第11章前半 妖精姫とデスホワイトの真実

 全長1キロメートルにも及ぶ宇宙戦艦に対して、277メートルの宝船が戦いを挑む。にも拘らず、ゴウの態度はいつもと変わらず堂々としたものだった。

「さあ、我が軍門に降るが良い」

 ゴウが無精髭を上下させ、無駄に良い声のバリトンボイスで演説している間、翔太は片手間で核融合誘導ミサイルの発射準備していた。

 本気で翔太が準備しているのは、宝船の鉱床探索用ロボットのコウゲイシであった。

 全長15メートル前後の様々な形のコウゲイシが7機、宝船の甲板に乗っている。

 そう、宝船の上にある七福神はコウゲイシである。

 複雑な動作をする人型ロボットなら、翔太よりアキトの方が巧みに操縦する。しかし、いくらアキトでも7機のロボットを操ることは不可能である。

 だが翔太には、7機のマシンをリモートコントロールする特異な才能がある。

 翔太の才能”マルチアジャスト”により、瞬時にマシンと適合する。そして、1機あたりコンマ数秒だけコントロールし、次の機体を操縦する。

 ただ、リモートコントロールで次々と機体を変更して操縦する為には、極限まで集中力を高めてる必要がある。いつもの軽薄な雰囲気が霧散し、翔太は真剣な眼差しを7つのディスプレイに向け、ルーラーリングに全神経を注いでいる。

「ゴウ兄、七福神のセミコントロールマルチアジャスト完了」

 ゴウはオープンチャネルを閉じ、翔太から宝船とミサイルのコントロールを引き継ぐ。

「ふむ、突っ込むぞ!」

 七福神ロボが一斉に動き出す。

 それぞれの特徴に相応しい装備を持っている。それを攻撃用として準備し、配置に展開する。

 アキトも知らない真の姿を顕わしたのだ。

「さあさあ、七福神たち。これで展開準備完了だよ。今がモーモーランド軍に、お宝屋の実力を見せつける時さ」

 ”毘沙門天”は宝塔を宝棒の横に取り付けライフル銃のように構える。

 ”恵比須”は釣り竿の先から出ている糸、ではなく鎖に鯛を取り付け、空へと飛び上がる。

 ”弁才天”は両手で琵琶を持っている座像姿から変化する。立ち上がるとともに6腕が生え、8臂となる。それぞれの手には琵琶が変形した弓、矢、刀、矛、斧、長杵、鉄輪、羂索が握られている。

 ”福禄寿”は他の七福神ロボより背が低く、長頭で長いひげを持ち、鶴を従えている。杖に結びついていた経巻の端を、鶴に咥えさせ、巻物を広げて防御壁とする。

 白髪長頭の老人”寿老人”は連れていた鹿の口に、団扇と巻物をつけた杖を突き刺す。そして鹿に乗るかのような動作で合体し、宝船の帆柱を両手で持つ。宝船の舳先まで駆け、対レーザービームコーティングを施した帆を防御用として使う。

 ”布袋”は背負っている堪忍袋とも云われる大きな袋の緒を切る。すると、にこやかな布袋の顔が鬼の形相に変わり、袋からは様々な武器が出てくる。それら武器は、布袋の体の決まった位置に装備された。

 ”大黒天”の乗った米俵が突然ジェット噴射を始めた。微笑の長者と呼ばれる大黒天が福袋と打出の小槌を持ち、宇宙戦艦”ブラックシープ”突っ込む。

「往くぞ、翔太。千沙とアキトに見せつけるぞ。俺たち正義の味方の活躍を!」

 そう言うとゴウは、大型核融合ミサイルを船底から降下させる。

「いやいや、ゴウ兄。ただの牛退治さ」

 いつもはゴウより口数の多い翔太が、短い台詞で話を終わらせた。

 七福神のセミコントロールマルチアジャストの影響で返事をするので精一杯なのだ。

「ふっはっはっははーーー。さあ、刮目せよ」

 翔太しかいないからか、ゴウの声には愉しさと軽薄さが複雑に混じりあっている。そして、命を燃やす戦いに身を投じるというのに、ゴウには一切の躊躇がない。

 一瞬でも躊躇したら宝船は落とされただろう。

 だからといって、ゴウが真剣に考えて回避している訳ではなかった。敵からはランダムに動作して、回避行動をとっているように映っているだろう。適当に気分で機動させていた。

