第276話 四天寺総反撃④


「う、うぐ……」


(な、何だ!? まったく気づかなかった。か、体が……)


 祐人は戦闘中に突如、受けた雷撃の余波で身体がいうことをきかない状況に極度に焦りを感じていた。わずかな時間でも戦場で動けなくなる、というのは死を意味するからだ。

 すると、少しだけ機能が回復してきた耳に毅成の声が入ってくる。


「その若さでさっきのような戦い方は感心せんな、少年。自分へのダメージを度外視で倒しにいくとは後先、考えなさすぎだ」


 必死に動こうとして立てない祐人を毅成は鋭い眼光で見下ろした。


(大したものだ……敵に全集中していたために止められたか。名は堂杜祐人だったか……しかしさっきのあれは敵に勝つための戦い方ではない、ただただ敵の命を奪うためだけの戦い方だ。このような若者が……一体、何を考え、何を背負ってあんな戦い方を)


 毅成は能力者の世界はときに殺伐とすることを知っている。言ってみれば、この入家の大祭もそれを見越し、四天寺が先手を打っているのだ。しかし、それを加味してもさっきのこの少年の戦い方は尋常ではない。

 目の前の敵を殺すために自分の身を、ああも簡単に切り捨てられるだろうか。

 それはまるで己自身などよりも大事なことがあると知っている、もしくはそう刷り込まれた人間がする判断だ。

 ましてや朱音から聞いているのは、この大祭を荒らす者が現れたら対処してほしい、という依頼を受けてもらった、というものだ、それだけでここまで出来るものだろうか。


(偶然、この敵が自分自身に関わる重大な何かに触れたのか……もしくは)


「おい、ジュリアン!」


 すると祐人と同じく吹き飛ばされたジュリアンにアルフレッドと戦っていたはずのドベルクが肩を貸して立ち上がらせる。雷はジュリアンよりに落ちたのか、ジュリアンの方が祐人よりもダメージが大きそうだった。

 二人は外から見ても満身創痍の体でとても戦えるような状態ではない。その後ろで目を血走らせているオサリバンも両腕が不自由なままで格段に戦闘力を落としているのが分かる。


「ふん、逃しはせんよ。人の庭でここまで好き勝手に暴れたのだ。責任は取ってもらおう」


「毅成様、申し訳ないですね。邪魔をさせました」


 この時、剣聖アルフレッドがすっと姿を現し、一瞬だけ祐人に視線を移すとすぐに前を向いた。


「構わん」


 毅成は視線だけアルフレッドとアルフレッドの持つ愛剣エクスカリバーに向けるととそう答える。


(その剣の輝き……まだ、かつての力を取り戻せてはおらんか)


 毅成は乏しい表情でわずかに眉を顰めると、毅成たちの目の前にいるドベルクたちは機関の誇るランクSSを前から離脱のタイミングを測っているようだった。


「……ハッ、やっぱり逃げるにゃ、俺が一肌脱ぐしかねーか。マリノスの可愛い契約人外もほとんどやられちまったようだしな」


 ドベルクがニッと笑うと、まだ動けずに唸り声をあげているジュリアンをオサリバンに預けた。

だが、それを無視するように毅成は上空に右手を上げ、まるで天空を掴むような仕草を見せた。


「逃がさぬと言った。四天寺に仕掛けた、ということを甘く考えるな」


 途端に稲光を伴う暗雲が天を覆う。

 するとドベルクやジュリアン、オサリバンの周囲にバチバチと静電気が弾けるような光が多数現れた。


「こ、こいつは!?」


 魔人化しているドベルクが目を見開き、思わず頭上に顔を向ける。

 ドベルクの視界に……凄まじい光量を放つ雷が押し寄せてくるのが見えた。この世から跡形もなく自分たちを分解せしめてしまうだろう神の怒りを具現化したような光。

 直後……その光がドベルクやジュリアンたちを包み込もうとした。

 だが……これと同時に毅成は眉を上げる。

 すると、ドベルクたちの周囲に突然、湧き出すように現れた霧のような水蒸気がドベルクたちの頭上を傘のように覆いだした。


「むう……!」


 雷の轟音が鳴り響き、周囲に光が溢れる。だが、その眼前では雷を防ぐ水蒸気の傘に守られた襲撃者たちがいた。


「おいおい、これは……」


 死を覚悟したドベルクもこの状況が上手く理解できていないようだった。


「やっと……やっと現れて頂けましたか、四天寺毅成様。あなたが現れるのを待っていたんですよ」


 ドベルクたちの背後から水蒸気の霧を割るように澄んだ声が聞こえてきた。

 この時、祐人は体の自由を取り戻し立ち上がった。今、起きた状況も見ていたために警戒するように前方に目を向けた。

 毅成は僅かに目に力を籠める。


「お前は……三千院の」


「はい……水重です。お久しぶりですね」


 その女性と見紛う色白の顔の水重は澄ました表情で現れ、毅成たちと対峙した。


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