第7章ー2 冒険とトレジャーハンティング

 ゴウは格納庫のシマキジとトウカイキジの間にコテツを収納し、宝船の外へと飛び出した。

 アキトと翔太を迎える為・・・というより、宝船の外に降ろした巨大な戦利品を見定める為であった。

 そのゴウを千沙が待ち受けていた。

「ゴウにぃ。反省してもらいことがあるのっ!」

「風呂を俺の一存で1つだけにしたことか? だが、送風機能は必須だぞ。対峙する敵同士。その雰囲気を盛り上げる演出に風は必要なのだ。風呂を2つにすると、どうしても送風機能が設置できない」

「お風呂が優先だよっ! そうじゃなくて、アキトくんのことなの」

「アキトとの結婚が決まっていれば、千沙の部屋を大きくし、2人用にしても良かったがな。婚約すらしてない現状では、アキトの部屋を用意するしか選択肢はなかったのだぞ」

「それは、これから頑張るのっ! 頑張るからアキトくんを引っ張りまわさないで欲しいの」

「何を言うか、俺たちはトレジャーハンティングユニットお宝屋なのだぞ。宝物を目の前にして戻ることなど出来ない」

 隣で千沙がゴウに、感情的に苦情を伝えているが、要領を得ていないようだった。

「そうでもなくて・・・」

 しかし風姫の神経は、完全に2人を遮断している。静かな怒りを込め仁王立ちしてカミカゼの到着を待っているのだ。

 風姫は千沙の隣にいるのだが、視線はゴウではなくコテツが戻ってきた方向に固定している。

 2機のカミカゼが曲芸飛行しながら、見通しの良い草原の空を疾走してくる。カミカゼ特有の鋭角なフォルムと3枚のオリハルコンボードが夕暮れの空に映える。その姿が風姫の瞳に映っていた。

 アキトと翔太は、風姫の近くでカミカゼを停止させた。

「遅かったわね、アキト」

「おー、ただいま。時間かかったけど、お宝を手に入れてきた。なんせ、コネクトのデータベースにない生物なんだぜ」

「そんな生き物イッパイいるんじゃないかしら?」

「オレのコネクトに登録されてない生物は、ほぼ新種だ。そして新種の中には、面白い遺伝子が含まれてることが多いんだぜ」

「それよりも、あなた」

 風姫は視線を少しずらして、アキトの隣にいる翔太を指差し剣呑な口調で声をかけた。

「あなた達のトラブルに、私のアキトを巻き込まないでくれないかしら?」

「いやいや、僕たちはトレジャーハンティングしてただけさ」

「聞いたわ。あなた達のトレジャーハンティングは、面白可笑しくトラブルと仲良くすることだってね・・・」

 それから風姫は10分以上も、透き通った声で、丁寧な口調で、翔太を見下すような罵詈雑言を浴びせる。

 流石の翔太も顔から笑みが消え、眼を細め刺々しく言い返す。

「僕たちはトレジャーハンターだからね。トレジャーハンティングは当然のことさ。キミは住む世界が違う人だよね。さっさと帰ればイイんじゃないかな。それとも力づくで言うことを利かせた方がイイかな? 僕は女性に対して紳士であれと考えているけどさ。必要であれば、実力行使を躊躇いんだよねぇー」

