第3章ー3 ヘル救出

 ヘルは携帯型の質量測定器を持って宇宙船の前部で質量偏在データを取得し、長年課題にしていたパッチ作成も完了させたのだった。

 そして1時間17分で質量偏在情報を導き出し、ユキヒョウへのデータ送信は2分間で完了した。

「やはり我輩は、天才っだぁああああーーー」

 ヘルは両手を突き上げ全力で喜び、大声で己が天才である理由を叫ぶ。

「そう、1時間22分とコンピューターが導き出した最短時間を、我輩は3分も短縮したのだぁああああーーー」

『あのさぁあ、ヘル。たった3分の短縮が、何で凄いんだ? オレには、まっっったく理解できねぇーぜ』

 嫌味成分がたっぷり入ったアキトの台詞だった。

 しかしヘルは、気を悪くした様子が全然、まっっったく、微塵も感じられない。

 人は自分の能力の範囲内でしか他人の能力を計れない。故に凡人は、我輩がどれほど高みにいる天才であるのか理解できないのだぁあああーーー。まあ、そうだろうとも・・・。そんなことぐらい、寧ろ百も承知しているとも・・・。

「アキトだったな。子供でも理解できるぐらいに、噛み砕き、磨り潰し、粒子レベルにまで簡単にし、教授してやろう。いいか、心して聞くがよい」

 熱の籠った、ヤル気溢れるヘルの宣言に対して、アキトは素っ気なく平坦な口調で返答する。

『いや、いらないから』

 そう、わかっているとも・・・。科学者にありがちな、その分野の人間にしか理解できない単語ばかりで、延々と良く分からない説明をされると恐れているのだろう。

 だぁーがぁあああ・・・我輩はTheWOCの役員連中にプレゼンして、研究室の予算を獲得し続けてきたのだ。楽勝だぁああああ。

 だから、ヘルは気づけていないのだ。

 それが、TheWOCから放逐された一因になっていることを・・・。

「結論から言おう。コンピューターで実行する演算の一部を我輩が実行したのだ。そう、新しいアルゴリズムが突如として閃いたのだ。まぁ、さぁ、にぃー、天啓を授かったといって良いぐらいだ。もしかしたら、ジンの・・・現人神のお蔭かも知れんな」

 アキトの表情が少し和らぐ。

 どうやら、掴みは上手くいったようだ。

 流石は我輩。

 商品化の目途のない基礎研究であるダークマターハローの惑星調査企画を押し通した。その調査に、TheWOCの年間利益の1割もかかるとの試算であった。

 んっ?

 違ったか??

 おおぉー、そうだった。

 表向きは、大量のオリハルコンがある蓋然性が高く、鉱床発見の可能性があるとしていた。科学者、研究者の矜持にかけて、もちろん嘘はついていない。

 惑星に大量のオリハルコンは存在する可能性が高い。1%でも可能性があれば、嘘にはならない。それに実際、惑星シュテファンにオリハルコンは存在していたのだ。

 しかし鉱床の発見については、”可能性がある”とだけ報告しているのだ。鉱床になり得るのか? 鉱床になったとして採算がとれるのか?

 そこには、全然言及していない。そんなの我輩の知ったことではない。

 だから、ヘルは気づけていないのだ。

 それが、TheWOCから放逐された主要因になっていることを・・・。

 さあ、アキト。

 勉強のお時間だ。

「まずは基本からだ。現在の量子コンピューターのOSは、下位互換性を重視していて余計なロジックが大量に含まれている。量子ビットの並列化が順調に進み、演算速度に問題が出なかったから、見過ごされきたのだ」

 量子ビットが1つ増える毎に、量子コンピューターの処理能力は16倍になる。量子ビットの並列化は、処理能力向上に多大な貢献をもたらす。

「しかぉーし、これは美しくないのだよ。アルゴリズムと呼んで良い代物ではなぁーい。いいか良く聞け。そもそもだ。アルゴリズムとは、問題に対する解を求めるロジックの最適化なのだ。我輩は、兼ねがねパッチを作成して綺麗な無駄のないコードにしたいと考えていたのだ。ダークマターの研究以外に思考をリフレッシュさせるために、コードを解析していた。もちろん気づいた点はメモしてたぞ。そしてジンに追い込まれた刹那、そのメモが有機的に繋がったのだぁあああーーー。」

