尾形参考人に対する意見聴取-三
(青木委員)
それでは、参考人はたとえ有害な放射線であっても、生物はそれと共存できるというお考えですか。申し訳ありませんが俄には信じがたい話ではあります。
(尾形参考人)
委員のご質問は、放射線と生物は相容れないものであって、あちらが立てばこちらは立たない、といういわば二元論に立脚しているものと思われますが、そもそもこの自然界にも放射線というのは絶えず降り注いでるんですね。もちろん、本件核惨事に際して非常な災厄をもたらした人工核種と同様に、有害なものです。年間被曝線量にして二・四ミリシーベルトくらいは自然被曝しているそうであります。俄に信じがたいというご意見ですが、生物は放射線が絶えず降り注いでいる環境下におきまして現に生存している。これは紛れもない事実であります。
(青木委員)
巨大球体はですね、外装を開口させて体内に圧力容器ごと格納容器を取り込んでしまったんです。平常運転時でも相当量の放射線を浴び続けたこれら圧力容器や格納容器というものは、それ自体が放射線を発する線源になる、これを放射化というそうですけれども、それ自体が放射性物質になってしまうそうであります。それを体内に取り込む、という健康上のリスクと、自然被曝とはやはり同列に論じるには無理があると考えますがいかがでしょう。
(尾形参考人)
生命というものが、突き付けられた困難に対して示す回答のなかには、到底人知の及ばないところがあります。
地球上に酸素が充満し始めたときには、生命は細胞壁を作って酸化を防ぎました。それにとどまらず、酸素が含有する莫大なエネルギーを代謝に利用する種まで出現したわけであります。生命というのものは、本来猛毒だったはずの物質を、生存に必要な物質として積極的に体内に摂取するところまで進化したわけであります。
さきほど、生命の始まりから現在に至るまでの長い長い生命の歴史をごく簡単に概観いたしましたけれども、今の話で申し上げた「酸素」という部分を「放射線」に置き換えて考えてみてください。
大量破壊兵器や発電に利用するくらいですから、放射性物質というものは現在の生命にとっては猛毒であるのと同時に、産業活動においては莫大なエネルギーを生み出す物質でもあるわけですよ。それを今まで我々は海に垂れ流したり大気中に放出してきたわけです。酸素を地球上に充満させたシアノバクテリアのように、地球環境に放射性物質を放出してきたわけであります。我々の見えないところで、膨大な数の生命がこれらの放射線に曝されて死んでいったものと思われます。これは、そのまま地球上における酸素の発生と同様に、生命にとってはカタストロフィだったに違いありませんが、同時にその環境変化に適応する種が出現することもまた自明の理なわけであります。なぜならば生命というものは、そうやってこの地球上で進化を遂げてきたわけですから。
(青木委員)
常識的に考えますとそのような劇的ともいえる進化を生物が果たすためには相当な年月が必要だと思われます。進化のために必要な年数というものについてご説明をお願いします。
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