 翔太の操る福禄寿と寿老人が、宝船を護ると信じているからだ。

 毘沙門天が宝棒から荷電粒子砲を放つ。弁才天は弓矢と鉄輪で攻撃を加える。

 大黒天が米俵ジェットで敵宇宙戦艦”ブラックシープ”に取り付き、打出の小槌を振るい装甲に穴を穿ち福袋爆弾を押し込む。

 ブラックシープからは無数のレーザービームが宝船へと降り注ぐ。直撃コースのレーザービームは悉く福禄寿と寿老人が防ぐ。

 恵比須は勢いをつけた鯛を宇宙戦艦に何度も叩きつける。鯛の鱗が装甲を傷つけ、重量のある鯛の運動エネルギーがレーザービーム砲を徐々に変形させ、圧し潰す。

 武装を身に着けた布袋が、宇宙戦艦に乗り移り存分に暴れている。

 しかし、相手は宇宙戦艦。

 ゆっくりとだが宝船の被弾が増えてきていた。そして時間が経つごとに、七福神ロボが1機、また1機と破壊されていく。

 ブラックシープのレーザービームが宝船を護る寿老人の持つ帆をボロボロにしていた。そして福禄寿の巻物は既になく、彼の老人が身を挺して宝船を護っている。

「そろそろ千沙に、大きな花火のプレゼントの時間だ。後退して交代するぞ」

 言葉通りゴウは宝船を後退させる。

 宝船を一気に潰し、大気圏を突入して襲来するユキヒョウに備えようと、ブラックシープ艦内では兵が慌ただしい動きをみせていた。

 そうでなければ、お宝屋の打ち上げ花火は、こんなに巧くは行かなかったであろう。

 ゴウはミサイルをパラシュート付きで、地面に屹立させるよう降下させたのだ。今、制御権限をゴウから譲り受けた翔太は、大型核融合ミサイルをコムラサキ星系の大地から発射させた。

 爆炎を噴出しながら進むミサイルが、ブラックシープの艦底の中央に命中する。翔太の狙い通りだった。

 お宝屋は、巨大花火の打ち上げに成功したのだ。

 だが、ブラックシープは極秘任務用だといっても宇宙戦艦である。大型核融合ミサイルとはいえ、一発で沈むほど柔な艦ではない。

 逆に宝船は空中に止まり続けられず、凄い勢いで高度を落とす。

 傍からみると、宝船が撃墜されたようにしか見えない。この時、アキトと千沙はカミカゼから宝船と七福神が空を舞う様子を目撃したのだ。

 完全に不意打ちをくらったブラックシープは、混乱の極みに陥っていた。

 そしてジンが、この隙を見逃すはずはない。

 しかしユキヒョウは、大気圏突入中という船を安定させるのに難しい状況にある。その上ブラックシープは、幽谷レーザービームの有効射程範囲外にあった。

 それでもジンは、幽谷レーザービームを一斉射撃し、その全弾をブラックシープに命中させたのだった。

「これで、千沙たちに大きな花火は届けられか?」

「まあ、それは間違いないよ・・・。そうそう、これで戦争が勃発したら、僕たちだけでなくアキトにも責任がある。いやいや、コムラサキ星系にやってきたアキトにこそ責任がある。だから一蓮托生さ。そうなれば、僕たちが千沙とアキトを保護しなければならないよね。新生お宝屋の誕生さ」

