第10話 限られた時の中で
骸の王による攻撃は身動きできない彼らに身構える時間すら与えなかった。それは一瞬。化け物は女の言葉を忠実に従い命令通り潰した。
「将太!! レミファード!!」
彼らの名を何度も何度も呼び叫ぶが息が詰まる。頭の中が白で埋め尽くされた。
「………イヤ、そんな……やだ、ヤダ、いや」
男達の身体から鮮血が溢れ出る。流れ出た血は段々と広がり岩盤に染み込ませていく。
「……お願い、返事して」
「シャル。彼らにはもう届きませんわよ。ふふふ、それにしても」
鉱内に漂う血の匂いを嗅いだ女は口元を上げる。
「ブザマ。無様ですわ、この上なく」
黒い笑顔は無抵抗のまま骨の柱に絡む女神に視線を移す。
「それと、女神である貴方がこのザマでは彼らも浮かばれませんわ。ふふふ、今じゃ只のメスですものね」
「…………しょうた……れみふぁーど」
「貴方には眠ってもらいますわ。それと彼らのことは心配せずともよろしくてよ。死体はスケルトンに致しますから。皮を剥いで肉を削ぎ落し、臓物を抉り出しますの。貴方が目覚めるころには出来上がっていますわ。ふふふ」
「……そんな……させ」
「イイわァ、その
「………おねがい……かれら……を……だけでも」
「おやすみ、シャル」
「うッ………―――――――」
「ふふふ、あははははははは。あっけないですわ。もう少しぐらい粘るかと思ったのに」
女は
「ッ!? あらァ、まだ生きてましたの。善くもまぁそんな身体で立てますわね。往生際が悪いったらありゃしませんわよ。勇者」
「……」
「キングの攻撃を浴びるように食らったというのに。ふふふ、全く。痩せ我慢だとしてもその
「……」
「その悪足掻きに免じて貴方に選択肢を与えますわ。と言っても、ほんの少し死期を遅らせるだけ。私の靴を綺麗にしなさい。お気に入りの靴でしたのに残念ですわ。ほら舐めるなり、拭くなり、お好きにどうぞ」
「……ゃねぇ」
「え、今何か言ったの? そんな虫のようにか細い声では聞こえませんわよ。ふふふ」
「ナメんじゃねぇ……テメェの汚ねぇ足ぐれぇテメェで洗え」
「ッ…………そう、そんなに死にたいの。ではお望み通り、シネェ!!
放たれた鋭利な骨は勇者の胴体に突き刺さる。
「グウッア!!! ガァァァッ……ハァハァハァ」
「な、なんで立ち上がれるの。なぜですの。どうして、どうして!」
「テメェには、ハァハァハァ……一生ワカンネェよ」
「くッ、この!!」
この場において私が圧倒的に優勢なのに。何この感情。コケにされたような苛立ちは。腹が立つ。残り
「キング! 今度こそ確実に奴の息の根を止めろ!!!」
「!!」
迫る剛腕を避ける体力など微塵もない。男は死を覚悟した。
「ッ!! キングの腕が!!」
直ぐそこまで迫っていた右腕は寸前で切断され背後の壁に叩きつけられた。
「!! けッ」「……フン」
「あの騎士。………この猿芝居どもが!! キング潰せ!!」
「ここは任せろ。早く、シャルデュンシー様を!!」
「あぁ」
「逃がすか!!
全て塞いだ、風など吹くはずがない。どうして……どうして。
「……間に合ったか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「BBA。ハァハァハァ、今助けてやる」
勇者は
「ぐぐぐッ、オラァ!!」
そして女神を全身で受け止める。
「BBA!」
「ンッ………将太! 良かった。!? その傷!
「
「
「この私をココまでコケにしたことは賞賛しますわ。でもその代償は貴方達の命でよろしくてよ。ふふふ、この虫ケラ共がァ!!!!」
「BBA、さっさとあのアマとの
「で、でも。その傷」
「コンぐれぇ、唾ぬっときゃ治る。さっさと行け」
「う、うん」
「おい、金髪。あの、デカ物の倒し方はなんだ!」
「図体が大きくなれど同じことだ。脊柱………背中を破壊すればいい」
「上等だ。俺がブッ壊す!!」
「左腕は私が引き付けておく」
「あぁ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「
「
両者の間で攻防が続く。女の繰り出す鋭利な骨は幾度となく光の壁に弾かれる。女神の周りには散った骨のカスが溢れていた。
「く、クソ」
「もう、諦めなさい。レティーナ」
「五月蠅い! 黙れ!!」
さっきから、魔力供給が出来ていない。あれが、箱に入っている限り魔力は尽きないはずなのに………!? まさか!
「シャル! それは何!! 何を持っているの!!」
「宝箱に入ってるものだから、どんなお宝かと思ったら」
女神の手には禍々しいほど黒く何もかも飲み込む渦。
「宝玉!! カエセ!!」
「
「クソがァ!!」
何故……おかしい。他にも仲間が? いえ、生体反応はこの三人しか感じられない。瞬間移動? いえ、そんな隙は与えなかった。
「………解らないみたいね。答え合わせよ」
女神の背後からそれは現れた。
「せ、精霊? まさか騎士の」
「えぇ。彼を守護している風の精霊。リルちゃんよ」
◇◆◇◆◇◆◇◆
数刻前。炭坑入口。
『――――――炭鉱内………何か引っかかるわ。リルちゃんを外に待機させましょう』
『畏まりました。リル、何か異常があれば力を使ってくれ』
『……やっぱ、テメェらクスリやってんだろ』
◇◆◇◆◇◆◇◆
「骸の王の維持、私との戦闘で魔力切れね。貴方の負けよ。レティーナ」
「ナめるなァ!! 私は魔王軍・第六席次。グラニミス!! ……敗北はあり得ない!!!」
「これ以上の戦闘は貴方自身を深く傷つける! もう、終わりにしましょう!!」
「私は、私は負けるわけにいかない!! あの方のためなら私は何でもする!! 例え、この身が滅びようと!! かつての友を失おうと!!!」
「………分かってくれないのね」
瞬間、女は全てを失った。
「
「!?」
半球型の光の壁は女を閉じ込めた。
「だ、出せ!! このォ!!」
女は抵抗する。魔力は疾うに尽きている。しかし、それでも醜く、
「出来ればこの力を使いたくなかった。でも、これ以上魔力を出し切ってしまったら幾ら貴方でも……私は貴方を救いたい!」
「シャル!! 出せッ!!!」
「貴方に神罰を与えます!!」
「ヤメロッ!!」
「
光の筒は女の身体を包み込む。叫声はその檻の中で光に飲み込まれていった。
「ッ!」
意識が……堪えるの。彼女のために、手を緩めるわけにはいかない! 私は彼女をレティーナを救いたい!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「これでシメェだ! オラァ!!」
白き障壁は勇者の怒涛の猛攻に耐え切れず。
「将太、退け!!」
巨大な死は根元から砕け崩れ落ちてゆく。力を失った巨人は落ち、只の瓦礫と化した。
「ハァハァハァ」「………」
「あっちもスンだミテェだな」
「そのようだな」
光の筒は徐々に細くなり、中から女性の姿が現れた。女神は涙目の笑顔でそれを深く抱きしめる。
「んじゃ。コッチも
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