第120話 夏模様(3)

「わ~~、かっわい~やーん!」


「ほんと。 すっごい変わる。」



そして土曜日。


南の家で『ゆかたまつり』が行われることになり、夏希も南や萌香に着付けやメイクをしてもらった。


「ほんと、すっごくよく似合う。 その柄もステキで、」


志藤の妻ゆうこも子供たちと一緒にやってきた。


「そ、そうですか?」


夏希は慣れない格好に大いに照れた。


「普段メイクしてない分、別人のようになるわね、」


萌香も鏡越しに微笑んだ。



確かに


背が高くて、手足も長くて、顔が小さい彼女はだいたい何を着ても様になった。


普段の手入れがなっていないだけで・・・。



「あ~、この姿を高宮に見せたいなあ。」


南は残念がった。


「社長と、パーティーにって、」


「そうやねん。 早く来れるといいのに。 びっくりするよ、」


すると、横で髪をとかしていた、志藤の娘・ひなたが


「カレシ?」


と大人っぽく割って入ってきたので、


「えっ・・あ~、まあ・・」


夏希は照れた。


「社長さんのひしょなの? えらいんだあ。 ね、しょうかいして!」


小学校5年生になったひなたはもういっぱしだった。


「もう、なにを言ってるの。」


ゆうこはひなたをたしなめた。


「ね~、みーちゃん、ひなたもアタマ、なっちゃんみたいにしたい~。 やって、」


「ハイハイ。 ちょっと待ってな。 なっちゃんの仕上げやから、」


「でも、マジ、なっちゃん、すっごいかわいいよ。」


ひなたにも褒められた。


「あ、ありがと。 なんか恥ずかしいなあ。」



鏡の中の自分は


なんだか自分じゃないみたいで


口紅だって


めんどくさくてしないこともあるってゆーのに。



「加瀬?」


男性陣は大変身した夏希にざわめいた。


「・・ごっ・・ごくろうさまです。」


あんまり注目されて夏希はもう大きな体を小さくして目を逸らしながらお辞儀をした。


「は~、女やったんやなあ、」


志藤が思いっきりそう言うと、


「もう、失礼よ。 でも、本当にカワイイし、」


ゆうこは彼を小突いた。


「うん。まあ、あれならつきあってもええかな、」


「はあ?」


「一緒に連れて歩くくらいはOKやな、」


志藤はアハハと笑った。



斯波は


そんな彼女に恥ずかしくて近寄っていくことさえできなかった。


「ほんまにモデル顔負けでしょ? あのゆかたもすっごくよく似合う。」


萌香は彼に言う。


「・・ん・・」



まるで


娘の花嫁姿を正視できないお父さんだった。


萌香はおかしくてうちわで顔を隠すようにクスっと笑った。


そんな中。



「あれっ?」


あとからやってきた八神が、夏希の異様さに気づいて顔を覗き込みながら思いっきり近づいた。


「な、なんですか?」


夏希は恥ずかしそうに背を向けた。


「加瀬~?」


コドモな彼は思いっきり指を指した。


「も~、なんなんですかあ? 失礼な、」


夏希はむっとした。



「やっぱ、加瀬だ。 へええええ。」


長い感嘆詞を発したあと、


「化粧ってすげーな。」


また子供みたいな感想を述べた。



みんなそれを遠巻きに見ていて、おかしくてたまらない。


「はいはい、そーでしょうよ。 中身はおんなじですからね、」


夏希はヤケになってそう言った。


「でも~、 カワイイじゃん、」


また、シレっとして普通にそう言ったので、


「なっ・・」


夏希のほうが赤面してしまった。


南が耐え切れず笑いながら寄ってきて、


「もう八神ってば。 ほんまに子供なんやから、」


と彼の背中を叩いた。


「は? なに?」


「子供みたいな感想言っちゃって。」


「え、まあ、これが歩いてたらフツーにナンパするかな、とか。」


「な~? かわいいやろ~? 加瀬ってさあ、普段いじってないだけで、基礎はいいからさあ。 普段も、もうちょっとメイクとかすればええのに、」


「なんか化粧って、めんどくさいし。 汗かくとヤだし。」


夏希は言う。


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