米田参考人に対する意見聴取‐十二
(乾委員)
現在、政府が示している復興のロードマップを概観すれば、最も汚染されている六ヶ所村近郊の除染開始時期は未定とされております。参考人のご意見は全て国民が思いを同じとしているところであります。一刻も早い復興を、当委員会としても推進して参りたいと考えております。
さて質問に戻ります。
六ヶ所村近郊における防衛作戦を終了した直後、「摩耗」は再処理施設の破壊を開始しましたが、その約四〇分後に動きを止め、灰が風に舞うかのように急速に崩壊していきました。参考人は、この「摩耗」の崩壊は、自衛隊による攻撃の結果であるとお考えでしょうか。
お答え下さい。
(米田参考人)
そのように考えております。その前後に、「摩耗」に対して物理的打撃を加えたのは自衛隊以外になかったからであります。
(乾委員)
先ほど、帝大の尾形参考人がおっしゃったわけですけど、「摩耗」は最終的に自重に耐えきれず崩壊したという意見もあります。米田参考人はそうではなく、飽くまでも、「摩耗」は自衛隊の攻撃によって撃破されたと考えてらっしゃる、そういうことでよろしいでしょうか。
(米田参考人)
そのとおりであります。
もし尾形参考人がおっしゃるように自重で崩壊したというならば、もっと早い段階で、たとえば福島県沖から福島第一原発廃炉作業区に上陸した時点で崩壊するのではないか、そうでなくても、女川に海没するまでの間、相当時間陸上を移動していたわけであります。自重で潰れたというならば、もっと早くに潰れていないとおかしい。それくらいの質量を有していたわけですから。
(乾委員)
尾形参考人、今の米田参考人のご意見に対していかがでしょう。
(尾形参考人)
これに関しましては、実際に崩壊した「摩耗」を調査してみないことにはなんとも申し上げられません。
ただひとつ言えますのは、「摩耗」の体表面に生じた、黄色がかった錆が、「摩耗」を構成している筋繊維状組織の円滑な挙動を阻害して、自重が一点にかかり、遂にそれに耐えきれなくなった可能性がある、そのことが強く推認されるという点であります。逆に私から米田さんに聞きたいんですけれども、作戦終了後四〇分間は、「摩耗」に対して砲弾を発射したりしなかったわけでしょう。
(米田参考人)
はい。それはそのとおりです。作戦終了後に発砲すれば大変な指揮命令系統上の問題になりますから。そういった教育は、常日頃から徹底しておこなっております。
(尾形参考人)
砲撃終了後から四〇分も経過した後に、「摩耗」が急速に崩壊しているわけです。ですから私は、砲撃を集中している時点で、「摩耗」が動きを止めて崩壊したというならば当然自衛隊の攻撃によって「摩耗」が崩壊したたと断じることができると思うんですが、寧ろ核燃料再処理施設に大量に保管されている使用済み核燃料の捕食に「摩耗」が夢中になっている間に、いよいよ全身に進展した錆とあいまって体表面の回転運動ができなくなって、自重が一点に集中してしまい崩壊した、と私は考えているわけであります。
いずれにいたしましても、「摩耗」崩壊の要因というものは実際にその遺留物を調査しない限り、はっきりとしたことは申し上げられないと考えております。
以上です。
(西田委員長)
今後、汚染区域の除染が進展するにしたがって「摩耗」の遺留物調査もおこなわれると思いますので、そのときまで「摩耗」崩壊の要因は分からない、ということになろうかと思います。乾委員、もう質問の方はよろしいですか。
(乾委員)
時間も押してますので手短に質問いたします。
去る五月三十一日の読書新聞の報じたところによりますと、日本海を航行する
まず尾形参考人に伺います。この海底調査によって観測された陰影は、「摩耗」でしょうか。引き続いて米田参考人には、もしこれが「摩耗」であったとして、我が国に再び上陸したと仮定して、現状の防衛戦力によってこれを撃破し得るかどうかについて質問いたします。
まずは尾形参考人からお願いします。
(尾形参考人)
お答えします。
そもそも現在六ヶ所村において遺留されている「摩耗」の遺骸につきましては、周辺の放射能汚染が大変激しいため、これを調査するに至っておりません。最初から申し上げているとおり、私は「摩耗」を生物として認めたわけではありません。そのように判断する材料は皆無に等しい状況なのです。
したがいまして「摩耗」の正体が何者であるのか判明しないうちから、魚群探知機によって観測された陰影という情報のみを以て、これを「摩耗」と断定することは不可能なのであります。ひとつ明確に申し上げられることは、観測された巨大陰影が「摩耗」ではないことを祈るばかりだという私の願いだけであります。
以上です。
(米田参考人)
再度「摩耗」が上陸した場合、これに対処できるかどうか、というご質問でありますけれども、私はこれにつきましては、相当に厳しいものがあると認めざるを得ない現状にある、とおこたえ申し上げます。摩耗核惨事における南相馬防衛戦、或いは六ヶ所村防衛戦において、国内に備蓄していた砲弾、爆弾の大半を消耗してしまっているからであります。これはもう強がっても仕方がない。事実であります。
以上です。
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