摩耗核惨事

佐竹参考人に対する意見聴取‐四

（吉田委員）

　先ほどの乾委員の質問にもありましたけれども、敦賀沖海底に直径約二〇〇メートルの円形状の陰影が発見されており、既に新聞報道されているところであります。決して楽観視できる状況ではないと思いますが、これについては後ほど改めてお伺いします。

　それでは質問を変えます。

　佐竹参考人は、本件核惨事発生後、全国原発の即時停止を全国の電力会社に要請され、現時点我が国におきまして稼働している原子力発電所は一基も存在しない状態であります。佐竹前総理の原発稼働停止要請につきましては、福島第一原発事故後の原発停止要請と同様、国民の賛意を得た決定であると私は評価したいと考えております。

　以上を踏まえましてお伺いします。本件核惨事以前の我が国におきまして、本件核惨事を回避できたであろうエネルギー政策上の転換点はありましたか。

　お答え下さい。

（佐竹参考人）

　東日本大震災の折の、福島第一原発事故がそうであっただろうと考えております。

（吉田委員）

　参考人は、内閣総理大臣として我が国のエネルギー政策にも責任を持つ立場でいらっしゃいました。そういった認識をお持ちであれば、福島第一原発事故後、相変わらず原発が稼働していた状況に対して、何か対策を打とうとお考えにはなりませんでしたか。

　お答え下さい。

（佐竹参考人）

　お答えします。

　福島第一原発事故後、原子力規制委員会によって新たな規制基準が策定されました。政府といたしましては、このとき定められた新規制基準に適合する原子力発電所の再稼働につきましてはその運転を差し止める何ら法的根拠もなかったわけでありまして、しかも当時、原発運転差止訴訟も全国各地で争われている状況でございましたから、そういった民間の係争に関しまして、当事者ではない行政府が干渉することは三権分立の原則からも妥当ではない、という認識でありました。

　しかしながら、本件摩耗核惨事を経て、多くの国民の皆様方が原子力発電所事故のために非常な困難の中に身を置かれている現状を勘案すれば、これは訴訟による当事者間での係争を経ることなく、原子力発電所の稼働停止要請につきましては国民、電力会社双方の同意を得られるものであろうと考え、そのように要請したものであります。付け加えると、私が在職中に要請いたしましたのは、これは飽くまで要請でございまして、強制力を持つ行政行為、命令などとは全く性質を異にするものであります。

（吉田委員）

　参考人は原発停止要請につきましては、国民の賛意を得られる、国民の希求する政策であるという信念があり、その信念に基づいて、強制力を帯びない停止要請という形で、全国原発を停止された、ということですね。それでは伺います。

　廣瀬内閣総理大臣は、本国会開催時の所信表明演説におきまして、原発再稼働方針、海外輸出方針を示されました。この豹変ともいえるエネルギー政策の変更につきまして、参考人はいかがお考えでしょうか。

　お答え下さい。

（佐竹参考人）

　お答えします。

　私は現在、内閣総理大臣という職のみならず、国会議員も既に辞しており、国政に口を差し挟む立場にないことはあらかじめ明言しておきますけれども、意見聴取の場でありますので、一私人として忌憚なく申し上げます。

　現政権が、唐突に原発再稼働にエネルギー政策の方針転換を示したことは、私は摩耗核惨事発生時に陣頭指揮に当たった立場から、断固反対の意を表明いたします。

　先ほど、本件摩耗核惨事を回避するエネルギー政策上の転換点があったかなかったかという委員からのご質問をいただきましたですけれども、前内閣において電力各社に稼働停止を要請した舌の根も乾かないうちに、これを撤回することは、政府に対する国民の信頼を自ら損ねるに等しい行為であると考えます。

　「摩耗」のような脅威は予見が不可能でありますし、再出現性はございませんけれども、運転ミスや災害による過酷事故の発生は原発が稼働している限り、場合によっては稼働停止状態であっても完全には払拭できないわけであります。この場を借りて、現内閣には再稼働方針を撤回するよう意見申し上げます。