第288話 劣等能力者の受難③
事態が読めてきた祐人は顔を青ざめさせる。いや、大して読めてはいないが最後の一悟の言葉だけはよく理解できた。
つまり、いまのところ瑞穂と完璧に釣り合う男はいないが、一番、丁度いい人材が自分だったということだ。
瑞穂はそういうことに間違いなく反対するだろうが、そうはいっても四天寺家の人間。
一悟の言う通り、朱音がそう決めたというのなら逆らえない可能性は高い。
(お前も悪いんだぞ!)
(え!? どこが!? 僕は何にもしてないよ!)
(お前が調子に乗って大祭のトーナメントでやたらと強さをアピールするからだ! そのせいで朱音さん以外の人たちもお前を認め始めたみたいだからな。指令室でも話題になってたぞ)
(ちょっと! それはニイナさんが相手を圧倒して勝つのが良いって……)
(黙れ、アホト! しかも襲撃してきた奴らをお前がメインで戦って大活躍だぁ? 普通はな、迎撃するのは四天寺が担うもんだろ。襲われているのは四天寺なんだからな。それをお前が常に前面で戦って大活躍って……目立ちたがり屋か! そんなもん、婿アピールにしかならんだろうが!)
(えぇえーー!? うわーん! そんなつもりじゃないのにぃ!)
(お前の張り切りすぎが招いた結果でもある! お前……このままじゃ四天寺家の最下層キープ婚約者だぞ。それにな、最下層とはいえ四天寺さんの婚約者だとか学校でバレてみろ。瑞穂推しのファンたちに何をされるか……)
吉林高校では瑞穂、マリオン、ニイナはすでにそれぞれにファン層を抱えており、その勢力は日増しに増えている。それは先行する茉莉と肩を並べるのは時間の問題と目されていた。
(ヒ――! それは嫌だ! 一悟、僕はどうすれば!?)
(だから行け! 祐人! 今のうちに姿をくらまして決勝戦をやり過ごすんだ。さすがに相手がいないならどうにもならんだろ! あれだけの騒ぎだ。相手が消えていても誰も不思議には思わん!)
(わ、分かった!)
意を決した祐人が体を翻し、その場を離れようとすると再度、一悟が祐人の腕を引っ張る。
(待て! 大事なことを言い忘れていた!)
(何だよ、もう! 急がないと……)
(いいか、三日後の土曜日……決して忘れんなよ。必ず来い! そこにはな、お前の守るべき未来がある………………かもしれない!)
(……!)
一悟がニヤリと壮絶な笑みを漏らした。それは己の全てを賭けてでもやり遂げようとする人間の顔だ。
祐人はその笑顔に男……いや、漢を見た。
(ああ……必ず行く。僕の知らない……心優しく、おっとりとした女性との繋がりを得るために!)
「……待ってるぜ! 我が親友よ!」
「おうさ!」
二人はお互いの右拳をコツンとぶつけ合った。
男同士にしか分からない世界はある。
たとえそれがどんなに困難でも。
今、二人の少年は同じ目的と夢を完全に共有したのだった。
その……二人の拳の上にさらにもう一人の男の手が乗った。
「……うん?」
「あれ?」
「話は終わったかい? 祐人君、袴田君」
そこには……にこやかな顔の明良が立っていた。
「もうーー! 何をやってるんですかぁ!」
その後ろには四天寺家のお姉さまに囲まれてマリオンが涙目になっている。
「「あ……」」
一悟と祐人が顔を引き攣らせる。
そこにまだ諦めていないマリオンが声を上げる。
「祐人さん、今からもでも遅くはないです! 早く……え?」
そう言うと同時にマリオンの両側からお姉さま方が微笑を浮かべてマリオンの耳元に何かを囁く。
すると……、
途端にマリオンはガクガクと震え血の気の失せた表情に変わっていく。
「マリオン様、落ち着いてください、私たちは何かしようだなんて考えていません。それはそうと……マリオン様のお部屋にあるメイド……スカートが短い……本当の願望……」
「はい……あのアニメ……とても煽情的……何種類も……仮面……今度の集まりは……」
祐人たちのところまでは何を言っているか聞こえてこない。
「どうしたの!? マリオンさん」
「あ、あれは……白澤さんとニイナさんのときと同じ……!?」
マリオンの顔から表情が消え……そして膝を折った。
「祐人君、袴田君、お話があるので屋敷の方まで来てくれませんか。ははは、心配いりません、我々は何も企んでいませんよ。ただ、今回の件を話し合いたいんです。今後の事も含めて、ね」
明良は何事もなかったように笑い、そして真面目な顔でそう言った。
「これは祐人君も感じているところだと思いますが、今回の襲撃者はただものじゃありません。これは四天寺だけでなく機関の行く末にも大きく影響する可能性が高い。だから今回のことを総括する必要があるんです。分かってください」
そう言われると祐人も顔を引き締める。
確かにそれは必要なことだ。それに四天寺や機関の持つ情報も欲しい。
「袴田君も関係者として来てくれるかな?」
「え? 俺もですか?」
「君もこの状況をつぶさに見ていた関係者ですよ。何か気づいたことがあれば何でも言ってほしいんです。それぐらいの相手だった、ということです。今回はすべての切り口で分析するでしょうから」
真剣な明良の眼差しを受けて祐人と一悟は口を閉ざし、互いに目を合わせた。
「では行きましょう。袴田君、婿殿」
明良のあとについて行こうとした祐人の足が止まる。
「へ? 今……何て言いました」
「ハッ! 祐人、逃げろぉぉ!」
直後、二人は四天寺のお姉さま方に簡単に捕まりました、とさ。
ちなみにマリオンは首まで真っ赤にした顔を両手で覆いながら横で震えていたりする。
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いつもありがとうございます。
「魔界帰りの劣等能力者3.二人の英雄」の発売日が2月29日になります。
発売日が近づいてきて緊張してきました。これだけは慣れませんね。
特典SSの報告です。
メロンブックス様、とらのあな様、電子書籍でご購入の方にはSSが特典でついてきますのでご確認くださいね。予約も始まっているようです!
また、Twitter等で3巻の書影やイラストを公開しますのでご覧くださいね。
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