第41話 女心(3)

高宮は

自分の部屋に戻って、その

『ゼンマイ』柄のネクタイを手に取り、よ~~~く見た。


ふざけた柄だけど。


裏のタグを見ると

それなりのブランドで。


高かっただろうな。



そう思ったとき、ハッとした。


『なんでそんなに食費を削ってるの?』


『無駄遣いしちゃダメでしょ、』



彼女との会話を思い出した。



コレ

買うために?



いつもの彼女のお金のなさを考えると、こんなの買ったら結構な出費だ。



あんなに食いしん坊な子が。

おれのために食費を削って。



高宮はじわじわと感動してしまう。


そう思うと

この『ゼンマイ』柄も

本当に愛しい。

思わずネクタイを抱きしめた。




もう

いてもたってもいられずに彼女に電話をしてしまった。


「ど、どうしたんですか?」


さっき会っていたばかりなのに電話が来て夏希は驚く。


「あ・・ネクタイほんっとありがと。」


「え?」


そんなことまた言うために電話をしてきたんだろうか。


夏希は首を捻った。



「ゴハン、食べさせてあげるから。」

そうも言われ、


「はあ??」

わけがわからなかった。


「無理しちゃダメだよ。 ほんっとちゃんと食べないと、」


「はあ。 え、高宮さん、どうしちゃったんですか?」


「ネクタイ・・無理して買ってくれたんじゃないの?」


そう言われてドキンとした。



「えっ・・あ、無理ってわけでも! で、でもちょっとお金をやりくりするのが苦手なもんで。 衝動買いも多いし。 いつものことなんで、」


電話なのに否定するように手を振って答えた。



ほんっと

かわいいなあ。


高宮は心がものすごく熱くなってきた。


一応夏希の頭の中でも計算はしたものの、どうしてもそのネクタイが気になり、後日また一人で行って買ってしまった。


まあ、衝動買いみたいなもんで。


「た、食べすぎなので。 あたし。ほんとはそんな食べなくても生きていけますから。」


言うことが

いちいちかわいい。


「ううん。 おれはね、きみがおなかいっぱい食べてる所が好きなんだ。 明日からちょっと忙しくなるから一緒に食事とかできないかもしれないけど。 」


「あ、ほんっと大丈夫なんで。 ほんっとに困ったら、実家から食料も送ってもらうし。」


「おれにも相談して。 困った時は、」


ドキっとした。


「は、はい・・」


なんか

あたしって

いちいち心配かけるなあ。


夏希はさりげなく彼にプレゼントしたかったのに

返って気にされてしまったことに

自分の未熟さを感じてしまった。



高宮は翌日からもう仕事オンリーモードに入ってしまった。

ずっと秘書課にいたので、そんなに戸惑うことはないと思っていたのだが、


社長秘書は

格段に仕事が多い。


特に

北都社長は

ホクトエンターテイメントの他に、北都グループの総帥でもあるのでそちらの秘書も兼務する。

この日もほとんど外出で、夕方ごろやっと戻ってこれた。



「あ、おかえり~。 大変やな、いきなり外出ばっかり。」

秘書課で志藤と打ち合わせをしていた南が高宮に声をかけた。


「いえ、別に、」

いつものようにちょっと強がってあっさりと言う。


「ん???」


南は彼の胸元に視線がロックオン。


「な、なんですか?」

のけぞった。


「ゼンマイ・・」


南は思わずそのネクタイを手に取った。


ドキンとして、さらに後ずさりする。


南はネクタイと高宮の顔を交互に見ながら、


「あ~~~、そっか。 結局買ったわけね、」

とニヤニヤ笑う。


「変わった柄やな。和のテイストっぽい、」

志藤もそれに興味が惹かれた。


「これ、加瀬からのプレゼントなんやで~。」

南がからかうと、


「な、なんで・・」


高宮は焦った。


「え、マジ?」


志藤は驚いてそのネクタイを手に取りジーっと見る。


「ゼンマイ柄やで。 すごいやろ、」


「ほんまや。 へえ。 すっごい、変わってる~~。」


「この前、加瀬と買い物に行った時さあ、なんか異様にこのネクタイに食いついちゃって。 そんときは買わなかったんやけど。 よっぽど気に入ったんやな、」


「加瀬っぽいけどな。 まあ、決してセンスは悪くないけど。 ゼンマイかよ、」

志藤は笑った。


高宮はムッとして、

「彼女が自分の食費を削っておれにプレゼントしてくれたんです!! もう、おれほんっと彼女の食い気に勝てないんじゃないかってずうっと思ってたから! マジ・・感動してるんですよ。」


最後は頬を赤らめてそう言った。


「食い気に勝てないだって!」

南はウケて志藤の腕を叩いて大笑いした。


「なんかもう哀れになってくるな、」

志藤も笑ってしまった。


そんな二人のからかいも

高宮には聞こえていないほど、またそのネクタイを愛しそうに撫でたりしていた。

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