第76話 雨(3)

「た・・高宮さん!」


夏希は驚いて彼を制するように声をあげた。


高宮はそんな彼女の口を塞ぐように激しいキスをした。



何度も


何度も。



そのキスが首筋に移ったとき


夏希は初めて


『怖い』


と思った。



高宮はいきなりガバっと起き上がる。



え・・・?



目が


いつもの彼ではない。


優しくて


自分のことを本当に大事に慈しんでくれていたあの目ではない。


怖くて


激しい目。



そして自分を見ていない


・・・目。




高宮はいきなり自分のジーンズのベルトを急いで外し始める。


「高宮さん!」


そして、上に着ていたシャツも脱ぎ捨てた。



なに・・?



夏希は


体が金縛りになったように動かなくなってしまった。



再び自分の上に圧し掛かってきた高宮は夏希の胸を服の上からまさぐる。



どーしちゃったの・・?


なんで・・?



もう何が何だかわからなかった。


着ていたシャツのボタンが引きちぎられるほど強引に脱がされた。



声・・


出ない。



この人は


誰・・?



興奮したように


息を乱し


苦しそうに


小さな声をあげて。



夏希はもう体に力が入らず、彼にされるがままだった。



いつのまにか


煌々とついた灯りの下で


裸にされて


彼もいつの間にかに


全裸になって




高宮さんじゃない・・



この人は


あたしの


大好きな


高宮さんじゃない・・。



涙が溢れてきて止まらなかった。


体の全てを彼に投げ出して


まるで人形のように扱われ。


頭の中は霧が立ち込めるように


ぼーっとして。




その瞬間



-!!!


まるで


体が真っ二つにひきさかれるかのような


痛みが全身を襲った。



「い・・・」




ようやく


言葉が出た。


「いっ・・いやっ!!!」




彼女の叫びは


高宮の耳には


届いていなかった。




『・すき・・です、』


『ずっと・・一緒にいたいなって・・』



彼女の笑顔がぼんやりと


彼の脳裏にいったりきたりしていた。



そして


テレビの砂の嵐のように


ザーッとその映像は消え。



その音が


雨の音だと気づくまでに


どのくらいの時間が経ったのか。



高宮は重いまぶたを開けて、重い頭も持ち上げた。


真っ暗の部屋に


カーテンの隙間から外の灯りがちょっとだけ漏れて


真っ白な天井に


雨のカーテンを映し出していた。



服を纏わずに毛布に包まっていた自分に気づき。


数時間前のことを


記憶の断片をつなぎ合わせて思い出し始めた。



加瀬・・さん・・?


ベッドには自分ひとりだった。


おれ・・・


自分がしたことを


思い出すのが怖い。



それでも


嫌でも


その『怖い記憶』が


頭の中で何度も何度もリプレイされる。


信じられない気持ちで慌てて服を下だけ着て、寝室を出る。


ドアをそっと開けると、リビングのソファに座る夏希の後姿があった。



その背中は


泣いていることがはっきりとわかって。


手を額に押し当てて、声を押し殺して泣いている。



おれは・・。



高宮は自分がしてしまったことの重大さを思い知る。



なんて・・こと・・。





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