第45話 恋するふたり(4)

「ピッチャーライナー?」

高宮はさらに驚いた。


「は、はあ・・」

あまりに見つめられて恥ずかしくなってうつむいた。


「ちょっと! なんで電話くれなかったの?」


「え・・電話?」


「そんなケガしたのに! 病院は行った?」


「え、ええ。 別に何ともなかったんで、」


「なんだよ・・そんなになっちゃってんのに、」


あまりに彼が食いつくので、


「ほ、ほんと・・情けないので。 あんま見ないで下さい・・」

夏希は急いでまたマスクをした。


「野球もいいけどさあ。 現役退いてだいぶたつんだろ? ほんっと、いつまでもおんなじ気持ちでいちゃダメだって。 ケガするよ、」


「わ、わかってますけど。 なんっか・・後輩から『勝負!』なんて言われると。 黙ってらんないってゆーか、」


「負けず嫌いも、大概にしないと。」

最後はちょっと怒られた。


「・・はい、」

夏希は素直に頷いた。



う・・

わ~~~。

顔赤くしちゃって。

モジモジして。


八神は二人の様子を傍観してしまった。


恋・・しちゃってるんだなァ。




「なに、ソレ~!」

南は大笑いした。


「もう全然態度が変わっちゃって! おれは疑いをかけられるわ、足は踏まれるわ・・踏んだり蹴ったりですよ!」

八神は膨れた。


「そりゃ。 加瀬は人生初めてのカレシができたんやで? もう中学生と一緒やろ? 好きな人の前ではかわいい乙女でいたいやん、」


「かわいい乙女って!」


「なんか、そういうときめく気持ちって・・忘れちゃってると思わない? も~~、体中が痒くなる! でも、おもろいよね、」

南はお気楽に笑った。




「もうホント無駄遣いばっかりして。 一応、野菜とお米も送っておいたよ、」


「・・ゴメン、」


夏希は母から電話をもらった。


情けないが、母にSOSを出して食料を送ってもらうという手段に出た。


「あ、連休、いつ戻ってくるの?」


「えっと。 1泊2日なんだけど。 3日と4日。」


「電車の切符、とったの? そのくらいのお金は取ってあるんでしょうね。」


「ま、まだ・・」


「ゴールデンウイークなんだからいっぱいになっちゃうよ。早く取っておきな、」


「うん、」



なんだか

気持ちが晴れない。

その気持ちがなんなのか。

夏希は具体的に母に言えず。




相変わらず高宮は忙しかった。

それでも夏希がきちんと食事を採っているのかどうかは心配で、夜には電話を入れてくれる。


「今日さ、昼休みちょこっと不動産屋に行って。 いくつか候補の物件、コピーしてもらったんだ、」


「いいのありましたか?」


「うん。 やっぱり中目黒にしようかなあって、」


「え・・」


このマンションの近所だ。


「住みやすそうだし。 1DKくらいでいいから。 けっこう何軒かあってさ。 見に行く暇がないんだけど・・なんとか時間作って。 もう4月も終わっちゃうし。」


「そ・・そーなんですか、」

ドキドキが押さえきれない。



彼が

近くに住むって

想像しただけで。

もういろんな妄想が渦巻いて。


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