第35話 もうすぐ(3)

「ま、ええやん。 あんたもゴハン奢ってもらってばっかやし、たまには意味なくプレゼントっていうのも、」


南はたくさんあるネクタイをひとつひとつ手に取った。


「高宮、けっこうオシャレやからな~、」


もちろん男性が身につけるものをプレゼントするのが初めてな夏希は何が何だかもうわからなかった。


しかし


ある1本のネクタイの前で彼女は固まった。



「コレ・・」


「え?」

南が覗き込むと、


「コレ、何の模様ですかね、」

そのネクタイは不思議な模様だった。


「は?なんやろ。ペイズリーやないし。 ゼンマイ?」


深いグリーンの地にグレーの『ゼンマイ』らしき図柄があしらってある。



「ゼンマイ。 ゼンマイだぁ…」

夏希は妙に感心してしまった。


彼女が異様に食いついてるのに気づいて、

「ま、まさかソレにするの?」


決してセンスが悪いわけではないが、

『ゼンマイ』だし。


夏希は自分の懐具合を一生懸命計算している様子で、目をつぶり


「また今度にします。」

とそのネクタイを置いてしまった。


「あ、そ・・」

南は何となくホッとした。




「とりあえず4月1日に辞令を受けにそっち行くけど、またすぐに大阪に戻らなくちゃならなくなって。 日曜の午後に戻ることになったよ。」


その夜、高宮から電話があった。


「そうなんですか。忙しいですね。」


「まあ・・ね。」


「住むトコとかはどうするんですか?」


「会社にお願いして1ヶ月くらいマンスリーマンション借りてもらう。 荷物もコンテナルームに預かってもらって。ゆっくり探したいから。」


「そういうのも全然できないですね、」


「斯波さんのマンション、空いてないのかな。」

冗談っぽく言うと、


「えっ・・」


夏希は本気にして固まってしまった。



それが目に浮かんでしまい、

「ウソウソ。 すっごい監視されそうだからいいよ。」

高宮は笑う。


しかし、


「でも、その近所もなかなかいいよね。 便利だし。 会社には地下鉄で3つだし。 そこで探そうかな、」

今度は本気で言った。



「え・・」


またドキンとした。


急速に

彼が近づいてくる気がして

嬉しいけど


少し

怖い。


「まあ、そういうこともこれから。 まだまだ、会社のデスクも整理できない状態だし。 1日の日は忙しいけど、日曜は駅まで迎えに来てくれない?」

ドキっとした。


「あ、ハイ。」

夏希は小さく頷いた。


そしてふっと思い出し、


「高宮さんて、お誕生日っていつなんですか?」


「誕生日? 1月の20日だけど。」

なんでそんなことを聞くのか、と思った。


「1月20日??? じゃ、もう過ぎちゃったんですか?」


「まあ、」


「で、いくつになったんですか?」

さらに聞いてくる彼女に、


「28になったけど・・」

押され気味に答える。


「28ですかあ。」


「なんなの? いったい、」


「あたし、ほんと高宮さんにお世話になってばっかりで。お誕生日くらいプレゼント、とか思ったんですけど・・」


「そんなの。 今さら誕生日なんか祝われたくないって、」

笑ってしまった。


「え、あたしはすっごい嬉しいですけど、」


「若いな・・ていうか。 コドモだな、」

またふっと微笑む。


「べ、別に! ローソクとか吹き消したりしてないですから!」

ムキになる彼女がかわいい。


「ほんとに。 別にいいから。 加瀬さんが、いてくれるだけでいいから。」


「え、」


「一緒にいられるだけで。いいよ。」


その言葉に

夏希は全身鳥肌だった。


どんどん

どんどん

胸がいっぱいになって。



逢いたい。



心で思ってただけのはずなのに。


「え・・?」

高宮は彼女の呟きを聞き逃さなかった。


「今、なんて?」


「え!」

思わず口に出してしまったのか、と思ったらすっごく恥ずかしくなった。


「あ・・あたし、今、言ってました?」


「う、うん、」


「ほんとにもう! あたし、すぐに口に出すねって友達からも注意されるんですよ! 普通、こういうこと言っていいかな、とか頭で整理するけど、全く無意識に口から出ちゃうって言うか!」

一人でパニくっている彼女がおかしくて。


「・・ありがと、」


高宮は心から嬉しかった



逢いたい


なんて


どんな言葉よりも

嬉しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る