第111話 責任(2)

夏希の頭を愛しそうに撫でた。


責任取るの意味も


なんだかわかってないなんて。


高宮はおかしくてふっと笑ってしまった。



いいよ。


もし、妊娠してても。


おれ、


絶対に責任取るから。


むしろ


そのきっかけを期待してる自分がいることにも気づく。



彼女には悪いけど


おれは


彼女と。




結局


高宮は泊まってしまった。



出張帰りで残業をし、疲れていたこともあって、翌日の日曜日の朝になってもなかなか起きられない。


10時ごろのそっと起きていく。


「おはよ、」


「あ、おはよーございまーす。 やっぱ、ジャージ、ちょっとちっさいですね。」


ゆうべは彼女のジャージを借りて寝てしまった。


「ん~~、」


「朝ごはん作っておきました。」


夏希はテーブルを指差す。


「おにぎり?」


「はい!」


満面の笑みで。



それを食べてぎょっとした。


「え、なにこれ、」


「チーズとかつおぶしです。 おいしーでしょ! 最近、ハマってるんですぅ~。」


「まずくはないけどさ。」


「え、ダメですか?」


「や、かつおぶしだけでいいかな、とか。」


「え、それじゃ普通じゃないですか、」


「普通でよくね?」


またおかしさが湧き上がってくる。




「どっか、行く?」


高宮は夏希に言った。


「うーん。 なんか、ほんとテンション下がっちゃったな、」


夏希は、はあっとため息をつく。


「大丈夫。 明日、ほんっと、おれも一緒に病院行くから。」


とにっこり笑う。


「・・なんか、嬉しそうですね。」


夏希は彼をジロっと睨んだ。


「え! 嬉しいなんて! ほんと、心配してるから。」


と、彼女の肩を抱いた。



とりあえず


水族館でも行こうか的な話になり


二人は電車に乗って出かけた。


「水族館なんか久しぶり~。 大人になってからあんまり行ったことないなァ。」


夏希は言う。


「おれも。」


「高宮さんは動物園と水族館、どっちが好き? あたしはどっちかってゆーと水族館。」


夏希はにっこり笑う。



そんな彼女に


「ねえ、」


「え?」


「高宮さん・・じゃなくてさあ。」


「へ?」


またいつもの素っ頓狂な『へ?』が出て、ちょっとキモチが萎えるが、


「なんかよそよそしいよ。」


「なにが?」


「なにがって! だからさあ、名前で呼び合うとかさあ、」


と照れながら言うと、


「・・なまえ。」


夏希はつぶやいた。



あれ?


高宮さんの名前って



思い起こそうとしたが


今まで確認をしたことがなかったので思い出せない。



この沈黙に、


「ひょっとして、おれの名前、知らない?」


高宮は嫌な予感がして聞いてみた。



「えっ!!」


ギクっとして、


「そっ・・そんなことあるわけないじゃないですか。」



ぜったいに


わかってねえ。



高宮は深いため息をついた。



「あ、ごめんなさい、ごめんなさい! ウソです、ウソですから!」


夏希は慌てて高宮にすがる。


「なにが、ウソなのかもわかんねーし、」


「あたし、ほんっとバカだから、」


「バカとかそういう次元じゃないよ。 はあああ、寂しいなあ。」


オーバーにがっくりしてみた。


「あ~! ほんっとにごめんなさい!」


夏希は彼の腕にすがりついた。


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