第127話 ゴライアスの丘

「嫌な位置にいるわね」


 ラングルーネ基地へ向けて進軍中、リーブ山地の麓を進みいよいよ植生の濃い地域から抜け出そうというとき、タマキは隊員の足を止め、目に入った帝国軍部隊にそう感想を漏らした。


 視界の開けた小高い丘の上に陣取っているのは、帝国軍の6脚重装甲騎兵〈ゴライアス〉。機動能力はほぼ無く装甲騎兵と言うより移動可能重砲とも呼ぶべき兵器であったが、既に布陣し、装備した122ミリ砲をくまなく周囲へと向けて警戒していた。


「姿をさらした瞬間122ミリ榴弾が飛んでくるぜ」


 イスラも双眼鏡で〈ゴライアス〉を確認して呟く。


「そうね。しかも2000メートル先。突撃したとして、到達できる可能性はほぼ無いでしょう」


 ツバキ小隊は森の中に踏みとどまり、タマキの指示を受けて低出力状態に移行する。

 敵発見の知らせは既に中隊へと飛ばされていて、中隊長からも待機命令が出された。

 視界の開けた地点に重砲を設置されてしまったため正面突破は困難となった。


「こういうときって、どうするんですか?」

「射程外からカノン砲で撃ち抜くのが手っ取り早いのでしょうけれど、今の統合軍にはそれを移動させるエネルギーも、砲弾もないのでしょうね」


 ナツコの問いかけにカリラが答える。

 それは真っ当な答えで、カリラの言う通り、統合軍には山地麓まで新たにカノン砲を輸送する能力は無かった。


「88ミリ砲があれば撃ち抜ける可能性もあったのですが――」


 タマキは声を出しながら、視線をフィーリュシカへと向けた。

 60ミリ砲を装備していたフィーリュシカは首を横に振る。流石にフィーリュシカでも、60ミリ砲で2000メートル先の〈ゴライアス〉は打ち抜けないようだ。


「手詰まりね。待ちましょう」


 タマキは後退を命じ、十分下がると縦穴を掘らせてそこに隊員を伏せる。

 そして本隊が到着すると早速タマキはそちらへと出向き、突破手段について協議を始めた。


「迂回するべきです。犠牲無くしてこの地点を突破するのは困難です」

「しかし今日中にはここを突破し、攻撃地点への安全な輸送路を確保しなければいけないよ。そういう命令を受けているからね。迂回していたら間に合わないだろう?」


 中隊長のジャコミノ大尉は、その行動がどのような結果を招くのか考えもしていない風に、陽気にそう返した。

 上官命令である以上タマキは逆らえない。

 そして、他の小隊長も迂回すべきだというタマキの意見には誰も賛同しなかった。


「よし、何とか〈ゴライアス〉を排除して突破しよう。なあに、向こうも残弾は少ないはずだ。そう景気よく撃っては来ないだろうさ。先鋒はツバキに任せるよ」

「ツバキ小隊は支援部隊ですが」

「ラングルーネ基地攻略作戦ではね。到着までは先行偵察部隊として扱わせて貰うよ。先陣を切って、〈ゴライアス〉の注意を引きつけてくれ」


 死ねと言っているようなものだった。

 それでもタマキは、命令に対して頷いて返す。


「了解、先鋒は任されました。ですが、1つだけ許可を頂きたい」

「何だろうか? どうぞ言ってくれ」


 タマキは一呼吸置いて、ジャコミノの浮かれた顔を一睨みすると告げた。


「注意を引けとのことですが、ツバキ小隊が単独で攻略を成功させても構いませんか?」


 その言葉にジャコミノはいつも以上に陽気に笑った。


「はっはっは! もちろん構わないさ。君たちの活躍には期待しているよ!」

「ありがとうございます。では、攻撃準備を始めさせていただきます」


 タマキは会釈してその場を離れた。

 直ぐにツバキ小隊と合流し、攻撃の先鋒を任されたことを告げる。当然、単独で攻略云々の話はしなかった。


「無茶だが、命令なんじゃやるしか無いだろうな。〈空風〉の機動力なら榴弾も1,2発くらいやり過ごせるぜ」

「それは良い知らせです。フィーさん、どの程度近づけたら〈ゴライアス〉を無力化可能ですか?」

「700メートル程度。この距離からでは――」


 フィーリュシカは言葉を句切って背後へと視線を向けた。

 目が合ったトーコは自分を指差し尋ねる。


「私に何か手伝えることあるの?」

「止めとけ止めとけ。〈音止〉のないお前なんて前に出ても死ぬだけだ」

「ついてくるだけで死にそうになってる人には言われたくない」


 ユイは先日〈R3〉の基礎講習を受けたばかりで、未だにサネルマのサポートが無いと不整地の移動がままならない。トーコがそんなユイに皮肉を込めて言い放ったのだが、ユイは気にもとめない。