 アキトは真剣な表情をして、大気圏脱出の為の作業を実施している。

 少年とはいえ、流石はルリタテハ王国のトレジャーハンター資格を持つ者。知識と理解力を兼ね備えているようだ。

 説明し甲斐があるそぉおおおーー。

 いいぞ、いいぞぉおおおーーー。

 ヘルは更に気合をいれた。

 そして、声は喜びを伝えている。

「さてっ、いくら天啓を受けた我輩とて、OS全ての最適化を短時間で実施するのは難しい。しかしぃぃぃだぁあ。今回は、質量偏在情報を処理するアプリケーションと関連しているロジックのみに絞り込んで検討すれば良いのだけなのだ。アプリケーションとOSを繋ぐインターフェースからロジック変更箇所を特定し、改修パッチを作成したのだぁあああーーー」

 両腕を大きく広げ、オーバーアクションで、その素晴らしさを表現した。

「前段は、ここまでとし、いよいよ本題に入るぅうううう」

 ヘルは、その場でステップを踏み、右回転し、ポーズを決める。

「いいかぁあ、今から修正パッチのコードを送信する。全部で約200のコードがあり、OSのインターフェース毎にパッケージ化して・・・・・・」

 アキトの真剣な視線は、コードを見ていない。それにヘルは気が付いたのだ。

「おいっ!! アキトとやら・・・我輩の説明を聞いているか?」

『こっちは忙しんだ。邪魔すんなっ!』

 視線すら合わせないアキトの態度に、ヘルが激昂する。

「なっ、なんだとぉおおおお。我輩の・・・・・・」

 ジンが怒りの表情が、ヘルの宇宙船のメインディスプレイに映し出される。

『煩いぞ、ヘル。汝の宇宙船の為に、我達が苦労しているのだ』

「ジン、それには感謝する。しかしぃぃぃだぁ。それはそれ。これはこれ。この我輩の成果を説明するのに・・・・・・」

『黙れ!』

 我輩には判る。

 ジンがマジ怒っている。

 すっげぇー、ヤバイ。

「・・・はい」

 ルリタテハ王国の現人神に逆らうべきではない。それ以上に、デスホワイトと敵対関係となるのは、命を捨てるも同然。

 デスホワイトは、宇宙戦艦すら撃破するのだ。

『良いか、ヘル。汝の宇宙船をここより宇宙空間に脱出させる。その際、ダークマターがどれ程の脅威となるか、推測は不可能なのだ。出来得る限り我とアキトで、ダークマターから宇宙船を護るが、半端でない衝撃に襲われるのを覚悟しておくが良い』

 ヘルは素直に頷く。

「なるほど、理解した。つまり我輩の体を固定するだけではなく、衝撃を和らげる工夫せねば・・・。しかもだぁあああ。ダークマターが宇宙船に衝突したならば、無事には済まないだろう・・・と」

