第281話 鍵たち②



 この時、毅成の攻撃の余波から逃れるために半瞬前に後方に跳んだ祐人とアルフレッド、そして、瑞穂とマリオンはホワイトアウトした視界の中で前方からの衝撃波から身を守るように構えていた。

 しかし、全員の顔に戦慄が走る。

 衝撃波の向こう側から背筋の凍るような巨大な力の片鱗を感じ取ったのだ。

 剣聖アルフレッドでさえ、その顔を強張らせる。

 この瞬間、祐人の戦闘脳が高回転した。


(これは大技……いや、とんでもないものが来る! 何だ? 術なのか!? 召喚なのか、判別できない!?)


 ホワイトアウトした視界が和らぎ、祐人の視線上には水重はいない。だがその先……両手を天に掲げ、頭上におぞましい力の塊を支えるジュリアンの姿が目に入る。


(あれは……!?)


 ジュリアンのそれは祐人の目からは術やスキルなどというカテゴリーに入るものなのか、理解が及ばない。

ただジュリアンの掲げるその球体から伝わってくるのは……憎しみ、恨み、恐怖、悔恨、悲しみ、絶望。まるでそれらが核となり膨大な妖霊力を纏っている。


「ハッ!?」


(この感覚は!)


 祐人の脳裏に魔界で祐人と仲間たちが死闘を繰り広げたある魔神の名が浮かび上がった。

 それは魔界に蔓延る魔神を束ねた魔神の中の魔神。いや、魔神の盟主とも呼ぶべき人族の最大の敵。後にリーゼロッテたちの命を奪ったアズィ・ダハークの支配者でもあった。

 祐人はリーゼロッテたちと共に戦い続けた果てにその存在までたどり着いた。

 やがてリーゼロッテの尽力で魔界における全国家、全人族が再結集をし、ようやくにして倒した魔界混乱の元凶。


(魔神の盟主……パーズス!?)


 祐人の両腕、両足を囲うように魔法陣が浮かび上がる。

 そして祐人の右手首の辺りから漆黒の長刀が姿を現した。


「あれをやらせては駄目だぁぁ!! みんな僕の後ろに!」


 祐人はそう叫ぶと人間のものとは思えない殺気を放つ。


「え!?」


「祐人さん!?」


「き、君は!? 祐人君!」


 瑞穂、マリオン、アルフレッドは祐人の変貌ぶりに目を剥く。

 祐人の殺気はそれだけで敵を圧殺するのではないかというもので、毅成と水重の大技の応酬でざわめく空間を駆け抜ける。

 すると祐人の殺気はまるで空間を逆に静寂で塗りつぶしていった。


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