 不穏な雰囲気と翔太の険悪な口調に気づき、いつの間にかゴウと千沙が口論をやめていた。

「住む世界が違うというなら、あなた達がアキトの許から去れば良いのではないかしら?」

「参った参った、どうやら話し合ってもムダかな? キミが黙らないなら黙らせてあげよう」

 アキトが翔太の肩に手を置き、落ち着かせようと声をかける。

「止めとけよ」

「いやいや、売ったケンカを取り消せないさ。それに大丈夫さ、彼女にケガはさせないよ。少し痛い目を見てもらうだけさ」

「忠告しとくけどよ。風姫に、素手では絶対に敵わないぜ」

「あれあれ、彼女はアキトより強いっていうのかな?」

 茶化すような翔太の台詞に、アキトは真剣に答える。その刹那、微風が吹き始めた。

「認めたくねぇーが、オレより圧倒的に強いぜ。それに有名人だな」

 風姫が傲然と胸を張り、恒星の光により虹色に輝く長い金髪をかきあげ、風に靡かせる。

 風は宝船の方から吹いている。・・・というより、宝船が風を起こしているのだった。

 これはゴウが千沙に語った、お宝屋にとって必須の演出らしい。

「うんうん。それで彼女の正体は?」

「そうだなぁー。絶対に聞いたことあるぜ」

 愉しそうな表情を浮かべ、アキトは風姫の紹介を始めた。

「なにせ、魑魅魍魎跋扈するルリタテハ王国の王都で暴れ回り、数々の伝説を打ち立てたんだ」

「ア、アキト・・・紹介内容を完全に間違えているわ」

「なら、風姫に勝てる奴いるのか?」

「私は知らないわ」

「そんなヤツは存在しないぜ」

「どっ、どうして・・・そんな事が言えるのかしら?」

 質問に答えず、アキトは風姫の2つ名を告げる。

「彼女の正体は、ルリタテハの破壊魔だっ!」

 途中から聞いていた

「「「はっ!?」」」

 数々の冒険を経験し、大抵のことでは動じないお宝屋3兄妹が、驚愕で固まった。

「私の名前は風姫だわ。勝手に変更しないでくれないかしら。それに王都に魑魅魍魎なんて存在しないわ」

「成程な。俺は理解したぞ」

「うんうん、僕も良く理解できたよ」

「だ・か・らっ! 違うわ」

 もの凄い剣幕で風姫が否定したが、アキトの暴露は続く。

「正確には風姫1人の時がルリタテハの破壊魔で、グループ名が”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”だぜ」

「ルリタテハの踊る巨大爆薬庫だと?」

「ああ。風姫とジン、彩香さんのグループ名だぜ」

 彩香は自分を含めていなかったが、トラブル収拾の為と言いつつ2人に交じって暴れているに違いない。ならば、グループ”ルリタテハの踊る巨大爆薬庫”に含めても構わないだろうとアキトは判断したのだ。

「そうそう、勝負の方法を決めてなかったなー。ボクがケンカを売ったんだから、勝負方法も決める権利があるから・・・うーん。何がいいかなぁ・・・」

 即座に、いつもの翔太に戻り惚けた台詞を吐いた。

「普通、反対じゃないかしら?」

「いやいや。売るということは、売りモノが決まってるということさ」

「話にならないわ」

 風姫は冷たい視線を突き刺すが、翔太は動揺の欠片もみせず勝負の方法を提案する。切り替えの早さはトレジャーハンターとして必要な資質の一つであり、翔太はトレジャーハンターとして一流である。そして身軽な体と性格を持っている。

「ボクが売るのは・・・そうだなぁー・・・カミカゼで警戒網一周レースがいいかな。もちろんハンデはつけるさ。ボクは外周にあるレーダー機器のレーダー範囲外側をギリギリで走行する。キミは外周のレーダー機器のレーダー範囲内側ギリギリを走行する。これでどうかな?」

 風姫の表情が厳しいものへと変わる。あまりにもバカにしたハンデを提示されたからだ。

「そうそう。なんだったら、アキトのカミカゼを使ってもらっても構わないよ。ボクは宝船に積んであるカミカゼを使うからね」

 怒り心頭の様子の風姫に、翔太はバカにしたような口調で尋ねる。 

「不服かなぁ?」

「私はコースの地形を知らないわ」

 ジンと命懸けの生活を送ってきた風姫は、如何なる時でも勝率をあげる為の駆け引きを忘れたりしなかった。

「惑星ヒメジャノメでの3日後に勝負。で、どうかな? その間ボクは、一切コースに出ないよ。キミは何度練習しても構わないさ」

 その駆け引きに対して、翔太に何でもないように即答された。心理的に追い詰められた風姫に、これ以上の駆け引きは無理だった。そう、風姫の退路は断れたのだった。

「・・・それでいいわ」

「良かった良かった。お互いが納得のいく条件での勝負だね」

「どこ行くのかしら?」

「ベッドだけど。眠いからねぇ」

 風姫は表情が固まった。3日後というのは、風姫の為の時間ではない。翔太の休息と警戒網の内側をチェックする時間だったのだ。


「どう? 適合率93パーセントにまで調整できたけど・・・」

「そうねぇ。分からないから、ちょっと動かしてみるわ」

 風姫は史帆に答えると同時に、ルーラーリング適合率測定調整装置から両腕を抜き、アキトのカミカゼ水龍カスタムモデルに飛び乗った。

「おい、史帆」

「なに?」

「レースの後で、ちゃんと戻しておけよな。オレのカミカゼなんだぜ」

 宝船の格納庫でアキト監修のもと、史帆はカミカゼと風姫の適合率を調整していたのだった。

 カミカゼは軍事用ではないので、マルチドライバーモードシステムを搭載していない。しかもアキト用に調整していたので、風姫の適合率は72パーセントだった。

 カミカゼを操縦するには適合率が50パーセントでも問題ない。しかし水龍カスタムモデルは、最低70パーセントの適合率が必要となる。

 ギリギリ操縦できるレベルの適合率ではレース以前の問題で、翔太の勝利は疑いようがない。翔太の約4分の3の距離で、水龍カスタムモデルを使用するというハンデがあっても絶対にムリだ。

