第79話 暗雲(2)

「だいじょぶ?」


南は夏希を部屋まで送り届けた。


「すみません・・忙しいのに、」


いつもの彼女とは程遠いほど元気がなかった。


心配そうな南に、



「大丈夫ですから、ほんと・・」


とひきつった笑顔を見せるが、


全然、だいじょぶちゃうやんか。


南は彼女の表情を見てそう思った。





高宮は夜になりようやく帰社できた。


「Please resemble the contract・・ok,」


南は高宮の電話が終わるのを待っていた。


「・・・?」


高宮は受話器を置いて南に気づいた。


「ちょっと、いい?」






「え・・」


南は高宮を誰もいない資料室に連れ出した。


「へんなの。 今朝からずうっと。 なんか具合悪いんやないかって思ったんやけど。 昼過ぎごろ、事業部で倒れこんじゃって。」


その言葉に高宮は驚きを顔に出す。


「なんかあったの?って全然聞けないくらい、様子がおかしいの。 いつもの加瀬とちゃうねん。 とにかく。」


南の言葉が胸にズキズキと突き刺さる。


「高宮と、なんかあった?」



どうしよう・・



高宮は激しく動揺した。


おれの・・せいだ。


おれが・・。



「高宮?」


南が彼の顔色を伺う。



「すみません・・」


彼女の問いには答えずに部屋を出て行ってしまった。





夏希はベッドに横になってぼうっとしていた。



高宮さん・・


なんかあったんだ。


ぜったい・・。


そうに決まってる。


だから


あんなこと。




目を閉じるとゆうべのことを生々しく思い出してしまい、恐怖が蘇る。



でも


怖かった・・。


すっごく、



シーツをぎゅっと掴んだ。



あんなに


あんなに楽しかったのに。


優しかったのに。


子供すぎるあたしのこと


いっつも温かく見ててくれたのに。



自分の体を貪る時の


彼の見たことのない顔


声・・。




男の人ってみんなああなの??




大きな体を小さく縮めるように泣いてしまった。



高宮はなんとか仕事を切り上げて、彼女のマンションに向かった。


下でインターホンを押す。



夏希は部屋でドキっとした。


誰?


体が震えて動けない。


高宮さん?


でも


体が・・動かないよ。




出てくれない彼女に、携帯で電話もしてみたがナシのつぶてだった。


その時、他の住人がマンションの入り口から入っていくのを見て、それに便乗して入って行く。


そして彼女の部屋の前に来てもう一度インターホンを鳴らすが、


やはり出てこない。



どうしたらいいんだ・・。



高宮はもう正気でいられなくなっていた。


そしてドアをノックする。



え・・?



夏希はのそっと起き上がった。




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