第9-5話 竜族の少女と魔族の村の村長

村の中央付近の小川に架かった橋を通りかかった時、

川の辺の木の木陰に赤い猫の姿が見えた


ロバートじいさんだ、腹を上に向けてだらしなく寝そべっている


ルシュも気付いた様で、小走りにロバートじいさんに駆け寄る



ルシュがロバートじいさんの傍で座り込むが、ロバートじいさんは気付いているのかいないのか

そのまま寝そべっている



「ヨウヘイ、この子は何?」

とルシュが興味津々な様子で尋ねてきた



「ああ、その猫はロバートって言うんだ、

みんなロバートじいさんって呼んでるんだ」



「へぇ~」

ルシュはロバートじいさんを覗き込み様子を見ている

そしてそっと抱き上げる


「ふにゃ!?」

ルシュに抱き上げられたロバートじいさんがビクっと動く



「ご、ごめんなさい」

驚いて抱き上げた腕を解きかけたルシュからロバートじいさんが飛び降りる


ロバートじいさんはルシュをじっと見上げてから俺に気付く

「見慣れないおなごとヨウヘイ…

件の竜族の娘はその子の事かの?」


「ああ、そうなんだ。

この子はルシュ、今俺が村を案内しているんだよ」

俺の言葉を聞いてロバートじいさんがルシュを見て話しかける


「ほほう、わしはロバートじゃ、宜しくな」

ロバートじいさんは驚きはしたが怒ってはいない、あれで怒るとは思っていないので止めなかったのだが


「ロバートじいさんが宜しくってさ、ルシュ」


「うん、さっきはごめんなさい。

私はルシュ、ロバートじいさん宜しく」

ルシュはしゃがんでロバートに目線を合わせて話をする


「さっきはごめん、ルシュからも宜しくって」


「うむ、素直なおなごでワシも嬉しいぞ」


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木陰に座ってロバートじいさんと暫く話をしていた


ロバートじいさんは今度は同意の元にもう一度ルシュに抱き上げられていたが、

そこからルシュの頭の上に乗って、そこで落ち着いた様だ


それで暫く休憩がてら話をしていた所、少し離れた場所から声を掛けられる


「そこにいたんですね、ヨウヘイ。

ロバートさんも」



そこに振り向くと久しぶりに見る紫色の髪の女性が居た

「ああ、村長。おかえりなさい」


「おかえりじゃの、村長」


俺とロバートじいさんが同時に声を出す


その様子を見て村長、メラニーがにっこりと笑う


「ただいま戻りました。

マーテンを満喫してきたようですね、ヨウヘイ」


メラニーは俺達のいる木陰に近づいてきた


俺とルシュは立ち上がって村長を見る

ロバートじいさんは器用にルシュの頭の上に乗ったままだ


「ええ、マーテンはとても楽しかったです。

俺の知らない物が沢山ありました」


ここで一息付いてから続ける

「そしてこの子が…」

俺が勝手に連れ出してしまった事もあり、少し言葉に詰まってしまう


「ええ、聞いています。

竜族の女の子ね」

メラニーは普段と同じ調子で話をしているが、流石に俺の行動は咎められてもおかしくない

だが一先ずはルシュにメラニーを、メラニーにルシュを紹介しておこうと思った


「はい村長、この子がル…」

と言いかけた俺をメラニーが手で制する


「?」

と俺とルシュ、ロバートじいさんが黙って見ている中、

村長がルシュの目の前に移動し、

少し屈んで(下半身が蛇なのでその表現が正しいかは分からない)

ルシュに話し掛ける


「こんにちは、私はメラニー、

この村の村長をしています。

あなたが竜族のルシュね」


俺が村長の言葉を訳してルシュに話そうとルシュの様子を見ると

ルシュの目が見開かれている


…驚いている?


そこからルシュが恐る恐る口を開く

「言葉が……話せるの……?」


「ええ、少しだけね」

そう言ってメラニーはルシュに軽くウインクした

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