 墜落中の大変な状況だったが、余裕のある2人だった。

 翔太が宝船の制御を完全に握った今、ゴウには絶対の安心感がある。翔太に無理だったら、どうしようもない。

 そう諦めもつくのだろう。

 ただ今回の場合、半分演技での墜落なので、無事は保障されていた。

 ユキヒョウはブラックシープが墜落し、宝船が溪谷に不時着した後、モーモーランドの基地と関連施設を強襲したのだった。

 これが、今から4時間ほど出来事であった。


 渓谷に不時着した宝船の処に、ジンが千沙を連れて戻ってきた。

 そこには、彩香とゴウ、翔太が手持ち無沙汰で待っていた。既に彩香が最低限ヒメシロに戻れるだけの部品を宝船へと提供し、ゴウと翔太はその部品の整頓を終えていた。

 アキトに修理を押し付ける気でいたらしい。彼の姿がないのを見て、ゴウと翔太は色々な意味で残念そうにしている。

「汝らは、これよりどうするのだ?」

「ふむ、部品の提供感謝するぞ。俺たちはトレジャーハンター”お宝屋”だ。ならばやる事は1つだけ、トレジャーハンティングだ!」

「ミルキーウェイギャラクシーの基地は私達で破壊しましたが、生き残りやグリーンスターがいます。危険と考えますが・・・」

「いやいや、トレジャーハンティングに危険は付き物だよ。僕たちは、この宇宙劇団の一員。君たちもそうなのさ。そして、このシナリオのない舞台で、僕たちは必ずハッピーエンドを迎える。もちろんアキトにもハッピーエンドになってもらう為、お宝屋に戻ってもらうつもりなんだよね」

 お宝屋が絡むと、悲劇でも喜劇にかわる。

 トレジャーハンターの中では有名な話だった。無論、ヒメシロ星系のトレジャーハンティング関連の仕事している者にも知れ渡っている。

 それを彩香たちは、重力元素開発機構ヒメシロ支部長の桜井に耳打ちされていた。

「あなた方は真面目に生きられないのですか?」

「なんだと? 俺たちはヒメシロ星系でも、屈指の高収益優良トレジャーハンティングユニットだぞ」

「まあまあ、ゴウ兄。彼女は、こう言いたいのさ。もっと私のことも真剣に考えて欲しいと、ね」

「なるほど! 流石は翔太だ。やはり女心の機微については、俺では敵わない。しかし、俺にも好みがあるぞ・・・」

 呆れ果て言葉もでませんね。兄弟揃って女心の”お”の字すら解っていないようです。

 そんな彩香に、ゴウが身体ごと向いて言い放つ。

「うむ、ごめんなさい!」

 頭を下げたゴウへと、彩香は全力で膝蹴りを飛ばしたいのを危うく抑えつける。

 そうじゃありません。口を開くのも面倒なぐらいに話が噛み合わない。それに、私が振られたような台詞には我慢がなりません。

 あなたは私のタイプでない、と断言するため、口を開こうとする。

「酷いよ、ゴウにぃ」

 彩香より早く千沙がゴウを非難した。

「もう少し、言いようがあるよ。お互いを良く知るところから始めましょうとか・・・」

 あなたは女性でしょう。

 理解しなさい。

「いやいや、ゴウ兄。真剣に考えるなら、もう少し時間が必要だよね」

 時間の問題ではないです。

 お宝屋は、バカばかりですか・・・?

 アキト君が随分と可愛く思えてきますね。

「汝ら、少し冗談がすぎる」

 ジン様が漸く纏めに入ってくれるらしい。

「いくら彩香が年上でも、レディーの扱いができねば一人前とは言えぬな。良いか、女性に恥かかせぬように振る舞う。もし、己が泥をかぶれば丸く収まるのならば、己の心を滅してでも行う。それが紳士というものだ。お宝屋として、トレジャーハンティング業界という狭い世界で認められても、汝は社会人として、業界で一流な人材としては認められない。解るな?」