「わかった。でも・・・ハードが壊れたら、どうにもならない」

 カミカゼを宙に浮かせ、その場で180度横回転したり、機体を少しずつ傾けたりと微妙な操作をしている。

「風姫、壊すなよ。絶対にだからなっ!」

「ダメになったら、新しいカミカゼ水龍カスタムモデルを買ってあげるわ」

「そういう問題じゃねぇーぜ」

 真摯に向き合ってカスタマイズした、オレのカミカゼなんだ。2代目はいらねぇーぜ。

 2台目なら歓迎だがな。

「私の勝利が最優先だわっ!」

 そう言い残して、風の妖精姫は眩い光の先へと針路を取り、カミカゼと共に風を纏いながら格納庫から飛び出していった。

 光の中に消えてゆく風姫とカミカゼを見送りながらオレは考えていた。風姫が翔太に勝つ方法を・・・。

 正面から正直にレースに臨めば、絶対に負けるな。風姫は勝つ気でいるらしいが、このままじゃ勝負にすらならねぇーぜ。いくら訓練しても勝負になるレベルまで、操縦テクニックを上げるのはムリだ・・・たとえ何年かかっても。それなら、ルールの範囲内で工夫するしかねぇーな。

 風姫を追って外へ以降とする史帆に声をかける。

「あーっと、史帆。ちょっと待て」

「なに?」

 眉根を寄せた、あからさまに嫌そうな表情をみせた。

「ロイヤルリングなら適合率をもっと上げられるだろうけど、それだけじゃ翔太には勝てないぜ」

「どうして?」

「マルチアジャストのスキルを甘くみるな。翔太は伊達と酔狂と屋号のためにトレジャーハンターをやってんだぜ。レーサーになれば、すぐに王国一になる」

「なんで?」

「2年前ヒメシロ星系の第3惑星が、惑星一巡アドベンチャーレースの会場になったろ? そん時”ロイド”グループが参加しなかったよな? それ翔太の所為だぜ」

 惑星一巡アドベンチャーレースは年に2回だけ開催されるルリタテハ王国で最も過酷なレースである。ただレースの内容は単純で、人の住めない惑星を1周するだけだ。

 だが幅100キロメートルのコース中には、様々な危険が待ち受けている。危険を避けてオリビーを操縦するとなると、100キロメートルの幅を目一杯に使ってジグザグ走行しなければならない。

「えっ! どういう事?」

「訊きたいんだな?」

 史帆にしては珍しく、大きな動作で頷いている。心なしか、顔を紅潮させてるようもみえる。

 まあ、翔太の容姿は充分に女性受けする。

 それに、マルチアジャストという才能がある。

 技術者ならば憧れざるを得ない才能だろう。是が非でも親しくなり、開発した機械の操作を依頼したい。

「お宝屋がロイドから依頼を受けて、レースのコースを案内することになったんだ。ゴウは翔太にコースを走らせることにしたんだよ。だけど、14歳の子供にコースを案内される一流のレーサー達は、侮辱されたと思ったんだろうな。すっげぇー怒ってたぜ。自分達のプライドを護るために翔太にコースを走れるのかってバカにしたんだよ。そんで翔太は、ロイドの用意した自分用に調整もしてないオリビーに乗り込んで、レーサー達を案内したんだ・・・」

 ヒメシロ星系の第3惑星は、炎の惑星と呼ばれている。彼方此方から溶岩が流れだしていて、時に熱湯が地面から噴き出し、突如として大気中に炎が顕れる。

 そして惑星一巡アドベンチャーレースの常として、コースの中央は最も危険になっている。

 翔太はコースの中央を躊躇なく最高速で走行した。調整もしていないオリビーに負ける訳はずないと、レーサー達は翔太のオリビーを追っていった。

 あるオリビーは炎に焼かれ、また違うオリビーは水蒸気爆発に巻き込まれた。

 その結果、ロイド所属の5人のレーサーは全員重傷を負い、ヒメシロ星系の第3惑星での惑星一巡アドベンチャーレースに出場できなくなった。ルリタテハ王国のオリビー製造で第1位と名高いロイドが、惑星一巡アドベンチャーレースに参加できなかったのは初めてであった。

