第171話 ピュア(4)

「あたし、八神さんの結婚式には絶対に行きますから! 招待してくださいね!」


夏希はいきなり張り切ってそう言いだした。


「いつになるかねぇ・・」


八神は苦笑いをした。


「彼女は待ってるかもしれないじゃないですかあ。 だって、八神さんと同い年でしょ?」


「まあね。 あ、誤解ないように言っておくけど。 向こうがおれのこと好きで、勝沼から追っかけて来たんだからな。」


「えっ、ほんとですか?」


「ほんとだよ。 おれ、だって美咲のことぜんぜん女として意識してなかったし。 むしろ、迷惑っつーか。 勘弁してくれって感じだったし。 でも、なんだろ。 うん、やっぱ、これは何度も言ったけど、消去法かなあ、」


「消去法?」


「だってそーだろ? 結婚ってさあ、一番好きな人とするもんじゃないじゃん。」


「はあ?」


「こいつしかいないって、そう思ったときするもんじゃん。」


とまたちょっと幼い笑顔を見せた。


「一生一緒に暮らしていけるか、とか堅苦しいもんじゃなくて。 ああ、こいつなら誰よりも自然にずうっといられるかなって。」


八神の深いお言葉に思わず


「・・20人くらいの女の子から選んだような言い方ですねえ。」


またも素直な発言をしてしまい、


「バカ、」


もう八神も笑ってしまった。



こうしてバカな話をしているうちに静かになったなあと思ったら、夏希は壁にもたれて眠っていた。


「ん~~、」


いきなり隣の八神のほうに倒れるようにもたれかかってきた。


「暑苦しい・・」


迷惑そうに頭をどかそうと思ったが、


いい匂い・・


彼女の髪のいい匂いにその手を止めた。




八神さんとなんて・・


高宮は夏希の部屋に行ったが、もちろん眠れなかった。



いや、


考えられない。


彼女はほんっと低いレベルで、いっつも八神さんと張り合って。


お互い自分よりバカなところ見つけて、喜んだりする程度で。



え~~??


マジかよ・・。


高宮は『サイアク』のことまで考えてしまった。




いつの間にか八神も眠ってしまっていた。


ん・・


なんか重・・。



目を開けると夏希は爆睡で、完璧に八神の膝枕で寝込んでいた。


「なに、コイツ・・。 暑いっつーの、」


彼女の肩を掴んで起こそうとしたが、乱暴に力を入れたので、シャツの胸のボタンが飛んでしまった。


「わっ!!」


ブラジャーが見えてしまった。


「え・・?」


その声で夏希が目を覚ました。


そして、自分の胸元を見て、


「えっ!!!」


一気に目が覚めて慌てて隠した。


「なっ、なにするんですかっ!!」


けだものを見るような目で、八神を見て慌てて離れた。


「な、なんもしてないって!! してない!」


八神は焦って否定をする。


「八神さんってそーゆー人だったんですかぁ!?」


「だから!! おまえがおれの膝枕で寝てっから! 重いからどかそうと思って! ここ引っ張ったら!」


肩を指差す。


「も、もーっ!!」


夏希は寝ぼけていたこともあり、パニックになって慌てて立ち上がった。


その時、ちょっと飛び出していた棚に顔を思いっきりぶつけてしまった。



「いっ・・」


「何やってんだよ、バカ!」


八神は彼女に近づく。


夏希は顔を両手で抑えて、よろけた。


「おい!」


彼女の重みで八神も一緒にひっくり返ってしまう。


「いってぇ・・。」


「う~~~~、」


夏希はうめき声をあげて、手を離すと血がついていた。


「血!!!」


それに驚きさらにパニくる。


「え、どした?」


八神も慌てて彼女を見る。




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