第278話 三千院水重②
「フッ……」
毅成は祐人の言葉を受けて生意気なことを言う若者だと言わんばかりの笑みを見せたが、目はそこまで笑ってはいない。いや、内心は驚いているといってもいい。
それはたった今、祐人が見せた動きだ。
(見事な動きだ。敵の虚を突き、実(じつ)を切る。三千院のこ倅を相手に、たやすく懐に入るとは……)
と感心しつつも、もう一つ思うところがある。
それはモニターでこの少年を確認した時も感じていたが……似ているのだ。
自分の知っている限り、戦闘において自分をも超えるやもしれないと考えている能力者の動きと。
といっても、その能力者とは久しく会っていない。
長い付き合いのだが、いまだにその素性は知らない。
おそらく聞いている名も本当の名ではないだろう。
だが、機関にとって、これ以上ない深刻な状況には必ず姿を現した男。
それは……もう一人のランクSS。
近接戦闘型の剣士でありながら、中距離、長距離の攻撃術、強力な封印術をも操り、まさにオールレンジで敵と相対できる霊剣師にして万能型の能力者。
(似ている……リョーの動きと)
若いころから共に組んで難度の高い依頼をこなしてきた仲間でもあり、毅成が考える最強の霊剣師。
そのリョーの面影を一瞬だけ垣間見せたこの少年に毅成は無意識のうちに頼もしさを感じたのだった。
(この戦いの感触……懐かしいではないか)
毅成の表情に変化が現れる。
その顔は敵を前に厳しい表情でありながら、どこか楽しんでいるような不敵な眼光。いつも厳めしい表情からは想像できない若々しさすら感じる。
機関筆頭格にして名門四天寺家の当主である毅成を警戒させ、この場で殺さねばならぬと即座に決意までさせたのは三千院水重。
水重との戦いは自分を以てしても簡単には決着しないと分かっていてもだ。
だが……堂杜祐人という少年を見ていると、その闘争心に彩(いろどり)を添え、難敵との戦いもどこか楽しみに思えてくる。
そして、その横にいるもう一人のランクSSも同様のようだった。
「毅成さん、私もやらせていただきましょうか。そろそろリハビリにも飽いてきました」
そう言う剣聖アルフレッド・アークライトの持つ聖剣エクスカリバーがぼんやりとした光に包まれ、その光の強度が増していくのが分かる。
この時、水重の背後でジュリアンに肩を貸しているドベルクは舌打ちをした。
水重の参戦と援護で命を救われたこともあるが、ドベルクは水重の実力には驚愕し、同時に心強くも感じたが状況は好転しているわけではない。
「おいおい……SSが二人ともやる気で俺は有難いがなぁ」
水重が援護してきた際に、すぐに何らかの牽制をして、その場から脱出すれば逃げ出すこともできたかもしれない。
しかし、水重にはそのつもりはなかったようだ。
水重に何の目的があるのかは分からない。長い年月を生きているドベルクですら水重と毅成の謎かけのようなやりとりは正直、理解不能であった。
だが、毅成の様子から精霊使いにのみに分かる何かがあるのかもしれない。
(坊主の実力には驚いたが、この引きこもりの目的なんぞどうでもいい。今はどう撤退するかだ……。もうマリノスの契約人外も全滅寸前だ。これ以上は詰むぞ……うん?)
ドベルクが険しい表情でいると突然、ジュリアンの目が開きドベルクの肩から降りて自身の足で立った。
「やあ、ドベルク。どうやらドベルクの苦労性は見ていられないね」
「ジュリアン! その口調……やっと戻ってきたか。それと何だ、その言い草は……」
「話は後だ、ドベルク。ここは急いで脱出といこう。祐人君がランクSSたちに火を付けちゃったみたいだし……ああ、あそこにいるランクAのお嬢さんたちも、もうランクAどころじゃなさそうだね。これは勝ち目ないね、あはは」
ジュリアンはそう言うとまるで他人事かのように屈託のない笑顔を見せる。
「お前の発案だろうが……というか、もう一人のお前か。まあいい、でもどうするんだ、今のままじゃ逃げるのも至難の業だぞ」
「うん、まあ考えはあるから。それと水重君には来てもらわないと困るしね。彼はいいよ。きっと僕らの力になってくれる」
「引きこもりを? また変な奴が増えていくな……へいへい、まあいいわ。考えるのはお前に任せる。あとは指示をくれ。オサリバンも動けるな?」
ドベルクはそう言うと水重の背後でジュリアンの指示にすぐ対応ができるよう臨戦態勢を整えた。
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