第37話 いよいよ帰る(2)
「はああああ、おいし~~~!!」
夏希はカツ丼をかきこんだ。
「あんまり慌てて食べると本当におなかが痛くなるよ、」
牧村は笑った。
やっぱり
負けてしまった…。
情けないけど。
やっぱ
人間食べないと生きていけないし。
一生懸命そうやって自分を納得させていた。
「あ、高宮さん。」
また大阪に戻ろうとすると、萌香に会った。
この前の彼女の話を思い出し、ちょっとドキンとした。
「・・ども、」
「また大阪に戻るの? 大変ね、」
いつもの彼女だった。
「来週から正式に出勤になります。 どうぞ、よろしく。」
「こちらこそ。 加瀬さん、外出してしまって。」
「聞いてます。 まあ、今日はしょうがないんで。」
「相変わらず毎日おなかを空かせてて。 ちょっと心配なんだけど、」
「ってまだ月初なのに?」
「昨日のお昼も抜いてたみたいで・・。」
「また、無駄遣いしてるんだな、」
「まあ、怒らないであげて。私も食事くらい面倒見るし。」
そう
何も変わらない。
彼女を見る目も。
結局
この日は夏希は高宮に会えずじまいになってしまった。
「なんでそんなに食費削ってるの?」
心配になって高宮は夏希に電話をかけた。
「えっ・・」
「またヘンなもん通販で買ったんじゃないの? 無駄遣いしちゃダメだって言ったでしょ、」
まるで
お母さんのように注意した。
「ちゃ、ちゃんと食べますから。さっき、夕飯は栗栖さんとこでごちそうになったんです。 お昼も自分でおにぎりを作って持って行ってるし、」
夏希は気まずそうにそう言った。
それでも
また食べ物に釣られて
牧村に奢ってもらってしまったので。
ものすごい自己嫌悪に陥っていた。
「日曜日、何が食べたい?」
高宮は優しくそう言った。
「え・・っと、」
答えに困っていると、
「焼肉?」
と言われてドキーっとした。
「やっ、焼肉って! あたし別にいっつも肉ばっか食べたいとか思って・・ないし!」
「え? 違った?」
焼肉・・。
さっき夕飯をごちそうになったばかりなのに
もう焼肉のことを考えると
おなかが空いてくる。
「ま、合ってますけど、」
と答えた。
高宮はまたおかしそうに笑って、
「じゃ、焼肉にしよう、」
と言った。
そして、翌日。
「あ、明日、ですか。」
「うん。 牧村さんと専務も明日出るって言うし。 もうつめていかないと間に合わないから。」
斯波は書類を夏希に手渡した。
「は・・はい。」
「え、明日って・・加瀬、」
南が席を立って言おうとすると、
「あ、全然! 大丈夫ですから!」
夏希はそれを制するように言った。
「それ、あたしが行くよ。」
南の言葉に、斯波は仕事をしながら
「南!」
と注意をした。
「え・・ちょっと、」
南は不満そうに斯波に歩み寄る。
「南さん、ホント。 これはもうあたしの仕事なんで。 じゃ、ちょっと経理に行ってきます。」
夏希は笑顔で部屋を出た。
「も~~、明日はさあ、」
南はまだ斯波に食い下がっている。
「知ってるよ、」
斯波はいつものようにボソっとそう言った。
「え?」
「高宮が帰ってくるんだろ? 萌から聞いてる。」
「だったら!」
斯波は顔を上げて彼女を見て、
「でも。 関係ない。 あいつにも少しずつ企画の仕事覚えてもらわないといけないし。 まだ慣れないで仕事遅れ気味でレックスに迷惑かけてるから。 それはあいつの責任だ。」
厳しくそう言った。
「そう、だけど・・・」
「あいつはまだまだ半人前だ。 そんくらいのことで甘い顔を見せてたら育たないだろ?」
斯波の言葉に南はため息をついた。
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