盗賊とストーカー
「で、結局ついてくるとか。マジでストーカーだわ」
「失礼な方ですね」
港に辿り着いたヒルダは、アルフレッドに寄り添うように歩くセレナを振り返りそう毒づく。
一体どういう手管を使ったのか漁業ギルドのマスターに信用されていたらしいセレナはアッサリとアルフレッドとヒルダの監視役に収まると、こうしてついてきてしまっているのだ。
「しかし、君はあの男と知り合いだったのだな」
「この町に来てそれなりに経ちますので。スペリオ様にはご贔屓頂いております」
「ケッ、どぉせ美人に鼻伸ばしてるだけでしょ」
「あら、美人だなんて。ヒルダ様も人並みですよ?」
「喧嘩売ってんなら買うわよ、この野郎」
「……そのくらいにしろ」
呆れたようにアルフレッドが溜息をつき、セレナを小突く。
「セレナ。君も言葉を商売にしているなら喧嘩にならないような言葉遣いも出来るだろう?」
「申し訳ありません、アルフレッド様。商売柄、人の本質を曝け出すような話の流れを作る事が癖になっておりまして」
「……そういうものなのか?」
「ええ、まずは本音で話す。それが占いでも人づきあいでも重要なものですから」
ヒルダが「嘘つけ……」などと呟いているのを聞きながら、アルフレッドは困ったように息を吐く。
「……そうか。それが君の商売の種となっているのであれば、あまり強くは言えないが……可能な限り控えるようにしてくれ。仲良くなる前に和が乱れてはどうしようもない」
「はい、承知致しました」
頷くセレナにアルフレッドも頷き返し、船の並ぶ港へと視線を向ける。
「さて、まずはスペースを見つけないといけないが……」
そう呟くアルフレッドに、不貞腐れていた様子のヒルダは「あー」と呟く。
「今度は何出すつもり?」
「船だ」
「ふーん。デカいの?」
「恐らく、それなりといったところだろう」
そんな会話を交わす二人にセレナは首を傾げるが、その様子をほくそ笑んだ顔でチラリと見てからヒルダは適当な空いたスペースを指差す。
「あの辺りでいいんじゃない? 丁度空いてるわよ」
ヒルダの指差した辺りは確かにガランと空いており、超大型船であろうと停泊できそうである。
「ああ、あの辺りは丁度戦士ギルドの方々が失敗したときに借りた船が停泊していた場所ですね」
「なるほどな」
頷きアルフレッドは速足で歩いていき……その後ろをヒルダとセレナが追う。
相変わらず誰も居ない港の先には海が広がっており……その海へとつながる港の縁で、アルフレッドは静かに魔力を練り上げる。
「……
海上に光が集い、一つの船の形を創り出す。
大きさとしては中型船程度。
およそ10人か20人程度は楽に乗れそうなその船は細身の美しい形をしており、しかし何処か非現実的でもある。
何しろ、その船には帆がない。
船体の両側には飛び立つ際に広げた水鳥の翼のようなものがついており、半分海に浸かったその先には何やら樽のようにも見える円筒形の何かがくっついている。
本当に動くのかと言いたくなるような奇抜さだが、アルフレッドは満足そうにその船を見ている。
「えーと……何これ。飛ぶの?」
「いや、飛ばないが」
「なんでコレ選んだの? もっとマシな形なのとか……」
「大型船もあるにはあるが……三人では操縦できないからな」
確かに大型帆船は多数の船員で動かすものだが、それにしてもとヒルダは思う。
思うが……そう言われてしまうと、これが最適だったようにも思う。
それに船室は硝子を嵌め込んだのか美しく煌く窓がついており、極めて快適そうだ。
「……って、あれ。そういえばコレ、誰が操縦するのよ」
アルフレッドが海賊と戦うのであれば、その間船をどうにかする人間が必要になる。
しかしアルフレッドの出す道具類が死ぬ程魔力を必要とすることは、ヒルダは充分すぎる程に分かっている。
……となると、セレナでも恐らくは難しいだろう。
「基本的には俺が操縦するつもりだが……俺が戦う時にどうにかしてくれる者は必要だな」
「そうよ。でないと下手すると海賊の攻撃で船が海の藻屑になるわよ?」
タイホウとかいう兵器を積んでいるのだから、それを避けないとどうしようもない。
それを考えると舵を切ればある程度どうにかなる帆船のほうが良いのだが……と、そこまで考えてヒルダは一人の人物に思い当たる。
「そうだ、アスカを呼べばいいんじゃないの? 術士なんでしょ?」
「明日香か……」
悩むように言うアルフレッドだが、明日香は正直に言ってガサツで本能で動くタイプだ。
魔力量としても、然程高いというわけでもない。
「……ふむ」
ハッキリ言って、「
勿論その程度でアルフレッドの魔力が枯渇することはないが、疲労するのは避けられない。
となると、出来ればアルフレッドの代わりにずっと操縦してくれるくらい魔力量とその扱いに長けた者が相応しい。もっと言えばガサツでなければ更に良い。
『蒼海のヴァルツオーネ』の
「あの……何の話を?」
「あ、うん。そうだ。セレナはちょっとあたしと向こうに……」
「
「あっ」
ヒルダがセレナを何処か見えない場所に連れて行こうとする矢先、アルフレッドは「それ」を唱えてしまう。
「『永遠のフローランド』・ノエル!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます