米田参考人に対する意見聴取‐六

(米田参考人)

 ただいまの委員のご質問ですが、結果論的ではありますけれども、これは全く委員のおっしゃるとおりであります。南相馬における地上戦力につきましては特科の対戦車部隊が地上戦力の主力でありました。

 といいますのも、そういった対戦車誘導弾などの兵器で十分撃破できると私どもは見込んでいたわけであります。戦闘車両の投入などは初動の時点では全く考慮の外でありました。その点に関しては大変に反省しております。

 おそらくテレビドラマや映画などでは戦車や自走砲といった機動兵器が非常に活躍する場面を皆さんよく目にされると思います。東京や大阪といった人口密集地、市街地で戦車や自走砲がバンバン発砲しますよね。こういったものを見慣れた方々からすると、南相馬市で特科の対戦車部隊が個人携行用の対戦車兵器を投射してる風景っていうのは、いかにもチマチマした風景に見えたかもしれません。

 これにつきましては、そもそも戦車とか自走砲といった戦闘車両につきましては、市街地や人口密集地での運用を考慮に入れていなかった、というのが実情であります。といいますのも、戦車という兵器が登場してから実に百年以上も経過しておりまして、こういった兵器が実戦に投入された事例というものは枚挙に暇がないわけなのであります。

 その中で、こういった戦車や自走砲などの戦闘車両が、市街地や人口密集地における運用に不適であるというのは、非常にたくさんの戦訓から明らかで、これまた我々の間では常識なんですね。ですから、映画やドラマでそういった車両が東京なんかでバンバン発砲しているものをよく見ますけれども、私たちの観点から見ますと、大変に都合の良い話だな、と感じるわけです。事態の発生からそんなに間をおかずに、そういった戦闘車両が戦場に投入できちゃうわけですから。どこから来たんだ、と思うのと同時に、おかしな使い方をするんだなと感じるわけです。素直に楽しめない。

 ちょっときな臭い話しになりますけれども、まあ我が国にもそういった、仮想敵国とでもいいましょうか、そういう国はやっぱりあるわけです。古い話しになりますけれども、明治時代に日清日露両戦役を我が国はユーラシア大陸国と戦いました。太平洋戦争時はアメリカとやりあったわけですけれども、その後東西冷戦が激化するにつれて仮想敵国というのはやっぱりユーラシア大陸国だった。もっといったらロシアですよ。そういった歴史があるわけです。今だってアメリカとは日米安全保障条約を締結しているわけですけれども、ユーラシア大陸国とはそこまで至ってない。ロシアしかり中国しかりですよ。これについてはいろんな意見があると思いますけれども、事実だと思いますよ。

 ですので、そういった歴史的経緯からしても、こういった戦車などの機動兵器については太平洋沿岸部よりは大陸側、日本海沿岸部により強力に配備される傾向っていうのは確かにあります。戦車なんてほとんど北海道に配備されてるんです。この一点取ってみても、我が国の戦車が、どこで誰と戦うことが想定されているかが分かっていただけるかと思います。

 人間相手なら、そうやってあらかじめどこに敵が出現する可能性が高いかとか、それに対してどういう兵器をどこに配備したらいいか、というのが分かるんですね。それで、実際そういった予測に基づいて部隊配備していたわけです。ですから、「摩耗」が太平洋沿岸部の福島第一原発廃炉作業区に出現したからといって、早急にそういった部隊を福島に集結させることは映画やドラマと違って実際には不可能なんですね。高速道路とか海底トンネルといったインフラの問題もありますし、そもそも戦車自体が長距離移動には不向きなんです。本土にもそういった機動兵器が皆無ではありませんけれども、非常に少ない。また分散もしている。そういった部隊の集結を待っておれば、迎撃はさらに遅れてました。これは間違いありません。

 結果論的に申し上げると、戦車という兵器は非常に密閉性が高く、また装甲も頑丈にできてますから、耐放射線という観点からしますと、そういった汚染地域でも、乗員は最小限度の被曝で済む、というメリットはあったわけで、南相馬の段階で作戦に投入できておれば、その後の推移は少し変わったものになっていたかもしれません。戦闘の様子をテレビでご覧になっていた皆様は、「なんで戦車出さないんだ」って歯がゆい思いをしていたと思うんですけれども、またそういった思いを抱いてるからこそ委員からもご質問いただいたと思うわけですが、我々はそういった戦闘車両が必要になるとはまさか思っても見ませんでしたし、そもそも本件に関していえば即応可能な配備はなされていなかったというのが実情だったわけであります。

 あともうひとつ申し上げるとすると、対戦車誘導弾の使用についてでありますけれども、これも結果的には南相馬において「摩耗」を撃破できなかったわけですから、もしかしたら負け惜しみのように受け取る人もいるかもしれませんけれども、こういった兵器というものは、いわゆる戦車や自走砲が発射する運動エネルギーによって外装を貫徹することを目的とした兵器ではありません。モンロー・ノイマン効果といいまして、お椀型に成形された炸薬によって生じる化学エネルギー、いわゆる爆弾が爆発するように周囲に爆力が拡散することなく、爆発エネルギーを一点に集中させることによって、硬度の高い装甲を貫徹することを目的としている兵器であります。ですから、「摩耗」のように非常に装甲強度の高い生物に対しましては、場合によっては運動エネルギー弾よりもこういった化学エネルギー弾のほうが有効である、とも評価できるわけであります。

 私が、戦車を現地に投入できておれば変わっていたかもしれないと先ほど申し上げたのは、どちらかといえば隊員の被曝の問題のことを考えて申し上げたわけで、「摩耗」迎撃作戦を実施する上で、特科が不適であったとは考えておりません。誤解がないように申し添えておきます。

 以上です。

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