『漸く足元に眼がいったようだな。良いかっ。重要なモノほど、貴重なモノほど、船内で防護の堅い場所に仕舞っておくのだ』

 後1時間ぐらいで、出発となるのか。

 それでは、すぐに準備をせねばならぬ。

 何せ、我輩の宇宙船には、重要で貴重なモノが満載なのだぁあああーーー。

「承知したぁあああ。必ずや護りとおして見せようぅうううーーー」


 ジンが惑星シュテファンに降り立ってから3時間、アキトは勤勉に働いていた。彼は生存確率を上げる為の努力を厭わない。

 何もかもが、ジンの指示通りに動かなくてはならないのは非常に癪に障る。しかし指示の意図が明確に伝えられ、その作業結果も納得のいくものである為、反論もできない。

『ショーの時刻になったわ。みんな良いかしら? 盛大にやるわよ』

 準備が完了した。

 後は大気圏を脱出するだけだ。

「オレは、いつでもイイぜっ!」

『構わぬ。作戦コード”光の演舞”を開始せよ』

「・・・なあ、作戦コードなんて、いつ決まったんだ?」

『畏まりました。作戦コード”ヘルの道化踊り”いつでも構いません』

 あぁー、適当かぁ。

『作戦コード”アキトの特訓”開始するわ。ユキヒョウ全砲門、レーザー発射っ!』

 風姫の凛とした心地よい声音が、クールメットの骨伝導システムを通して鼓膜に響いた。

 作戦コード”(不本意だが)ヘル救出”開始だっ!

 アキトは心の中で呟く。

 声に出さない分、まだ風姫たちの悪乗りに染まり切っていない。ただ戯言を考えてしまっている時点で、染まり切るのも時間の問題だろう。

『レーザー発射っ!』

 彩香が復唱すると同時に、ユキヒョウからヘルの宇宙船へと眩いばかりの輝線が迸る。

 観測手の史帆が結果を告げる。

『全弾直撃』

 ヘルの宇宙船と共に、アキトのセンプウも吹き飛ばされる。

「ぐおっ、おぉおおおおおおーーーー」

 体が強烈なGに、襲われた。

 センプウの重力センサーを交換し、設定を5Gで最適化した重力制御システムですら操縦室に強力なGをもたらしたのだった。

『第2射用意』

 通常ユキヒョウの全砲門は幽谷レーザービームを発射するのだが、今はレーザーのみの設定にしている。

 レーザーは電磁波であり、ダークマターやダークエナジーと干渉しない。つまりレーザーにとって邪魔な物体はない。大気圏だけでなく、惑星すら干渉できないのだ。

 物理的な衝突で破壊するビーム(荷電粒子)は、惑星を射線上に入れてしまうと、ダークマターによって遮られる。惑星にめり込んだヘルの宇宙船を叩き出すのに、レーザーが効率良いのだ。

 もちろん、ヘルの宇宙船を破壊する訳にはいかないから、設置した手打鉦を狙ってだ。

 そう、アキトが3時間に亘り実施していた作業は、手打鉦の底を宇宙船にしっかりと固定することだった。

 アキトの固定した手打鉦を狙いやすい位置へとユキヒョウが移動する際、注意すべきは惑星の重力だけなのだ。

 つまりユキヒョウは、惑星の重力の影響を受けないよう気をつけていれば良い。

『斉射ぁ』

 風姫が再び命令する。

『斉射っ』

 彩香が復唱する。

『全弾直撃を確認』

 史帆が結果を告げる。

 ヘルの宇宙船は順調に高度を上げていった。

 手打鉦の内側に当たったレーザーが反射し、宇宙船は推進力を得ているのだ。

 宇宙船に取り付けられた手打鉦は15枚。ユキヒョウのレーザー砲は10門。手打鉦が5枚余っているが、その5枚はヘルのいる区画を護るように設置してある。

 数十回もの一斉射撃により宇宙船は、既に惑星シュテファンの粘性の高い層に到達していた。

 そこで、ヘルの宇宙船にレーザーが掠る。

 ユキヒョウのレーザーが的を外したのだ。

『オートモード切断。射撃を戦闘体制に移行。彩香、主砲を放て。宇宙船に当てさえしなければ構わぬ』

「はっ? オレたちには命中してもイイのかよ!」

『何の為の手打鉦かっ・・・。己と宇宙船ぐらいは護れるだろう。彩香、レーザー照射時間を最短に設定。連射モードに変更せよ。この高度から墜落したら、宇宙船は完全に潰れる』