「あたしゃ頭脳労働者だからな。とにかく、あれに突撃するなんざ愚か者のやることだ」

「愚かなのは百も承知です。ですが、命令された以上従うほかありません」

「突撃しろと命じられたのか? 要はあいつを無力化出来ればいいんだろう?」

「何か策があると?」


 意味深なユイの言葉にタマキが尋ねると、ユイは〈TW1000TypeB〉に積んでいた高機能端末を取り出す。

 ユイは機体に武器を積むのを嫌がり、装備は整備用端末と高機能端末、それにネットワーク接続用のアンテナだけで、個人防衛火器はおろか拳銃も持っていなかった。


「あいつの火器管制を乗っ取る。10分寄こせ」

「5分でやって」

「バカを言うな。頭の悪い奴はこれだから嫌いだ」

「そもそも本当に可能ですか?」


 そんなことが可能だとはタマキには思えなかった。

 敵軍の火器管制を乗っ取ることが出来るのならば、それはとんでもないことだ。どんなに高度に整備された拠点も、火器管制を乗っ取られてしまえば何の意味も無くなる。

 しかしその問いかけにユイは見下したように目を細めて答える。


「当然だ。あたしゃ天才だからな」

「良いでしょう。10分はあなたに預けます。ですが駄目だった時は次策をとります。カリラさん、ユイさんが何をするのか見張っておいて」

「かしこまりましたわ」

「見たところで無駄だと思うがね、勝手にしろ」


 ユイはその場に座り込むと端末を2台並べて操作を始める。

 その隣にはカリラが座り込んで、その作業内容を監視する。

 タマキは残った隊員を集めて、次策を練り始めた。何も考えず突撃すれば、122ミリ砲の餌食になるだけだ。


          ◇    ◇    ◇


「このアンテナ、普通のアンテナではありませんわね」

「だったらどうした」

「あなたにも見えてますの?」

「何の話だ」

「認識できないはずの次元の話」


 カリラの言葉に、珍しくユイは目を一杯に開いた。

 その慌てた様子を見てカリラは口元を押さえて控えめに微笑む。


「正解、でしょう?」

「バカな話だ。――待て、お前は見えているのか?」

「さてどうかしら」


 カリラは不敵にそう答える。ユイは苛立ちを見せたが、指先は端末の操作を続けた。


「愚かな奴だ。母親はレナートだな?」

「誰ですのそれ」

「ロイグの娘なんだろう。奴が他の女に手を出すとは思えん」

「そうは言っても、お母様の名前はリタ・アスケーグですわ」


 カリラが口にした名前に、ユイは独りで何か分かったように頷いた。


「なるほどそういうことか。だとしたら……まあいい。帝国軍の戦術ネットワークに侵入する。〈ゴライアス〉火器管制のハッキングは出来るな?」

「ちょっと、お母様の話がまだ途中ですわよ」

「上手くやったら考えてやる。早くしろ」

「本当にいけすかない小娘ですこと。60秒下さる?」

「30秒で何とかしろ」

「どいつもこいつも、技術者をなんだと思っていますの」


 愚痴りながらもカリラは自分の整備用端末を取り出し、ユイの端末と接続すると火器管制に対するハッキングプログラムを組み始めた。

 戦術ネットワークへ侵入する算段がつくとユイはタマキを呼び寄せる。


「おいお嬢ちゃん、こっちに来い」

「態度」


 すかさずトーコがその物言いを咎めるが、タマキは呼びかけに応じた。


「わざわざ呼び出したのだからつまらない報告ではないのでしょうね」

「これからネットワークに侵入する。火器管制はこいつが乗っ取る。その後どうするか考えておけ」

「本当に出来ると思って良いのですね」

「何度も言わせるな。おいカリラ、準備は良いな?」

「よろしくてよ。いつでもどうぞ」


 ユイは返答を受けるやいなや、端末を指先で叩いた。

 アンテナを介してユイの端末は帝国軍の戦術ネットワークへと接続。直ぐに帝国軍の配置が明らかになる。


