第172話 長い夜(1)
するとぶつけた衝撃で鼻血が出ていた。
八神は慌ててハンカチを取り出し、夏希の鼻を押さえた。
鼻の付け根をぐっと押さえて、
「こうすると止まるから、」
「う~~~、」
もうボタンが外れたシャツのことはすっかり忘れ。
八神は無防備になった夏希の胸元に思わず目を逸らす。
「ぐ・・ぐるじい・・」
夏希は思わず八神にすがりつく。
「じっとしてろ、」
思わず片方の手を彼女の背中にやって抱き寄せる。
「い、いだいよ~~~、」
ベソをかく夏希に
「・・しゃべるな。」
実際
八神のほうがドキドキしていた。
他の女・・抱くなんてすっげ久しぶり。
「大丈夫だから、」
優しくそう言って夏希の頭を撫でた。
しばらくそうしていたら、鼻血はほどなく止まった。
「と・・止まりました。」
「ほんと?」
夏希は八神に借りたハンカチを見て言う。
彼女を抱きしめるように座っていた八神はハッとして彼女から離れる。
「あ~~、流血するとは、」
夏希は鼻をすすった。
八神は彼女の顔を見て、
「アザになってっぞ、鼻の上。」
「え、マジですか? どこ?」
「この辺・・」
彼女に顔を近づけてよーく見るように指をさそうとする。
それに夏希は驚いて、
「きゃーっ!!」
あまりに顔を近づけられたので、悲鳴を上げて思いっきり八神の頭を上から押さえつけてしまった。
「ぶ・・」
八神は夏希の胸を思わず鷲掴みして顔を埋めてしまった。
夏希は再び、
「きゃーっ! きゃーっ!!」
八神の頭を思いっきりひっぱたいてしまった。
「も、やだ・・」
八神は床に転がってしまった。
「な、なにすんですかっ!」
「おまえのせいだろ・・」
力なく言った。
あ~~、夜、なげー。
八神は寝つけずにため息をついた。
夏希は彼を警戒して、極端に離れたところに座って壁にもたれて上着をかけて寝ていた。
しっかし
びっくりした。
すっげ・・胸あった。
思わず自分の手を見てしまった。
いっつも男みたいなカッコしてたから、気づかなかったけど。
あ~~~
ヤバい。
頭をかきむしった。
そして
朝8時
扉の鍵がようやく開いた。
「た・・助かった、」
八神はもうヘロヘロだった。
夏希も上着を着て、取れたボタンの部分を隠すように立ち上がる。
そして開口一番こう言った。
「お、おなかすいた。」
「も・・助けて。 おなか空いちゃって、」
夏希はすぐに高宮に電話をした。
「ほんっと、心配したんだからなっ!!」
ものすごく怒られた。
「だって・・」
何とか言い訳をして、ふと八神をみやると、
一生懸命、電話なのに必死に頭を下げている。
彼女に電話してんだぁ。
その姿にふっと笑いがこみ上げてしまった。
その後。
守衛室に鍵を返しに行き、夏希はいきさつを話し、平謝りで謝った。
コトの真相は
一人で守衛室にいた警備員が急な腹痛でトイレに篭っていた時に夏希が黙って鍵を持ち出したらしかった。
お互いのミスだったので、譲り合って丸く収まった。
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