第64話 心配(1)

「あ、どこ行くの?」


秘書課を出ると南にバッタリ会ってしまった。


あ~~~。


高宮は壁に向かってうんざりした。


長くなる・・。




「あたしに内緒で行こうとして・・」


『新月』に来た3人はテーブル席に座った。


「内緒って。 なんでおまえを誘わなアカンねん、」

志藤はブツブツ言いながら座った。


「高宮だってなあ、こんなオッサンと飲んでへんで加瀬んトコ行きたいしなあ、」

南に突っ込まれ、


「いちいちそんなことまで気を回さなくていいですから・・」


本当にほっといてほしかった。


「え~? なに、帰ってきてからうまくいってんの?」

南はさらに身を乗り出して聞いてくる。


「え、ま、まあ。」


「GWにさあ、加瀬ってばお母さんに仮病使って帰らなかったんだよ、」

南は志藤にチクった。


「え、ほんま? なんで?」


「そりゃも~。 高宮といたかったからに決まってるやん! かっわいいやろ?」

志藤の腕を小突いた。


「え~~? そこまでする?」

志藤は運ばれてきた生ビールを飲みながら言った。


高宮は少し赤面しながら、

「その後・・大変なことになっちゃって…」

ボソっと話し始めた。




「え~! 加瀬のお母さんが???」


「はあ。 行きがかり上、ディズニーランドにも行っちゃったし。」


「すっごいやん。 いきなりお母さんにも取り入っても~!」

南は高宮をからかった。


「取り入って、なんて。 でも・・いいお母さんだなあって。 つくづく。」


「その前に来たときにね。 事業部の全員に菓子折りを持ってきてくれて。 明るくて、ほんまに加瀬のお母さんって感じの人で。 一緒に食事もしたんやけど。 母一人子一人やんかあ。 すっごく娘のことは心配してるけど、あったかく見守ってるっていうか。 」


南の言葉に、

「ほんとその通りの人でした、」

高宮はふと微笑んだ。


「まあ、でも。 いちおうお母さんにも認められたってことで。 安心やん、」

志藤は言う。


「まあ・・」

何だか顔が緩んで止まらない。


この前のことだって。

彼女なりにおれのこと考えてくれてたんだって

思うだけで。

めちゃくちゃ嬉しいのに。



「なんっかもう明るい未来しかないな。 意味なく腹立つ、」

志藤は言い放った。


ちょっとイジワルをしたくなり、


「でも。 加瀬ってけっこうモテるよなぁ~。」

と言い出した。


「は?」


「この前。 斯波がチラっと言ってたんやけど。 レックスの牧村、加瀬にコクったらしいで、」


「はあ?」

二人は驚いた。


「ほんま? 牧村さんが?」

南は激しく驚いた。


「んで、ちょっと加瀬にレックスとの仕事、距離置かせたとか言って。 あいつもほんまにカタイなあ、」

志藤はタバコを燻らせながら言った。



レックスの・・牧村?



高宮はその名前で記憶を手繰り寄せた。


そうだ・・

彼女が

すっごくいい人って、言ってた。

焼肉を一緒に食べたとか?


「牧村さんて、バツイチで志藤ちゃんと同い年やん、」


「独身やんかあ。 それでも。 おれもびっくりした。 加瀬やで? 加瀬、」


「ちょっとぉ。 めっちゃ怖い顔して考え込んでるやん、」


南は志藤があまりに言うので気にして高宮を見た。




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