第346話 違和感②


 祐人はニイナの表情からおそらく自分と同じ疑問をニイナが考えていると憶測した。

 しかし今は祐人はアローカウネに言われた通り、ニイナの質問に答えていく。ニイナの考えがまとまるまでそうしていくことが良いだろうと考えたのだ。


「ただこいつらは数ヵ月前から調査して機会を探っていたと言っていた。だから今、ここ最近で黄家の敷地内に出入りしたことのある人物や業者に不審な人物がいないかを調べているって言ってたよ」


「ということは事前に綿密に調査していたと。では昨日に襲撃すると以前から決めていたということですね」


「そういうことになるね」


「あの場にいたSPIRITの方々や孟家の方々、あと俊豪さんたちについてはどうなんですか? やはり相当強いんですよね」


 そう、ここがニイナと同じく祐人も疑問が晴れないところだった。

 何も言ってこないが大威や雨花も同じことを考えているはず。


「正直に言うと分からない。でも俊豪さんはランクSSだ。強いなんてものじゃないと思う。あとSPIRITの人たちはアメリカの能力者部隊の幹部のようだから弱いわけがないと思う。唯一、孟家の人たちに限っては戦闘向きではない可能性があるから何とも言えないかな」


 この時、ニイナの目に力が籠る。

 段々、疑問点が整理されてきた。


(でも今は疑問が疑問を呼んでいる状態です。もっと材料が欲しいです。損得のベクトルがまだ絞れない)


 あとは祐人の聞いたことと着眼点、判断力、そして経験を頼りたい。


「堂杜さん、その人たちの雇い主については?」


「仕事を仲介屋から紹介されただけで知らないと言っていた。まあ、それは裏稼業ではよくあることかな」


「分かりました。では堂杜さんが不審に思ったことはないですか?」


「不審に感じたこと?」


「何でもいいです。今回の件とは関係ないと思うことでも構いませんし、私と考えが被っているかもしれないと遠慮もしないでください」


「うん、分かった。まずは襲撃のタイミングがおかしい。これはニイナさんも感じていることだろうと思うけど、黄家の直系たちが集まる場所に、しかもこれだけの大物が集まっているところに襲撃をしてくるだろうか、というところだ」


 祐人の意見にニイナは同意するように頷く。


「さらに言えば、それは尋問の時に言った綿密に調査しているというところと矛盾する。それなら奴らはすぐに来客に気づいて襲撃を取りやめるはず。〝失敗〟イコール自分たちの〝死〟に繋がるような状況で、ただの雇われ、がこんな無理を仕掛けてくることが異常だよ」


「それはその通りですね。他に何かありますか」


「そうだね、気になったのはあいつらがとった作戦だよ。あいつら三人はあの時、一人は当然、狙いの秋華さんに襲い掛かった。そして残りの二人は雨花さんと僕に来たんだ。おそらく足止めか、先に片付けるという意味だろうけど」


「どういうことですか?」


「うん、あいつらは俊豪さん、SPIRIT、孟家、なによりも大威さんには目もくれなかったんだ」


 この祐人の説明にニイナは怪訝な表情を見せる。


「おかしいと思わない? まるでSPIRIT、孟家、俊豪さんは絶対に邪魔をしないと分かっていたかのような動きだ」


「そうですね。でも何故、誰も助力しなかったのでしょうか。SPIRITの方々は分かります。黄家の問題に巻き込まれたくはないですし、もし、襲った側が他の有力な能力者だとした場合、黄家への助力が他から思わぬ恨みを買う場合があります。正当防衛にでもならない限り、動かないと想像はできます。ですが……」


「孟家と王家の人たちは違うかもしれないよね。少なくとも断定はできないはず。孟家の人たちは戦闘力が低いから無視、と考えたとしても俊豪さんの介入はあり得る。まあ実際はまったく介入してこなかったけど」


「理由は何でしょう」


「俊豪さんは金にならないこと、言い換えれば依頼以外では無関心なんだって聞いたよ。徹底的にそこはブレないんだって。それは親しくても関係ないみたい」


「変わった人が多いですね、能力者は」


 嘆息しながらニイナは言うが、頭はフル回転している。

 この話で重要なところはそこではない。


「でも、それを知っているとしたら凄い情報量です。恐ろしいほどの」


「それだけじゃない。もし、その情報があったとしても普通に考えてあの場で一番厄介と思うなら大威さんでしょう。それなのに僕と雨花さんを真っ先に警戒した」


「え……でもそれは体調を崩しているという情報が漏れていたんではないでしょうか」


「うん、それはあり得るよ。でも昨日話した感じだとこの件についてはかなり厳重に隠していた。秋華さんが普通に話してきたから僕らはそう感じてしまうかもしれないけど、よく考えたらトップシークレットだったはず」


 ニイナはハッとした。

 祐人の言いたいことが分かる。


「たしかにこれは他の情報と質が違います」


「それに大威さんは病床に耽っているわけじゃなく普段から普通に暮らしていた……まあ、そう演じていたことを考えると中々、外に漏れるはずはない。事実、従者の人たちですら気づいてなかったようだし」


「ということは」


「うん……」


 内通者がいる可能性が高い、ということだ。

 しかし、この点についてニイナはすぐには答えが浮かばない。

 というのも、その情報を漏らしたとして何の得があるのか、ということだ。

 この損得のベクトルが分からない。

 黄家に損をさせたいというベクトルがあるなら分かる。

 分かりやすいところで言えば黄家を恨み、潰したいと考えだ。

 今回は秋華を攫い、【憑依される者】の秘密を暴くため。

 たしかにそう考えれば黄家の損害は測り知れない。


(でも何かしら……どうにも違和感が消えないです。しっくりとしないんです。どうしても綺麗に繋がらない)


 これだけの情報を外に出せる可能性の人間たちは少ない。

 黄家直系か孟家の当主、楽際。そしてあるとして王家の人間。

 個人的な深い恨みとなれば分かるが、結果は秋華を襲撃して暴走を起こしかけ、その際には皆、それを止めようと尽力していたように見える。

 しかし、それは当然だ。もし暴走してしまえば自分たちの命も危ない。

 再びニイナは考え込む。

 同時に祐人も思案を始めた。

 祐人も今回の黄家襲撃をいつものたまにある襲撃だったと考えるにはおかしいところが多い。

 しばらくするとニイナは鋭い視線を上げた。


(あ……)


 ニイナの頭の中で今回の事象だけではない数々の浮かび、最後に浮かんできたのは何故かスルトの剣だった。


「まさか……目的が違う?」


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いつもお気に入り登録、ご感想ありがとうございます。

力になってます。

7巻発売の9月1日が迫ってきました。是非、応援をよろしくお願いいたします。

また電子書籍の方ではSS「止水の授業」がついてきます。


それにしても本編は加筆と修正を目が回るほど忙しかったです。

発売1~2ヵ月前くらいから更新が少なく、入稿して更新の時間を作るというのがサイクルになってきてしまいました(言い訳)

私はリアル仕事をこなしながらなので、本当に体がきつかったです涙(これは本当)


そして! 8巻から4章に突入していきます。

バトルだらけの4章にはどれだけ修正が必要になるかと思うと今から吐血が……じゃなくてワクワクが止まらないです笑

あ、それと7巻のカバーイラストや口絵などが公開しておりますのでご興味がありましたら、私のTwitter等で確認してくださいね。

今後とも「魔界帰りの劣等能力者」シリーズを応援よろしくお願いします。

※追記 近況報告に貼れるの忘れてました!

そちらに7巻カバーを公開してます。




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