「凄い、凄い。凄すぎる。でも・・・何でアキトが知ってる?」

「惑星一巡アドベンチャーレースはパイロットとナビの2名1組だぜ」

「だから?」

「そん時、翔太をナビしたのはオレだ」

 史帆の驚いた表情に気を良くしたオレは、求められるままに翔太と自分の武勇伝を事細かく語った。

「・・・。だから今のままレースに臨んでは、風姫じゃ絶対に勝てねぇー。だが作戦次第で・・・」

 本題に入ろうとした途端、カミカゼが風と共に格納庫に戻ってきた。

「2人で何してるのかしら?」

 ついつい調子に乗り、話しが長くなったようだった。

 風姫は眼を細め、突き刺すような視線を送って来る。主に史帆に向かって・・・。

「翔太君の話を聞いてた」

「ふぅーん。アキトって男の子の話を30分も語れるんだ。そういう趣味があるとは知らなかったわ」

 風姫に向き直り、オレは両腕を組んで告げる。

「テメーの為に作戦を練ってたんだぜ」

「・・・。それなら仕方ないわ」

「それより、そういう趣味とは、どういう趣味か聞かせて貰えねぇーか?」

 さっきまで真剣な表情だった風姫は、オレから顔を背け、慌てて話を逸らす。

「私の為の作戦を聞かせてくれないかしら?」

 ツッコミを入れるのも面倒だし、ゴウ達と相談する時刻が近づいてきたので、オレはさっさと作戦を語ることにした。そうすれば、オレの自由時間が増え、風姫は作戦の為に多くの時間を割かねばならない。レースが始まる前までに、如何に大量の成果を得られるかが勝利を左右する。

 オレが準備を手伝うと作戦が露見するだろう。レースが開始する前に露見したら、作戦はそこで失敗となる。オレが風姫に接触すると作戦の成否に関わるのだ。


「風姫さんって、何者なのかな~」

 宝船のオペレーションルームで、翔太と千沙がメインディスプレイに映る広大な草原を眺めながら浮ついた話をしている。重要な相談の前なのに、心にゆとりが有り余っているようだ。

「僕たちとは住む世界が違う人さ」

「そう言ってたねぇ~」

「そうそう。よくよく思い出してみると、僕たちとアキトの住む世界が違うと言ってたかな? 彼女は、アキトが新開家に連なる者だと知っているんだろうね。だから、住む世界が違うと言ったのさ」

 翔太が自信をもって披露した推理は、大きく的を外していた。

 風姫はアキトが新開家の人間ということを知らない。というより、新開グループがルリタテハ王国に多大な影響を与え続けている大企業であると、風姫は知らないのだ。

 新開グループの売上高はルリタテハ王国内で31位。しかも業種が機械、エナジー、量子、化学など科学分野に偏っているため、風姫にとって馴染のある製品が殆どない。王女とはいえ、15歳の少女が興味をもつ分野ではない。

 それに新開グループの売上高や製品などでは計り知れない、無形の影響力を新開家は有している。その影響力は風姫どころか、ジンの想像をも遥かに超えているのだ。

 新開家は多額の資金を投入し、新開財団を設立運営している。その財団は新開グループの社員の子に対し手厚い奨学制度を設けているのだ。

 ルリタテハ王国は教育に力を入れていて、国公立大学の教育費は無償である。しかし大学は義務教育ではないため、衣食住は自己負担となる。そこで財団は、衣食住に加えて長期休暇の際の帰省費用など、多岐に亘り援助している。しかも大学に入ってからだけでなく、入る前の援助も多種多様に用意しているのだ。新開グループの社員の子は、ルリタテハ王国内の様々な分野で活躍している。その人脈が新開家の人財となり、ルリタテハ王国内で隅々まで影響力を行使できるのだ。

 トレジャーハンティングユニットお宝屋は、新開家の人脈が結びつけた縁なのだった。そして翔太と千沙にとって親兄弟と同じくらい、アキトとの縁は非常に大事なものとなっているのだ。

