第275話 四天寺総反撃③


 ジュリアンは高速で移動しながらダンシングソードの刃に圧縮した霊妖力の塊を十数発、作成する。祐人の目からもその一つで自分を殺傷するに十分な威力を持っていることが分かる。


(速い、速くなった! それに強い……ジュリアンはやはり剣士ではないな、このスタイルが本来のスタイルか。一度も手合わせをしていなかったら、押し切られていたかもしれない)


 ジュリアンは今までと違い、剣での戦いを仕掛けてはこない。それよりも祐人とある程度の距離を保ち、剣を振るうと妖霊力のエネルギーボールが祐人を襲う。

 ある程度の誘導性があるらしく祐人を追いつめるが、祐人に着弾する直前に祐人が移動方向を鋭角に変え、またはそのボールを倚白で誘い、背後に促す。

 次々に祐人が半瞬前にいた場所で凄まじい爆発が起き、周囲に爆風をまき散らす。

 祐人は構わずにジュリアンに肉迫し、倚白を突き立てるとジュリアンは霊力障壁をだけを残し、高速で後方に移動した。

 祐人はハッとしたように障壁の手前で急転回して、次のジュリアンの攻撃に備える。


(クッ、この障壁はトラップも付加されてるな。触れれば発動するように組まれている。この能力……おそらくジュリアンは霊術師の亜種だろう)


 と祐人は考える。霊術師とは魔術師の霊力系能力者の呼称だ。だが、その動きは霊術師の範疇を超えている。

 高威力の中距離攻撃を放ちつつ、高速移動と祐人の攻撃を受けきる驚異的な身体能力は意外性はないがここまで錬磨すれば隙がない。

 さらに敵に近づかれたときには強力な霊力障壁を展開し、無理に突破しようとすれば全身にダメージを受けるようになっている。

 ジュリアンは祐人が自分を攻めあぐねている、と理解し、ニヤリと笑う。


「どうした、堂杜祐人! てめえが仕掛けてきたんだろ! まさかここで逃げるってことはないよな! まあ、逃がさなねぇがな。お前はここで殺す。生かしておくわけにはいかねえ奴だ!」


 そう言うとジュリアンはさらに多くの霊妖力の塊を作り出す。

 祐人は表情を変えずにジュリアンの攻撃をただ睨みつける。


「おーら、次は躱せるか? はあ! 死ねぇ!」


 ジュリアンが多数のエネルギーボールを放った。

 すると祐人は大地を蹴り、なんとジュリアンに真っ直ぐ突っ込んできた。


「馬鹿が! この期に及んで自暴自棄か!?」


 ジュリアンは意表を突かれるが祐人の無謀ともいえる行動を嘲笑する。


(こういう馬鹿を数えきれねーほど見てきたが、まさかお前がそうくるとはな。攻めあぐねて、ジリ貧になるならと、もっとも馬鹿な選択肢をとった雑魚どもと一緒とは)


 そう考えたジュリアンは今、祐人に多数のエネルギーボールが着弾する直前に祐人と目が合った。そして、そのまま祐人の姿は集まってきたエネルギーボールの陰に隠れて消えた。

 祐人の目を見たジュリアンに……寒気が走る。

 無意識下に久方ぶりの恐怖が己自身を包んでいく感覚を覚えたのだ。

 祐人を中心に立て続けに爆発が起こり、どう考えても無事に済むわけのない状況をジュリアンは確認する。

 だが何故か……ジュリアンは咄嗟に多数の霊力障壁を展開し、その場から離脱しようと力を込めた。

 その瞬間、爆風の中から闘気を放つ祐人が姿を現す。


(な!? だが、トラップ障壁は展開済みだ! 遊んで作った障壁と思うなよ? その数の障壁に触れればてめえ死ぬぞ……う!)


 祐人の移動速度は衰えないどころか、その目は真っ直ぐにジュリアンを捉えている。

 その殺気を含んだ目にジュリアンは……目を広げる。


(こ、こいつ……まさか、そのまま来る気か! 馬鹿な……)


 祐人がトラップ障壁など意に介さずに倚白を横に薙ごうとした……その時、

 上空が突然、暗雲が現れた。

 その直後……視界を真っ白に奪う光と耳を襲う轟音が鳴り響く。


「!?」

「ぬああ!」


 天から雷(いかずち)が、祐人とジュリアンの間に落ち、ジュリアンの障壁は跡形もなく消滅し、それだけではなくその余波で祐人とジュリアンは後方に吹き飛んだ。

 至近に落ちた雷で祐人とジュリアンの目と耳は機能を停止し、体中が痺れ、起き上がることもできない。


「人の家の敷地でこれ以上、騒ぐな。休めんだろうが」


 そう言う和装の男が姿を現し、倒れて動けないでいる祐人の横で立ち止まった。

 その男……四天寺家現当主にして世界能力者機関における五人のランクSSの筆頭格。

 二つ名は【雷光使い】、【雷公】、【雷帝】、【雷獅子】と多数、存在するが、その所以はたった一つ。

 大地と大気の精霊をわが身のごとく操り、その雷は魔神をも葬った機関最強の能力者。

四天寺毅成が参戦してきた。


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