第131話 帰省(4)

「もう、どこ行ってたの。 お迎え火焚いちゃうよ、」


家に帰ると母が玄関前で待っていた。


「あ・・すみません、」


高宮は今の今まで彼女にしていたことを思うと、母に申し訳ない気がした。


「ごめんごめん。 新聞紙持ってきた?」


「火をつけるだけだよ。」


母はホウロクの上に置かれた木にマッチで新聞紙から火をつけた。



煙がぱあっと空高く舞い上がる。


この煙を目印に


亡くなった人が家に戻ってくるって


聞いたことはあるけど


実際にこうしてやってみるのは初めてだ。



高宮は夕暮れの空を見上げた。



彼女の大好きな


お父さんが


帰ってくる。




『加瀬、高宮のことお父さんみたいって言ってた、』


南にそう言われたことを思い出す。


お父さんか。


ちょっと、複雑だけど。



でも


そんなに大事な人と同等に思われてると思うと


本当に嬉しい。


きっと


いいお父さんだったんだろうな。


彼女の口から父親の話をされるたびに


そう思う。




家の中に入って、もう一度仏壇に手を合わせたあと、


「あれっ!」


夏希は食卓を見て驚いた。


「なに?」


「めちゃくちゃ普通のゴハンじゃん。」


「はあ? 普通でいいんじゃないの?」


母は言う。


「だってさ、肉じゃがと漬物と、お刺身がちょっとあって。 あと、もずく酢とか。 コレ、普通の夕飯だよ? せっかく隆ちゃんが来てくれたのに、」


不満そうに言う彼女に、


「そんな風に言うもんじゃないよ。 おれはこういうのが大好きだ。 おいしそうです。 いっただきます!」


高宮はニッコリ笑って食べ始めた。


「うん、おいしいです、」


と母に言った。


「ほら。 普通のゴハンが一番だって、」


母も笑った。


「仕方なく言ってんだよ、」


夏希はまだ納得がいかなかった。


「本当に美味しいよ。 あんまりこういうキチンとしたゴハン、食べないから。」


「え、あんたゴハンとか作ってあげてないの?」


母が普通に言うと、二人はドキっとした。


「え、そんなには作らないよ。 たまに。」


夏希は恥ずかしそうに言う。


「不思議な料理をな、」


高宮は笑った。


「不思議って!」


「ハハハ! 不思議だって!」


母にも思いっきり笑われた。


「そういう料理を娘に教えたのは誰よ!」


夏希は口を尖らせた。




食卓は3人だけでも、にぎやかだった。


というか、ほとんど母と夏希が騒々しく話をしているだけで、高宮は笑ってそれを聞いているだけなのだが。


「隆ちゃん、おかわりは?」


夏希が手を出した。


「もう、おなかいっぱいだよ、」


「え、まだ一膳しか食べてないじゃないですか。 普通は二膳はいくでしょう、」


「おれ、そんなにメシ食わないもん、」


「ダメだなァ、」


夏希は自分の茶碗に二膳目のゴハンを山盛りによそいはじめた。


「よく食べるでしょ? バカみたいに、」


母がそう言ったので、高宮は危うく味噌汁を吹き出しそうになってしまった。




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