米田参考人に対する意見聴取‐八

(乾委員)

 この際おこなわれたF2戦闘機による爆撃というものが、相当な被害を近辺にもたらしたのではないかという批判と、その責任の所在についてはいかがお考えでしょうか。


(米田参考人)

 ただいまのご質問にお答えします。

 当時、既に福島第一原発廃炉作業区において、「摩耗」の襲撃により使用済み核燃料が遮蔽物のない状態で屋外に転げ落ちておりました。大変な量の放射性物質が大気中で燃焼していくなかで、近隣住民の避難誘導というものは非常な混乱の中でおこなわれたと認識しております。そういった混乱の中で、多数の避難民の方々が命を落とされたことについては心痛の極みでございます。自衛隊といたしましては、そういった住民の方々の避難誘導に関して全力を尽くし、一方で「摩耗」の侵攻阻止作戦を実施しなければならないという大変困難な任務に当たっておりました。

 私どもも当初から航空攻撃を企図していなかったことは先ほど説明させていただいたとおりですけれども、南相馬における侵攻阻止作戦終了時点で、依然住民避難が進捗していなかった宮城県内への侵入を許せば、「摩耗」侵攻によって、国民の間に直接間接の犠牲者が発生し、被害が拡大していたことは疑いがありません。一方で南相馬における航空攻撃は、残念ながら成果は上がりませんでしたけれども、これによる周辺地域への損害というものは放射性物質の拡散という破局的事象と比較しても、戦闘地域周辺に局限されており、微少だったのではないかと認識しております。

 むしろ委員にお伺いしたいのは、委員は伝聞でお話しになっているようですけれども、私どもが使用した爆弾砲弾の弾殻だんかくによって具体的にどのような損害が周辺に生じたかを、客観的に明らかにする証拠というものは存在するのでしょうか。作戦がおこなわれた区域は現在も立入が禁止されているほど汚染されております。実地調査を経ることなく、生じた損害の全てを自衛隊の責任に帰せられてもそれは納得出来る話ではありません。

 「摩耗」は直径二二〇メートルにも及ぶサイズを有しておりました。移動の際にはアスファルトや家屋の屋根瓦、モルタル片を撒き散らしながら、その足下と申しましょうか接地面に朦々たる砂塵を巻き上げながら侵攻していたんです。したがいまして、弾殻による周辺への損害と委員が指摘されているもののなかには、「摩耗」の移動に伴うこういった瓦礫の散乱による損害も相当含まれていたのではないかと考えられます。

 いずれにいたしましても、実地調査なく片方の当事者からの伝聞のみを根拠に、一方的に自衛隊の責任に帰せられましても、私は納得できませんし、現役の隊員も同じ考えだと思います。

 以上です。


(乾委員)

 放射性物質の拡散による急性放射線障害の犠牲者数と比較すればその数が微少であるから、航空攻撃の余波による犠牲者の発生については自衛隊は免責されるとお考えでしょうか。そのように聞こえました。


(米田参考人)

 お答えします。

 決して航空攻撃の余波による犠牲者の発生が免責されるとは考えておりません。

 一私人としての考えを述べさせて貰えれば、本来核惨事がここまで拡大した原因は、国策として推進されてきた原子力政策の失敗にあると考えております。自衛隊はその尻ぬぐいをさせられ、死者行方不明者、離職者が隊員のうちから大量に出ました。戦車、自走砲等多数が依然現場に遺棄されており、数カ所の飛行場が装備を残したまま汚染区域内に取り残されました。

 私はこの場におきまして、当時の統合幕僚長として、南相馬における航空攻撃に伴う民間犠牲者の方々にお詫び申し上げますとともに、ここに列席する国会議員の方々が、自身の命を国家のために捧げた隊員達に対し詫びる姿を、彼等のために見届けたい。委員いかがでしょう。


(乾委員)

 本件核惨事による犠牲者に対する哀悼の意は、民間人はもちろん、自衛隊員、警察消防等その職務に関わりなく、全ての人々に対し、既に政府から示されているところであります。


(米田参考人)

 分かりました。表明された哀悼の意が、少なくとも私の心には全く届いていないことは申し添えておきます。前線の遥か後方にいた私の心な響かない通り一遍の哀悼表明が、どうして犠牲者やその遺族に届くでしょうか。

 航空攻撃の余波による犠牲者の発生につきましては、全く我が自衛隊の責任に帰するところでありますが、その責任をこの場で追及する前に、国策として原子力政策を推進してきた国の責任こそ追及されるべきであります。

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