第47話 初めての気持ち(2)
なんでウソついたの?
なんて。
ほんっと。
あたしだってお母さんに悪いと思ってる。
でも
そばに
いたかったんだもん。
それだけだったのに。
夕方南が秘書課に顔を出す。
「あれ? 高宮だけ?」
「え? ええ。 あなたもいたんですか?」
「ああ、今度の北都フィルのヴァイオリンの子、ソロでCD出すことになったからそのジャケ写の衣装のことで。 スタイリストさんのとこ寄ってきてん。事業部も今日は誰もいないよ。」
「そうですか。」
「帰ってきてからもあんたは忙しいなあ、」
「まあ、仕事が変わるとね。 でも・・戻ってこれたんだからこのくらいは。」
と仕事を続ける。
「加瀬とデートもでけへんなあ、」
「まあ。 帰ってきてからほとんど休みもなく。 残業の毎日ですから。」
「あれ、あの子、実家帰ってるんやったなあ、」
「それがね。 なんか昼間ここに来て。 ウソついて。 仮病使って帰るのやめちゃったとか言いに来て。」
「はあ?」
「そんなこと言ったらお母さん心配するよって。 何を考えてるんだか、」
とため息をつく。
南はその話を聞いてうーんと考えた。
そして
「あんたと一緒にいたかったんちゃうのん?」
と言い出し、
「は??」
高宮は顔を上げた。
「ずっと残業で顔もろくに合わせてへんかったんやろ?」
「まあ、そうですけど・・」
え? そうなの?
マジ?
高宮は初めてそれに気づいた。
「加瀬、何て言ってたの?」
「え・・別に。 おれがちょっと怒ったりしたら。 そんなの、わかってますよ!って。 逆ギレされて、」
「はああ、なるほど。 やっぱ、そうなんちゃうの? それなのにあんたが怒ったりするから。」
「怒るって! ちょっと諌めた程度で、」
「女心わかってな~い。」
南はアハハと笑って行ってしまった。
一人残された高宮は手が止まってしまい・・。
夏希はもう自分がどうしたいのさえもわからなかった。
ぼけーっと家でゴロ寝してテレビを見たりして過ごしていた。
ほんっと
何やってんだろ。
情けなくなってきた。
そこに。
インターホンが鳴る。
「はい・・」
と出ると、
「あ、おれ・・」
声でドキっとした。
「た・・高宮さん??」
「ちょっと、いい?」
ちょっと、いい?って
なに? なにっ???
「あ~~~っと。 あたし、今・・ジャージなんですけども、」
言うに事欠いてそんなことを言ってしまい、インターホン越しに高宮の笑い声が聞こえた。
「いいよ別に。 ジャージでも・・」
着替える間はなかったが、ボサボサの頭をささっと撫でてドアを開けた。
「ごめん、急に。」
高宮が笑顔で立っている。
「あ・・はあ・・どうぞ、」
ドキドキしながら部屋に入れた。
「今、デパ地下で買ってきたんだ。 すっごい美味しそうなピザ。 加瀬さんが好きそうだよ。」
と箱を見せた。
「あ・・」
それを受け取ったとたん、タイミングよくおなかがグーっと鳴ってしまい、高宮はまた大笑いした。
「ほんと正直だね。 おなか、」
「や・・お、お昼食べてなかったから!」
真っ赤になっていいわけをした。
「いいからいいから。 まだあったかいよ。 早く食べよう。」
高宮は優しく言った。
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