第258話 四天寺総力戦②
祐人は三方向から襲いかかってくる神剣持ちに対し、その場から即座に四天寺重鎮席の反対方向に離脱する。
(乗ってきたね……ちょっと賭けだったけど。こいつらの話を聞いている限り、どうやら行動原理は強い恨みだろう……現体制、現能力者たちへの。だから、機関の筆頭格の家系である四天寺を狙った。でも、恨みだけで集まった強者なら指揮系統や連携はゆるいと思ったよ)
と、考えるが、祐人に余裕など微塵もない。
祐人の目から見たこの三人の実力は未知数でありながらも、さっき放った霊力、妖力のプレッシャーから鑑み、自分と同等かそれ以上の力を秘めていると感じ取っていた。
(研ぎ澄ませ! 本気でやらないと、瞬殺される!)
祐人に久方ぶりの戦場特有の緊迫感が脳裏に走る。一対一で戦った燕止水との戦いのものとはまた違う、多人数戦闘の空気。
このとき、魔界で数多の戦場を駆け抜けた祐人の戦闘脳にスイッチが入った。
祐人は走りながら深く息を吐く。
「ハアア!」
全身の筋肉、神経、血液、氣の流れを知覚すると同時に、祐人の臍下丹田に小さく圧縮された仙氣が解放される。これは祐人が戦いにおいてスロースターターだった自分の欠点を補うために編み出した奥義だ。これにより祐人の本領を瞬時に発揮させる。
そこに、もはや超人と化したオサリバンが怒りの声を張り上げた。
「逃すかよ、小僧! 大言壮語を吐いておいて躱すだけに集中するとかじゃねーだろうな! 俺たちをガッカリさせんなよ!?」
祐人に初撃を躱され着地した三人は殺気だった目で祐人の姿を捉え、オサリバンはまっすぐ祐人を後方から追う。ジュリアンはオサリバンの行動に舌打ちしながら怒鳴る。
これではオサリバンが邪魔で中距離攻撃ができない。
「クソが! ドベルク、囲め!」
「もうやってるよ!」
三人の襲撃者の体から強大な霊力と妖力が溢れだし、踏み込む足が大地に深くめり込む。
ジュリアンとドベルクはオサリバンの左右から回り込むように加速し、祐人の前方へ出んとした。
だが、三人は標的の少年を包囲できない。
何故なら、なんと祐人はジュリアンとドベルクが左右に展開すると同時に体を翻し、後方にいるオサリバンに仕掛けたのだ。結果として二人は祐人とすれ違うことになった。
「なに!?」
「……このやろう」
突如、正面から祐人を迎い撃つ形になったオサリバンはこの祐人の行動に白目のない黒眼を広げる。
「はっ! 面白れぇ! その素っ首を切り落としてやる」
神前功のチームを撃破したオサリバンと祐人が激突する。
オサリバンはギリシャ神話でメデューサの首を刎ねたとされるハルパーを突き出す。その神剣は触れたすべてのものを、まるでゼリーを切るかのように両断する力が付与されたものだ。たとえ、それが相手の持つ剣だろうが同様である。
(てめえの持つ得物ごと貫いてやる!)
互いに猛スピードで接近し、常人の目では認知できない相対速度で襲い来るハルパーを祐人は倚白の先端で弾き、軌道をずらすとハルパーは祐人の左頬の横を通り抜ける。
「!?」
神剣を弾かれてオサリバンは目を見開いた。
(俺の剣に触れて弾くだと!? なんだ、その剣は!?)
すべてを切り裂くはずの神剣を弾かれ驚愕するオサリバンに構わず、無表情の祐人は肉迫した。祐人の流れるような、しかし、大波のような力の流れをオサリバンは見てとる。今まさに祐人は自分の懐に足を踏み入れんとしている。
だが、オサリバンは同時にニヤリとした。
湾曲した形状のハルパーの内側を祐人の首に側にし、祐人の踏み込みよりも早く引き寄せる。ハルパーの刃は内側が鋭く、本来、その内側で敵の首を刈り取るものだ。
祐人のがら空きの背後から、その首を刎ね飛ばそうとハルパーの刃が襲う。
(死ね!)
すると、祐人は倚白を背中から垂らすように大上段に構えてハルパーを受け止める。
「なにぃ!?」
しかも、それだけではなく、祐人はオサリバンの一刀足の間合いに足を踏み入れ、受け止めたハルパーごと満月を象るように倚白を振り下ろした。
ハルパーを巻き込みながらの凄まじい膂力での剛剣。
オサリバンは咄嗟に神剣を手放して、回避しようと後方に飛ぶ。
なんとか祐人の剛撃を躱して着地すると、祐人の姿はない。
(な、どこだ!?)
すると、左前方にすでにこちらに背を向けて、包囲しようと迫るドベルクに仕掛ける祐人の姿が見える。
「マリオンさん!」
「はい!」
祐人は叫びながらドベルクと激突し、ドベルクの神剣にして大剣ダーインスレイブと倚白がぶつかり合う。
「おいおい、今度は俺かい? 時間差攻撃のつもりかもしれねーが、それは欲張りすぎだぜ、小僧!」
互いの剣を間ににらみ合う祐人とドベルクだが、そこにジュリアンが祐人の背後に迫る。
その時、オサリバン、ジュリアンの足元に光のサークルが現れ、下方から天使の白い手が二人の足を掴む。
「これは!」
「チッ、くだらねえ、子供だましを!」
オサリバンとジュリアンはすぐさまマリオンの足止めの術を払うが、これがごくわずかな時間を祐人に与える。
祐人はドベルクの剣と押しあいながら、途端に力を緩めて左にいなすと、下方から神速の右回蹴りをドベルクの横腹に放つ。
「ぬう!」
ドベルクはその祐人の蹴りを避けられぬと判断したのか、相打ち覚悟でいなされた神剣を横に薙いだ。すると、祐人は人間離れした動きを見せる。なんと右回し蹴りが軌道を変えて、ドベルクの大剣の剣の平の上にその足を乗せたのだ。そして、そのまま後方に飛ぶ。
「曲芸師か! てめーは!」
その後方にはジュリアンがいた。思わぬ奇襲を受けることになったジュリアンは、祐人の動きについていけない。しかし、ダンシングソードが反応して倚白を自動に迎え撃つ。
祐人はそれを読んでいたように倚白を手放すと、ダンシングソードが倚白を弾き、遥か上空に高回転しながら消えた。
「!?」
この刹那、ジュリアンはやや上方にいる祐人の殺気を放つ目と合う。
同時に体中に悪寒が走った。が、ダンシングソードの倚白を弾く動きに体が開き、回避行動に移れない。
直後、祐人は凄まじい殺気と共に、右掌打をジュリアンの脳天に叩き込んだ。
「ムグウ!」
ジュリアンの脳は揺れ、歯は砕かれ、身体ごと地面にめり込み、下半身の全てが地中に収まった。
祐人は空中で回転し着地をすると、その右横に倚白が上空から落ちてきて突き刺さる。
表情を変えない祐人は立ち上がりながら倚白を引き抜いた。
すると……それがまるで合図かのように、オサリバン、ドベルクの体にいつの間にか刻まれた傷が開き血が噴き出した。
「カハァ!! まさか、当たっていたのか!?」
「グウ!!」
オサリバンは右肩から胸にかけて深さ2センチにも達する刀傷が現れ、ドベルクの顔には無数の切り傷が出現する。
祐人は体を翻すとすぐさまドベルクに再度、突進した。
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