「どこかのお嬢様なのかな~?」

「お金持ちで・・・いいや大金持ちではあるさ。なにせ、武装した恒星間宇宙船に乗り、傭兵とボディーガードを雇って、サムライシリーズまで配備してるんだからねぇー」

「美人さんだし・・・アキトくんの雇い主らしいし・・・強いみたいだし・・・お金持ちだし・・・。あたし、どうすれば良いのかな?」

「千沙は充分に可愛いさ。彼女とは、方向性が違うだけじゃないかな?」

 風姫は綺麗で美しい容姿をもち、華やかな雰囲気を纏っている。千沙は愛らしく可愛い容姿で、庇護欲を刺激される。

「じゃあ・・・アキトくんは、どっちが好みなの?」

 翔太は笑顔でキッパリと、一切の迷いもなく千沙に教える。

「彼女だろうね」

 学生時代とトレジャーハンターの期間を合わせ4年間。多くの時間を一緒に過ごした翔太は、アキトの好みを良く把握していた。

「そこは嘘でも、兄妹なんだから妹の肩を持つべきじゃないの」

「僕は常々、自分に正直でありたいと考えているのさ」

「それで周りの人に、だいぶ迷惑かかっているって自覚してるの?」

「僕は気にしてないさ」

 翔太は軽薄な口調で、千沙しかいないのに爽やかな笑顔を周囲に振り撒いた。

「周りが気にしてるのっ!」

「ただのルリタテハの破壊魔・・・ではないようだねぇー。ルリタテハ王国の王都で暴れ回ったにも関わらず顔すら知られてない。そんなこと、新開家ですらムリさ。不思議としか言いようがないよね」

「もしかして・・・裏社会の人ってことなの?」

 オペレーションルームの扉が開き、賑やかな話し声が2人の耳朶を打つ。

「ゴウにぃなら分かるのかな?」

「少なくとも、僕たちよりは王都の事情に詳しいだろうさ」

 2人はオペレーションルームに入ってきたゴウとヘルに視線を向けた。賑やかと感じているのは、翔太と千沙の感性がお宝屋に染まっているからである。通常人の感性なら、控えめに言って議論。言葉を飾らなければ論争、舌戦、口論、言い争いと呼ばれる類のものだった。

「ゴウにぃ。風姫さんて何者なの?」 

「んっ? あいつはルリタテハ王国の王女だぞ」

「「は?」」

「たしか・・・王位継承順位は第10位? いや第7位? あー、まあ。そんな事どっちでもいいが、とにかく王位継承権をもってる一条風姫だな」

 翔太と千沙が驚愕する。

「・・・いやいや。本当に・・・かい?」

「ゴウにぃ・・・本当?」

「間違いないぞ。ルリタテハの破壊魔が風姫王女だというのは、王都の官僚の間では有名な話だな。官僚たちの口から漏れるのは愚痴というより、呪詛だという噂だ」

 暢気に答えたゴウに続いて、張り合うかのようにヘルが暴露する。

「良いかぁああああ。我輩も素晴らしい情報を提供してやろう。なぁああああーーんと、ジンの正体は現ロボ神、一条隼人であぁーるっ」

 お宝屋3兄弟は衝撃の事実を前に、刹那動きが止まる。

「ふっはっはっははーーー。よもや敵だったとはな。これで遠慮は要らなくなったぞ」

「敵だと?」

「いやいや、ゴウ兄。不倶戴天の、が抜けてるよ」

「赦してあげようよ~。本人の所為じゃないんだよ」

「貴様ら、何を言ってるのだ?」

「いいかぁあああーー!! 俺たちの宝船には、七福神様が乗船なさっているのだ。それを頭の固い管理局の連中が、型式を七福神で登録しようとしたら却下されたのだ。何が、ルリタテハ神以外は信仰してはいけないだ。形式論や建前など知ったことか。宝船に乗船なさっているのは七福神様だぁああーー」

 コウゲイシなど、ある一定以上の大きさの人が乗る機械は、乗用機器管理局への登録義務がある。登録しなければ、ルリタテハ王国内での使用を禁じられるのだ。

「・・・どういうことだ?」

 誰に訊こうかと、ヘルは迷ったが千沙に尋ねた。

 それは良い人選だった。ゴウと翔太に尋ねたのでは、いつ話が本題に入れるか分かったもんじゃない。ただの同族嫌悪だったのかもしれないが・・・。

「型式名が”七福”はちょっと・・・ね。でも名称は、そのまま登録できたの」

 アキトのトライアングルであれば、型式は”シンキ・カイ”で、名称は”カミカゼ”である。

「そうそう。まあー、毘沙門天とか大黒天とかに”天”はついても、”神”はついてなかったからね」

「我輩には、一切、まぁぁぁぁったく理解できんな」

「そもそも、お宝屋は無宗教だから、七福心を信仰してないしさ」

「なんだと? 信仰していない・・・?」

「祀ってもいないよ。それに儀式とかしたことないもの」

「・・・まあ、確か仕信仰はしていない。しかぁーし、七福神は七福神なのだっ!!」

「我輩が言うのも何だが・・・。貴様ら、もう少し真剣に生きろ」

 アキトがいたら、「ホントになっ!」とツッコミを入れただろう。しかし、少しだけタイミングがずれていた。彼は今、宝船の格納庫からオペレーションルームへと向かう途中だった。

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