第150話 愛しいひと(1)

夏希はひたすら吐いた後、疲れきってそのまんま眠り込んでしまった。


「はああ、」


高宮はその脇に座って彼女の寝顔を見る。


さっきぶつけたオデコがアザになっている。


そのアザを優しく撫でた。


疲れるけど


ほんっとに・・カワイイよ。


ああいう子供っぽい言動しかできないところが。



高宮はふと思い出して、自分の後頭部を触り、


「いて・・コブできてるし、」


いちいち迷惑かけられるけど。


ずうっと一緒にいたい。


夏希の手を握り締めた。




「・・あれ?」


夏希はのっそりと起き上がった。


隣には高宮が寝ている。


「りゅ・・うちゃん?」


高宮も目を覚まし、


「あ、おはよ。 気分、良くなった?」


アクビをしながら起き上がる。


「気分・・?」


「昨日、めちゃくちゃ吐いてたじゃん、」


そう言われて思い出した。


「そう言えば・・」


言ってハッとして、いきなり起き出した。


夏希はリビングですごい勢いで探し物を始めた。



「なんなんだよ、」


すると、テーブルの上にあった指輪のケースを見つけ、中を確認し、


「・・あった!」


ぱああっと嬉しそうに笑顔になった。


「は~~~。 指輪・・」


うっとりとした。


「それを、探してたの?」


夏希は愛しそうにそれを抱きしめるように


「うん、夢じゃなかった・・」



そこまで喜んでもらうと本当に嬉しくて、


「今日、直してもらうから。」


高宮はそれを彼女から受け取った。


「一緒に、ジュエリーショップに行って、んで、今日こそホテルで食事して。」


「え、」


「ほんと。 ごめんな。 昨日は。」


優しい彼の笑顔に、


夏希はゆうべの自分の愚行を思い出し、かあああっと赤面するほど恥ずかしくなった。


「ごっ、ごめんなさい!」


「え?」


「も~~! ひとりでバクハツして、・・泣いてわめいて。 挙句の果てに食べすぎと飲みすぎで吐きまくって、」


両手で耳を押さえてぶんぶんと頭を左右に振った。


もう消し去れるものなら消し去りたい。


そんな彼女に高宮はハハっと笑って、


「そんなの。 別に想定内だし。」


「想定内って、」


「まあ。おれも焦ったけど。 でも、うん、全部カワイイから、」


と言われて、また別の意味で赤くなった。


そして、気づいたようにオデコに手をやり、


「い、た~~い! なにコレ、」


「紫色になってるよ。 ほんっと顔ケガするね。」


「あたし、何したんですかね?」


と言ったので、


「覚えてないの?」


また笑ってしまった。


「ハア」


「ドアが開く前にすんごい音がしたから、どっかぶつけたんじゃない?」


「え~? そうかなあ・・」


夏希は鏡の前に行き、


「わ! スゴっ! どーしよ、コレ。」


いきなり焦り始めた。



またそんな彼女が本当におかしくて、かわいくて。

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