 レーザーの照射時間を最短に設定したのは、的である手打鉦から外れ宇宙船に命中しても、被害を最小にするためだ。

「テメー、何が天啓を受けただっ! 失敗してんじゃねぇーかっ!!」

 怒鳴りながらも、アキトは5枚の手打鉦でランダムに迫りくるダークマターの塊から、宇宙船を防御していた。

『バカを言うな。我輩のパッチには何ら問題はない。緻密で精度の高い演算結果が得られるようになった。しかも演算速度も向上しているのだぁあああああーーーー』

 上から落ちてくるダークマターは方向を逸らし、下から迫りくる巨大な塊は手打鉦2枚と惑星シュテファンの大きな重力を利用し力ずくで叩き落とす。

「テストとデバッグは重要だぜ。やったのかよ」

 アキトの正面にあったダークマターが突然破裂し、多数の破片となってセンプウと宇宙船を襲う。それをセンプウの標準装備、多弾頭短距離ミサイルで迎え撃ち。センプウの手元に戻していた2枚の手打鉦を連続で投げつけた。

 これで斥力だけでなく、センプウとほぼ同じ大きさである手打鉦の物理的な衝撃でもって、撃ち漏らしを残らず撥ね退けた。

『そんなものは必要ないし、間違ってもいないっ。我輩のパッチにテストやデバッグなぞ不要なのだぁあああああ』

 巨大な塊から宇宙船の船底を護った手打鉦2枚を左右に展開させ、アキトは側面を警護する。

『それでは、説明になってないな。この結果の原因はなんなのだ。我が納得できる説明を聞かせてもらおうか』

 ジンがヘルを詰問した。

『簡単なことだ。データ自体が間違っている』

『データ自体に誤りがあるのは何故か? それとパッチのテストはしたのか?』

 その間も、ジンは手打鉦10枚を操り、ダークマターから完璧に宇宙船を護っている。

 鋭い視線の圧力に耐えきれなくなったのか、ヘルが斜め下を向き白状する。

『データ取得の為の船内センサーが、宇宙船前部で1割使用できなくなっていた。携帯型の質量測定器で実測したが、正確な値にはなり得ない。実測から補正した値と、質量測定器を持ち込めない位置は推測値としたのだ』

 ジンは平然とした表情で、かつ視線をヘルに固定している。その状態で、四方八方からの襲来するダークマターとダークエナジーを、手打鉦で弾き、逸らし、叩き落としている。

『・・・・・・テストツールで、ブラックボックステストを実行した。データは実際の値と境界値を使用した。もちろん繰り返し処理もテスト済みである』

『ならば、構わぬ』

「イイのかよ、ジン」

『問題はないな。宇宙船の前が潰れているのだ。精緻なデータが取得できるなどと、楽観なぞしていなかったし、期待もしていないかった。我は最初から・・・』

 ヘルの宇宙船が乱気流に巻き込まれ激しく揺れ、レーザーが手打鉦を外す。

 的を外したレーザーが宇宙船の潰れていた前部を直撃した。それも連射モードだっため、宇宙船の左舷から右舷までレーザーで穿たれた黒いドットが一直線に並んだのだ。

 黒いドットによって宇宙船の前部に描かれた点線は、明らかに装甲より穴の面積の方が多い。

 宇宙船の潰れていた前部分がキレイに無くなった。

『なっにぃいいいーーー。コヨーテの牙が無くなってしまったぁあああーーー』

 頭を抱えて中年男が身悶える姿は、美しくないがイイ様だ。

 ヘルに向かってアキトは、冷笑を浴びせようとした・・・。

『まあー良いかぁ。これで我輩の罪も帳消しになったようだしな』

「なるかっ! なあ、ジン。もう捨ててこうぜ」

『冗談でも笑えんなぁあ』

 やれやれ、とばかりに両掌を上にして肩を竦める姿は、オレのイラつきを倍増させる。

『宇宙船の前部分が無くなったのだから、もはやデータの再取得は不可能。つまり我輩の罪を証明することも不可能。なぁ、らぁ、ばぁあ、推定無罪が成り立つのだぁあああーーー』