「〈ゴライアス〉に随伴歩兵1小隊。122ミリ砲さえハッキングすればそれきりだな」

「その情報、こっちにも回して」

「余計な作業を増やしやがって」


 それでもユイはタマキの端末へと、戦術ネットワークを介して得られた帝国軍の配置情報を映像データとして送信する。

 タマキはそれを確かめて再度尋ねる。


「火器管制をハッキングしていられる時間はどれくらい?」

「だそうだが、どうだ?」


 ユイはカリラへと問いかける。

 カリラは整備用端末から組み上げたプログラムを実行して、それが失敗したことを示す表示を見せる。


「あいつ、火器管制をレーダー管制に任せきってますわ」

「だったらレーダーの方を書き換えろ」

「なるほど」


 カリラは端末に指を走らせ、再度プログラムを実行。今度は成功を示す反応が得られた。


「指定目標に対する攻撃が絶対あたらないように書き換えますわ。コンソール開けて確かめられない限りは大丈夫でしょうね」

「〈ゴライアス〉へのハッキングプログラムは廃棄せずとっとけ。ほら、さっさと突撃命令を出してこい」

「失敗したらただでは済みませんからね」

「上手くいくさ。少なくともお前の作戦よりはな」


 タマキは顔をしかめたがそれ以上ユイへ声をかけることは無かった。

 代わりにカリラの方へと指示を出す。


「カリラさんはここに残って下さい」

「かしこまりましたわ。このおチビちゃんもしっかり見張っておきます」

「大変よろしい。ではよろしくおねがいします」


 タマキはその場を離れ、隊員の元へ向かう。

 残ったカリラはユイへと尋ねる。


「それでお母様の話は?」

「今度時間があるときにな」

「このクソチビ!」

「何とでも言え。ほら、お前の姉が森を出るぞ。レーダー管制の書き換えは問題無いだろうな」

「お姉様が!?」


 カリラは慌てて端末を手に取った。

 間違ってもイスラに命中弾が出るようなことがあってはならない。命中弾どころか至近弾もいけない。イスラの装備する〈空風〉は装甲皆無なのだ。

 念のためカリラはレーダー管制の照準補正値を更に書き換えて、着弾点が目標から60メートル以上離れるように設定し直した。


「これで安心ですわ」

「そうかい。そりゃ結構」


 ユイは双眼鏡を取り出して、これから敵の視界に姿をさらそうとしているツバキ小隊の方へと向ける。

 それにはカリラも笑って、真面目に構えている双眼鏡を指先でつつく。


「何のつもりだやめろ」

「こっちが聞きたいですわ。〈TW1000TypeB〉のメインカメラでしたら注視点ズームでそのおもちゃみたいな双眼鏡よりずっと拡大されましてよ」

「そんな説明あのハゲからされなかったぞ!」

「移動に手一杯でしたからそこまで講習が進まなかったのでは?」

「クソっ! これだから頭の悪い奴は嫌いだ!」


 罵倒しつつもユイはカリラに注視点ズームの使い方を習い、それで突撃するツバキ小隊の姿を捉えた。

 まずは敵の火器管制が正常に動作していないことを確認するため、高機動機の〈空風〉を装備したイスラが単独で飛び出す。

 当然、〈ゴライアス〉はそちらへと122ミリ砲を向け、躊躇せずに砲撃。


 122ミリ砲の砲口が瞬き、空気を振るわせて榴弾が放たれる。

 しかし着弾点は真っ直ぐに移動していたイスラから右へ70メートルズレた。

 何も無い荒野に着弾した榴弾は金属辺を巻き散らすが、イスラはその加害半径の外。


「上手くいっているようですわね」


 カリラはほっと胸をなで下ろし、レーダー管制のコンソールが開けられることないよう祈りつつ整備用端末に集中する。

 コンソールが開けられたら外部からの操作をひたすら弾く必要があり、射撃管制をレーダーから〈ゴライアス〉へ切り替えられたらそちらのハッキングを速やかに行わなければならない。


