第3話 終わらない
「やぁ、また会ったね」
「……久しぶりだな」
相変わらず人を小馬鹿にしたような話し方だ。
そして、今回も街灯に背を向けて立っているために顔が見えない。
「君は、君が見張っていればこの子が助かると思ったのかな?」
「……」
「浅はかだ。実に浅はかだ。人間は英知を授けられたんだ。もっと考えるんだ。考えたうえで最良の結果を出すんだ」
「……どうしろと?」
「実に単純だ。この公園を避ければよかった。違うかい?」
言われて気づいた。
あの時は色々頭がこんがらがっていた。
だから考え付かなかったのかもしれない。
「……つまらない」
「あ?」
「つまらないよ。これでもう一度『創・造・』をしても、君はこの公園を避けるだけだ。他に何もしない」
全て、真実だった。
僕はこいつはもう一度昔に戻してくると思った。
それが、こういう話によくあるパターンだからだ。
だけどこいつは僕の考えることがわかってしまう。
それじゃあ、何度繰り返しても無駄だ。
それにこいつはさっき気になることを言っていた。
「『創造』?」
「そう、『創造』だ。世界を作り直すんだよ。早い話だ」
どうやら、昔に戻す能力のことらしい。
「さて、君が選べるのは二つだ」
「……」
「一つは、このまま彼女が死んで、私はここから立ち去り、君はここで絶望に打ちひしがれる」
「……」
「二つは、もう一度私が『創造』し、君が僕の考えを超える。そして彼女は助かり、君にも希望が生まれる」
「そんなもん、二つ目に決まってるだろ……!」
「へぇ。そっか」
「は?」
「じゃあねー」
そう言って彼女は公園から立ち去った。
僕はただ呆然として動くことができなかった。
***
僕は、死んだ裕美ちゃんを放置して家路についた。
そのうち、僕は容疑者になってしまうんだろう。
裕美ちゃんが生きているときに一緒にいるところは何人にもみられている。
「つまらない人生だったな……」
「そっかー。じゃあ面白くしよう!」
「はあ?」
背後から声がかかった。
そこにいるのは小さな女の子だった。
人形片手に無邪気な笑顔を魅せている。
「お嬢ちゃん? 気持ちは嬉しいんだけどね……」
「維持か破壊か」
「へ?」
「創造はもうないからごめんだけど、維持か破壊なら残っているよ」
「そ、創造?」
それってあいつが言ってた……!
「創造って誰に渡したの?」
「お、急に食いついたね。たしか……若い女だったかな」
「やっぱりそうか……」
「で、維持と破壊。どっちを選ぶの?」
「……破壊だ。何もかも壊したい。裕美ちゃんが死んだことも、あの女も」
「毎度あり。って言ってもお金はいらないけどね」
あははーと笑う幼女。
「お嬢ちゃんは何がしたいの?」
「面白い世界」
「はい?」
「君みたいなつまらない人が世界を面白くする世界だよ。それが観たいんだ」
「へ、へぇ……」
この世の中にも物好きな幼女はいるもんだ。
まぁ、この力であの女に対抗できるのは間違いない。
「あ、力だけどね」
「ん?」
「念じれば発動するから。何もかも破壊しちゃえ」
「お、おう!」
「ただし、指定物がはっきりしないのはだめだよ? 人だったら顔がわからないとか……」
つまり、まだあの女は殺れないってことか……。
「精々、このつまらない世界を謳歌しな。またねー」
***
「念じればいいのか……」
頭に死んで青白い顔をした裕美ちゃんを思い浮かべる。
思い出すだけで体を悪寒が駆け抜ける。
それでも、必死に裕美ちゃんが死んだ姿を打ち消そうとする。
突如、閃光が辺りを覆った。
僕のひと夏の思い出 @hinatanata1217
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