました。頭の上で電球が点灯したイメージでひらめきました。


「ポンプの凸をブッシュの分だけ削れば良いじゃないか……」


 せっかくですからオイルポンプ内もスラッジなどを取り除き、ガスケットも交換します。手持ちのオイルポンプは分解してみるとなかなか笑える汚れ具合でした。バラバラにしてクランクケースに収まる凸部分をダイヤヤスリを使って少しずつ削っていきます。寸法が出たらオイルストーンを使って油研ぎをして滑らかにしておきます。


「何とか取付けできました。これで潤滑に関してはカブ九〇と同じです」


 メーカーがやっていない組み合わせをする場合は自己責任で行いましょう。特に今回はホンダが開発した『走行中に四速から一速に入らない安全装置』無しで組み立てします。


「真似をするなとは言いませんが、同じ事をされる場合は自己責任でお願いします」


 さて、続いてはミッション・クランクシャフトの組み付けです。ガスケット(パッキンみたいなもの)を剥がして部品の合わせ面をオイルストーンで面出ししておきます。


「面出しとは部品の合わせ面に張り付いたガスケットや細かな傷を砥石で削り、真っ平らにする作業です」


 この作業を行わないと後々オイル漏れをする恐れがあります。古いガスケットやガスケットを剥がす時にスクレーパーで付けてしまった傷がオイルの通路となる可能性があります。必ずやっておきましょう。


「今回はCD50のクランクケースにCD50のトランスミッションを組むのですから難しい事は考えなくて大丈夫です。クランクシャフトも特に考える部分は無く、垂直を出してソッと押し込めば組み付けできます」


 クランクシャフトは挿入時に少し抵抗があるくらいがベストです。出来るだけクランクケースを温めておきましょう。ベアリングが収まる穴が膨張して大きくなり、スムーズに組立できます。


「新品のガスケットを挟んでクランクケースのボルトを仮組しておきます」


 ここでミッションがシフトチェンジできるかチェックしておきましょう。ボルトを本締めしてしまうとサイド分解する時にガスケットが破れてしまったりします。


「ミッションが仮組みできました。続いてギヤシフトアームやシフトスピンドルを組みつけます。ギヤシフトアームはカブの四速ミッション車の物を、シフトスピンドルはセル無しのカブの物を使います」


 ギヤシフトアームは四速用と三速用を並べて見比べなければわからない程の違いがあります。たしか四速用には『N』と刻印があったはず。シフトスピンドルはセル付きの物は長いのでセル無しエンジンに四速ミッションを組み付ける場合は部品取りのカブ50カスタムの部品を間違えて取り付けないようにしましょう。


「さて、次は動力の伝達を断続するクラッチの組み付けです。今回はカブ90の部品を使ってカブ90と同じパワーの出るエンジンを作ります。だからクラッチもカブ90用を使います」


 見た目は同じですがスーパーカブ90の遠心クラッチはスプリングが強かったりクラッチウェイトの数が多かったりと50用と比べて強化されています。


「今回は使いませんが、社外のカブ50用強化遠心クラッチを買ってもよいでしょう。やっている事は同じです」


 ああ、困りました。手持ちの部品の中にカブ90の遠心クラッチがありません。


「カブ90用のクラッチスプリングとクラッチウェイトを取付けする部品(ドライブプレート)を購入してカブ90クラッチを作っても良いのですが、新型コロナウイルスの影響でstayhomeです」


 そこで今回は社外のクラッチを買ってみます。


「某オークションで一時減速比をハイギヤにする強化遠心クラッチを見つけました。面白そうなので入札してみましょう」


 一次減速比をハイギヤにするとタイヤ系が小さな車種(モンキー・ゴリラ・DAX)のドライブスプロケットを小さく出来ます。


「今回のエンジンはホンダゴリラに載せる予定です。セッティングの範囲を広くするために使ってみましょう」


 ところが、この一時減速比をハイギヤにする遠心クラッチキットが京を悩ませるのでした。次回は某オクで買った強化遠心クラッチキットについて書いていきたいと思います。

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