 いよいよツバキ小隊が突撃を開始。

 10秒で装填完了した122ミリ砲が再度火を噴く。されど着弾点は、やはりツバキ小隊より右へ60メートルずれる。


「敵が管制を切り替えた。愚かな奴らめ。乗っ取ってやれ」

「確認していますわ。〈ゴライアス〉火器管制を乗っ取ります」


 カリラは素早くプログラムを実行。〈ゴライアス〉が122ミリ砲の装填を完了したのと同時に、その火器管制を完全に制御下へ置いた。


「制御を奪いましたわ! 攻撃指示を!」

『了解。後方、敵の指揮官へと砲撃!』


 タマキからの指示を受け、カリラは端末を操作して〈ゴライアス〉の122ミリ砲を180度旋回させる。

 突如火砲の一切が制御不能になった〈ゴライアス〉は慌てたようで、外へと飛び出した操縦者が122ミリ砲と火器管制を繋ぐケーブルを引き抜こうとする。


「おっと、そりゃ駄目だ」


 ユイの操作によって〈ゴライアス〉は爆発反応装甲を起爆。その正面に居た操縦者は、爆風とはじき飛ばされた装甲片をもろにくらって吹き飛んだ。

 同時に〈ゴライアス〉は自衛用の機銃によって弾幕を展開。周囲に居た帝国軍は突然の異変に護衛を放棄して逃げ出す。


「ここからが本番ですわよ!」


 カリラが整備用端末の画面を頼りに、敵の小隊長が指揮をとっている野戦詰め所へ向けて122ミリ砲を向ける。迷わずに仮想トリガーを引ききると、放たれた砲弾は野戦詰め所の後方、弾薬庫を完全に破壊し尽くした。


「おい! この状況で弾薬庫爆破する奴があるか! 接収できたら弾薬を奪えただろうが! 目瞑って撃ったのか下手クソ!!」

「はあ!? 誰が下手クソですって!? 端末操作ですから多少の誤差が出るのは当然ですわ! そこまで言うならあなたが撃ってみなさいな!」

「あたしゃ頭脳労働者だ。銃は持たない」

「ははーん。天才のユイさんは外すのが怖いのかしら? あれだけ他人を下手クソだと罵っておきながら、自分がそれより下手クソだとばれたくないのですわね?」

「何だと」


 ユイは半分だけ開いた目に怒りを込めて呟く。

 その目前で、カリラはこれ見よがしに整備用端末をひらひらと振って見せた。

 ユイはそれをひったくると、自動装填で次弾装填完了次第、詰め所から飛び出した小隊長へと砲口を向け、発射コードを送信して発砲。

 放たれた砲弾は小隊長の5メートル左を飛び去り、後方の輸送車両を完全に破壊した。


「びっくりですわ! 事もあろうに、エネルギーパック積んだ輸送車を爆破するだなんて! ユイさんは本当に射撃がお上手ですわね! 永遠に銃を持たないで頂きたいですわ!」

「うっさい、標的が動いてたからだ! 止まってたら外さなかった」

「止まってる目標相手なら当然ですわ」

「お前さっき外しただろ下手クソ!」

「あぁん! 何ですって! あなただけには言われたくありませんわ! 見てなさい次こそは」

「やめろ、お前なんかに任せられるか、あたしが撃つ、次は当てる、絶対だ」


 2人は整備用端末を取り合ったが、それを横から手を出した何者かに奪われた。


「おい! 何をする!」

「わたくしの端末ですわ! 返しなさい!」


 端末を奪ったのはリルだった。

 急遽引き返してきたリルは、騒ぐ2人に淡々と事実を伝える。


「下手クソ共から端末を没収するようタマキから命令されたわ。射撃はあたしがやるから、あんた達は戦術ネットワークへの侵入だけ維持してなさい」

「何を偉そうに! あなただってわたくしたちとそうは変わらないでしょう!」

「誰があんたたちなんかと」


 リルは指先で端末を操作し122ミリ砲を敵小隊長へと指向させると、仮想トリガーを軽く引いた。放たれた砲弾は逃げようとしていた小隊長の回避先を完全に読み切り、直撃弾を出した。