 ・・・気の所為でした。

「ぐぬぅう。・・・認めようぞ。確かに貴様の言は正しい。俺はトレジャーハンターとして一流になり、人としても一流とならねばならない。うむ、話を聞こうではないか」

 ジンの刃のような雰囲気にも呑まれることなく、ゴウの偉そうな態度は変わらぬ。

「新開家とは、どんな繋がりがあるのだ?」

 お宝屋3人の表情が固まる。千沙などは、あからさまに視線を逸らした。

 流石のゴウも口を噤んでいる。

「まあまあ、そんなこと気にするようなことじゃないさ」

 軽薄を前面に出して、翔太が話を有耶無耶にしようとする。だがジンは揺るがない。

「汝らの船、装備。いずれも新技術開発研究グループの最新型だな」

「付け加えるなら、一介のトレジャーハンターに維持するのは不可能なほど、莫大な費用もかかるでしょう。たとえ、あなた達が超一流のトレジャーハンターであったとしても無理です」

「そうそう、だからアキトにはお宝屋に戻ってきてもらいたいのさ。あんなにも修理が得意なトレジャーハンターはいないからね」

「あたしは、アキトくんに戻ってきてもらいたいだけなの・・・。他には、何もいらないよ~」

 明るく可愛い笑顔を魅せ、恋する乙女の表情を浮かべる千沙を眺めて、彩香は心中で呟く。

 可愛いだけで通用するのは今の内だけですよ。それだけでは風姫様に勝てません。ライバルにすらなりえませんね。

 だが、千沙は可愛いだけの少女ではない。彩香は、彼女の本質と実力を知らないだけなのだ。それだけに、どうしても身贔屓をしてしまっている。

「確かに新開家とお宝屋には関係がある。だが俺は言わんぞ。それと、アキトにも教えるな! 絶対にだ!」

 彼の雰囲気が危険な香りを放ち始めた。

 ゴウの体が一回り大きくなったように見える。それは、眼が離せなくなり大きくなったように錯覚しているだけだなのだが・・・。

 それを理解しながらも、彩香は強い圧力を感じた。

「ほう、良い度胸だ。我の前で口答えするばかりか、命令までするとは・・・」

 ジン様は、伊達や酔狂で命を賭けられる。

 以前に「生きる目的を既に達成した故、今は余生であり、この世に未練はない」と静かに語っていた。。

「他人が踏み込んではならない領域というものがある。助力には感謝するが、これ以上の関わり合いは止めてもらおうか」

 ゴウが戦闘態勢をとりつつ、獰猛な笑顔で凄んだ。

 ジンは自然体ながらも、隙がない。

 両者とも戦う準備は調っている。

「人でなければ踏み込んでも良かろう? ならば、我は踏み込んで良いな」

「・・・なに?」

 ゴウの気が逸れた刹那、彩香はジンの前に立ち、2人の間に割り込んだ。

 驚いたことに、彩香の前には翔太がいる。そして千沙はゴウの腕を掴んでいた。あの瞬間に翔太と千沙も動いていたのだ

「まあまあ。イイじゃないか、ゴウ兄。僕たちは新開家と契約しているのさ」

「翔太、待て!」

 ゴウは人一倍、契約について煩く細かい。彼は翔太の肩を手で掴む。

「もちろん契約内容は、言えないけどね」

 ジンの前にいた彩香は、一歩横へと移動した。

「・・・」

 口も体も固まったゴウを目に治めつつ、ジンに決断を促す。

「ジン様。この辺りで・・・」

 ジン様にとっては何よりも風姫様が大事である。いくら伊達と酔狂で生きていても、より重要な事を優先する。今が潮時でしょう。

 ジン様もそう考えているはずと、彩香は確信していた。

「そうよな・・・。お宝屋よ。もう問うまい、好きにせよ」

「わたくしからは、一つだけ忠告してあげます。風姫様に関わると命が幾つあっても足りません。と言うより、命がなくなります」

 彩香としては真摯な忠告だったのだが・・・。

「ルリタテハの破壊魔だろうが、俺とアキトの仲は破壊できんぞ」

「僕とアキトは親友だからね」

「あたしとアキトくんは、これからずっと一緒にいるよ~」

 全然意味がなかったようですね。

「アキト君に関わるのは、わたくし達との契約を終えてからにしなさい」

「彩香、良い。汝らは汝らの勝手にするが良い」

「忠告はしましたよ」

 お宝屋は彩香の捨て台詞に、三者三様の笑顔で返したのだった。

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