米田参考人に対する意見聴取‐十

(乾委員)

 分かりました。質問を変えます。というよりも、質問を本筋に戻します。

 参考人に質問します。先ほど、参考人は出動類型が治安出動から災害派遣に切り替えられて作戦の自由度が増した、とおっしゃいました。実際には六ヶ所村近郊に至るまでの間におこなわれた作戦はF2戦闘機による航空攻撃及び艦艇によるミサイル及び艦砲による攻撃であったと聞いておりますが、自由度が増した、とおっしゃるからにはその間何か有効な手立てを打たれていたのではないかと思います。具体的に、F2による航空攻撃実施中に、それ以外で「摩耗」侵攻阻止に寄与する具体的な作戦は実行しましたか。お答え下さい。


(米田参考人)

 お答えします。

 先ほど、我が国の防衛戦略に立脚する部隊配置についてその一端を説明いたしました。仮想敵国の軍隊による大規模な着上陸侵攻が予想される地点にあらかじめ機甲部隊を配置してるんだ、という話ですね。

 「摩耗」が福島宮城間を越境し、航空攻撃による侵攻阻止作戦を継続中は、こういった機甲部隊の渡海作戦を実行しておりました。戦闘車両の移動というものは、特に海峡を越えるような場合には大変な資材労力が必要とされるわけですけれども、航空攻撃をおこなっている間に、米軍の協力を得ながら、そういった機甲部隊の渡海作業が完了し、六ヶ所村近郊で大規模にこれら部隊を展開できるようになりました。


(乾委員)

 六ヶ所村近郊での大規模攻勢の準備ができた、ということですね。(米田参考人「そのとおりです」と呼ぶ)

 それでは、六ヶ所村近郊における防衛作戦の状況について説明してください。


(米田参考人)

 お答えします。

 「摩耗」の福島宮城越境後、百里基地から繰り返しF2戦闘機による航空攻撃を実施いたしました。その努力も虚しく午後〇時四十五分には河北電力男女ノ川みなのがわ原子力発電所襲撃を許してしまいます。それまでは、「摩耗」の侵攻経路について予測不可能でありましたけれども、これによって我々の間でも、どうやら「摩耗」は原子力関連施設を狙っているらしい、というような認識を共有するに至りました。

 ですから、このまま侵攻を許せばやがては青森県の六ヶ所村の再処理施設や東通原子力発電所、やがては津軽海峡を突破して北海道に再上陸した上、釧路の原子力発電所を襲撃することが予想されましたので、北海道の各駐屯地に配備されている戦車部隊を札幌に集結させ、早急に渡海させて青森県六ヶ所村に配備する必要を認めたわけであります。「摩耗」は男女ノ川原発襲撃時において、既に原子炉に装塡されている核燃料については、これを残らず体内に収納しましたが、これに満足したのか建屋内に保管されていた使用済み核燃料については食べこぼす、とでもいいましょうか、建屋外に落下させてしまったわけで、これが大気中で燃焼して大変な汚染が広がってしまったのであります。これによりまして、いかに戦車が気密性に優れ、放射能汚染に強いといいましても、未体験のレベルの汚染区域に足を踏み入れることになる、という強い危機感を抱きまして、ここでも耐放射線装備の準備に多少の時間を要しました。

 幸いでしたのは、「摩耗」は女川湾海没後、岩手県の太平洋沿岸部、リアス式海岸沿いに浅海を北上し続けたことでありました。これによって、「摩耗」の移動速度が平均二〇キロメートル毎時とかなり低下するとともに、陸上に存在する道路網、鉄道網などのインフラ、一般家屋等に攻撃の余波が波及することを心配することなく、攻撃を継続することが可能となったからであります。

 この際、横須賀に司令部が存在する海上自衛隊第一護衛隊の護衛艦二隻による艦砲並びに艦対地ミサイルによる攻撃と、三沢飛行場のF2戦闘機による航空攻撃を交互に繰り返しましたが効果は認められませんでした。

 その後「摩耗」は翌三〇日午前二時に青森県八戸市に再上陸いたしました。この時点で既に北海道に配置していた機甲部隊は六ヶ所村近郊に配備を完了しており、「摩耗」を待ち構えている状況にありました。

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