 そういう態度が様になる翔太なら許せただろうが、禿頭のヘルをアキトは許せなかった。

 ダークマターの塊に、手打鉦で思いきり八つ当たりしてながらアキトが叫ぶ。

「オレはマジで提案してんだぜ。ポンコツ科学者がっ!」

 怒鳴り声に続き、暴言がまさに口から出ようとした瞬間、宇宙船が前方回転を始めた。

 キレイになった前部から粘性の高い層を斜めに抜けた結果、宇宙船のバランスが崩れたのだ。

 アキト機とジン機は宇宙船に両足を固定しているため、振り落とされることない。

『彩香、ユキヒョウの戦略戦術コンピューターの処理能力を全て砲撃に回し、宇宙船の回転を止められるか演算するのだ』

 サブディスプレイから、ユキヒョウ船内の映像が消え1分が経った。そして、ユキヒョウからの可視光線が、宇宙船に3発とセンプウに1発命中した。

 次の瞬間、サブディスプレイにユキヒョウの船内が映り、彩香が結果を伝えようとする。

『ジン様、演算した結果でシミュレーションを実施しましたが・・・』

 頭のイイ奴って、時々バカだな・・・。

『結果は直接、眼で確認した・・・が、如何にすべきか?』

 集中すると視野が狭くなって、単純な方法が思いつかねぇーだな。

「おおぉおぉーーっ!」

 縦回転を止めるには、回転方向と逆方向に力を加えればイイんだぜ。

 アキトは、宇宙船の後部分を5枚の手打鉦で上から叩きつけた。

『なんとっ』

 ヘルが驚きの声を上げた。

『我輩の船を傷つけるなぁあああーーー』

 もう一度、今度は調整するために、アキトは手打鉦を軽く宇宙船に衝突させる。

 これで完全に、宇宙船の回転が停止した。

「はっ? なんでだっ。そこは褒め称えるべきとこだぜ」

 アキトは、ヘルに噛みついた。

 そのアキトに、ジンが注意する。

『アキトよ、油断大敵だ。汝の義務を果たせ』

 まだ、惑星シュテファンの大気圏を脱出できていない。そして、粘性の高い層を抜けても、少ない数ではあるが、ダークマターの塊が存在する。

 それをジンが、10枚の手打鉦を操り、完璧に防いでいた。

「くっ、ヘル。テメーとは1度、徹底的に話し合う必要があるようだぜ。覚悟しとけっ!」

『承知したぁあああーーー。貴様の愚かさを、我輩の知識で完全論破してやるぅうううーーー』

 粘性の高い層を抜けてからは順調に進んだ。

 アキトとヘルの仲以外は・・・。

 ユキヒョウからのレーザー発射は、途切れることなく延々と続いていたが、漸く終わりが見えた。

 ヘルの宇宙船が大気圏を脱出し、暫くして惑星シュテファンの重力圏からも抜けたのだ。

 アキトは感慨深く、惑星シュテファンを顧みる。

 だが、ディスプレイには何も表示されていない。

「あっ・・・」

 そうだった。ダークマターは目で見えないんだ。

 オレは後ろを振り向かない男だっ! そういことにしておこう。

『アキト、ダークマターは見えないわ』

「そんなの知ってるぜ」

『では。何故、振り向いたのか説明してもらいしょうか?』

『声も出てた』

 史帆が指摘し、風姫が物証を提示する。

『証拠の映像もあるわ。ほらっ』

 メインディスプレイ全面に自分の顔が映り、”あっ”という間抜けな声が再生された。

「なぁ、そんなツッコミ必要かっ?」

『精神的なゆとりは必要だわ』

 オレのメンタルはっ?

 それは、どうでもイイってかっ!

 文句を心で呟きつつも、ゆとりを取り戻したアキトには思い出したことがあった。

「そういや、”コヨーテの牙”ってなんだ?」

『ヘルの宇宙船名がコヨーテだ』

「牙は?」

『我輩の秘密を、貴様に教える必要を見出せんなぁあ』

『宇宙船の前部が格納庫になっているのだ。口に見立てていると、我は推測しているがな』

「どうでもイイ情報だったぜ・・・」

 それから数時間後。

 ユキヒョウとコヨーテは、予定より5日遅れで合流を果たしたのだった。

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