「ちょろいもんだわ。次は誰狙う? 今ならあの無脳中隊長も殺せるわよ。敵に制御を奪い返されたってすれば、不自然じゃ無いでしょ」

『魅力的な提案ですが止めておきましょう。重装機から仕留めて下さい』


 リルはタマキの指示を受けて、装填完了次第帝国軍の重装機へと向けて122ミリ砲を放ち、片手間に〈ゴライアス〉の旋回機銃を使って寄ってきた突撃機をなぎ倒す。

 あっという間に敵の小隊は壊滅的被害を受け敗走を開始。ツバキ小隊は単独で〈ゴライアス〉の居た丘を制圧した。


「ま、誰しも1つくらいは取り柄があるものですわ」

「あんたらが下手すぎたのよ。最初の1発、詰め所に向けて撃って外したのどっちよ」


 ユイは迷わずカリラを指さす。だがカリラはしらばっくれようとした。


「何のことだかさっぱりですわ」

「救えないわこいつ。もういい。ルート確保したからトレーラー取りに行けって命令よ。運転手護衛するわ。どっちが戻るの」


 ユイとカリラは目を合わせたが、ユイの方が先に手を上げた。

 エネルギーパックを節約しなければならない現状、重装機装備のカリラを戻らせるのは褒められた行動とは言えなかった。

 リルにとってはカリラでもユイでも、憎たらしい相手であることは変わらなかったので不機嫌そうにしては見せたが拒否はしない。


「真っ直ぐ走るくらいは出来るんでしょうね。あたしはサネルマみたいに手を貸したりしないわよ」

「だからこんなおもちゃは嫌なんだ」


 愚痴りながらもユイは端末を積み込んで立ち上がる。

 既に安全な輸送路を確保できているので酷い不整地を通ることは無いだろうが、それでも操縦に不慣れなユイは嫌そうにした。


「ちょっとおチビちゃん。ああ、金髪の方でしてよ」


 カリラの呼びかけに背の低い2人は同時に振り向いたが、それを見てカリラはユイを指名する。チビ呼ばわりされたのに反応してしまったリルは一層不機嫌をつのらせていたが、カリラはそんなこと気にせず話す。


「戦術ネットワークへの侵入方法教えて頂けます? 可能ならいくらでも使い道がありますわ」


 その提案はもっともなものだが、ユイはかぶりを振る。


「たまたま帝国軍の認証コードが手元にあっただけだ。次は使えん」

「認証コードの入手元は?」

「極秘だ」

「なんですのそれ。ま、いいですわ。あなたの端末から侵入プログラム抜き取りましたから、精々調べさせて貰いますわ」


 カリラは自分の整備用端末を見せびらかすようにしたが、ユイは不敵に笑う。


「時間の無駄にしかならないと思うがね。バカには読めない言語で書いてある」

「このクソチビ、ほんっとうに腹立たしい物言いですわ。もういいから連れて行って下さいな」

「バカなのは間違いないでしょ」


 吐き捨てるように口にしたリルにカリラは激昂する。


「このチビ共! 言わせておけば好き放題言って! 今に見てなさいな!」

「はいはい。ほら、行くわよ。とろとろ走ってたら置いていくから」

「うっさいちびだ。分かってる直ぐ行くさ。〈音止〉をいつまでも放置しとくわけにはいかん」


 ユイは移動を始め、そのたどたどしい加速に合わせてリルはついて行く。

 カリラは端末に保存されたネットワーク侵入プログラムを開いて、言葉通り「バカには読めない言語」で書かれたそれに頭を痛めつつ、それでも解読してみせると意気込むと、丘を占領しているツバキ小隊と合流するため森から移動した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る