凄腕さんは、素材の保存も一流でした。


「ねぇ、ミリーどうして一緒に来るって言い出したの?」


 隣を歩くミルレインに問いかける悠利ゆうりの表情は、心底不思議そうだった。彼は、錬金釜の定期点検の為に錬金鍛冶士のグルガル親父殿の元へ向かっていた。その隣で当然のような顔をして一緒に歩いているのは鍛冶士見習いのミルレイン。基本的に普段行動を共にすることなどほとんどない彼女が、何故同行しているのか彼にはさっぱり解らないのだった。

 悠利の足下をぽよんぽよんと跳ねているルークスも、「何でいるの?」みたいな瞳でちょこちょこミルレインを見ている。別に彼女を嫌っているわけではない。ただ、不思議で仕方ないだけなのだ。


「アタイは、グルガルさんの工房を見学したいんだ」

「見学って……。でも、グルガルさんは錬金鍛冶士だし、ミリーは鍛冶士だよね?違う分野じゃないの?」

「確かに仕事に関しては全然違うし、見てても何も解らない」

「それなのに見学するの?」

「分野が違っても参考になる部分はちゃんとある!」

「あ、そう」


 握り拳を作って力説するミルレインに、悠利は質問するのを諦めた。何やら無駄にテンションが上がっていて、いつもならもうちょっと理路整然と説明をしてくれる筈のミルレインと意思の疎通が図れないのだ。

 職人ってそういうところあるよねーと考える悠利だった。少なくとも、悠利の知っている職人組は、テンションが上がったり集中すると、こっちの話を聞いてくれないタイプが多いので。

 まぁ、ミルレインが同行していて何か不都合があるわけではない。少なくとも、悠利には。彼女の存在が邪魔になったらグルガルが自分で文句を言うだろう。そして、彼女の態度からグルガルに一定の敬意を持っているらしいことは解る。なので、もしもグルガルに拒絶されたら大人しく戻ってくれるだろうと思う悠利だった。

 ルークスとミルレインを引き連れて、悠利は慣れた王都の道を歩いて行く。工房が建ち並ぶ区画へ足を運ぶのも慣れたものだ。錬金釜のメンテナンスでグルガルを訪ね、アクセサリー作りをしたくなったらブライトの工房を訪ねるのが悠利の日常なので。

 そうこうしているうちに錬金鍛冶士であるグルガルの工房にたどり着いた。呼び鈴を鳴らしてドアを開ければ、奥の方から野太い声で入ってこいと返事が届く。どうやら、何か作業をしているらしい。


「グルガルさん、こんにちはー。錬金釜持ってきましたー」

「お邪魔します!」

「キュー!」


 のほほんと中に入る悠利に続くミルレインは、直角にお辞儀をしてから玄関に足を踏み入れていた。体育会系みたいな仕草だ。最後にぽよんと玄関に入ってきたルークスは、いつも通りである。

 ちなみに、ルークスは最後尾だったので身体の一部を伸ばしてドアノブを掴み、そっと丁寧にドアを閉めていた。出来るスライムは今日もお利口さんである。


「グルガルさん、こんにちは」

「あぁ、よく来たな、ひよっこ。……何じゃ、小娘も一緒か」


 作業中のグルガルを見つけてにこにこ笑顔で挨拶をする悠利。いつも通り鷹揚に頷いたグルガルは、続いて視界に入ったミルレインを見て不思議そうに瞬きをした。

 そのグルガルの反応に、ミルレインは悠利の隣で深々とお辞儀をして口を開いた。


「あの、お仕事の邪魔はしないので、いさせていただいても良いですか?」

「……鍛冶士見習いの小娘が見るもんなんぞないと思うがなぁ……。まぁ、邪魔をせんなら好きにせい」

「ありがとうございます!」


 割とどうでも良さそうに返事をしたグルガルに、ミルレインは輝かんばかりの笑顔になった。大きな声でお礼を言う姿に、悠利は不思議そうに首を傾げる。彼女が何を喜んでいるのか彼にはさっぱり解らなかったのだ。

 けれど、口を開いてかけた言葉は別のものだ。


「良かったね、ミリー」

「あぁ!グルガルさんの工房を見学できるなんて滅多にないからな……!」


 悠利の言葉に、ミルレインは勢い込んで応える。その熱意に圧倒されつつ、まぁ彼女が嬉しいなら良いかと思う悠利だった。悠利は職人ではないので、職人の憧れとか意気込みとか熱意とかはさっぱり解らないのだ。

 そんなミルレインを放置して、グルガルは悠利を呼ぶ。既に何度か定期点検に来ている悠利は、愛用の学生鞄から錬金釜を取り出して作業台の上に置いた。毎日ぴかぴかに磨いているので、目立った汚れなどはない。

 ……というか、「掃除は僕の仕事だよね?」みたいなノリで、ルークスが丸呑みして綺麗にするのだ。この世界最高峰の魔法道具マジックアイテムである錬金釜でそんな扱いをして良いのかと思うだろうが、案外頑丈に出来ているので問題はない。

 一応、事前に【神の瞳】で確認してからルークスに掃除を頼んでいるので、安心してください。なお、それでぴかぴかになると解ったルークスがアリーの錬金釜も丸呑みにしようとして、一悶着あったのも事実です。

 勿論アリーは説明したら理解はしてくれたが、とりあえず「突拍子も無いことをするな」怒られた悠利だった。確かに、スライムをそんな風に使うなとか、錬金釜をそんな扱いするなとか、色々と常識人のリーダー様には言いたいことがあったのだろう。仕方ない。

 ただし、一つ言い訳が許されるならば、言い出したのは悠利ではないのである。掃除担当のルークスが、自主的に立候補したのだ。……まぁ、【神の瞳】さんで鑑定したとはいえ、それにゴーサインを出した悠利も悠利なのだけれども。


「ふむ。相変わらず綺麗に使っているようだな」

「毎日ちゃんと綺麗に掃除してますよ」

「そうか。感心じゃ。道具は大切に使ってもらわんと、儂ら作り手もやりがいがない」

「キュキュー!」

「……ん?」


 錬金釜をじっくりと見詰めた後に、グルガルは満足そうに笑った。頑固一徹な職人気質の親父殿に、悠利は笑顔で応える。ほぼ毎日錬金釜を使っている悠利なので、その度にちゃんと綺麗にしているのだ。……ルークスが。

 えっへんと胸を張るような感じのルークスを見下ろして、グルガルは沈黙した。ルークスは、キュイキュイと鳴きながら何かを自慢しているような雰囲気だ。有り体に言うなら「もっと褒めて!」みたいな感じである。

 そんなルークスを見て、続いて悠利を見るグルガル。悠利はにへっと笑うだけで何も言わない。しかし、グルガルは何かを察したらしかった。


「ひよっこ、答えい。このスライムに何をさせた?」

「え?」

「すっとぼけるな」

「……ルーちゃんは、掃除を頑張ってくれただけですよ?」

「ほぉ?」


 半眼になるグルガルに、悠利はちょっとだけ冷や汗を流した。グルガルから伝わってくる威圧が凄まじかったのだ。物凄くお怒りだというのがよく解る感じだった。普通に怖い。


「やだなぁ、グルガルさん。顔が怖いですよー」

「儂が厳ついのは生まれつきじゃ」

「僕が言いたいのは、そういうことじゃなくてですねー」

「ひよっこ」

「……はい」


 何とか話題を逸らそうとした悠利だが、失敗した。ビシッとルークスを指差すグルガル。その目は完全に据わっていた。


「こやつに何をさせたのか、答えい」

「……」


 もはや、言い逃れは出来なかった。というか、言い訳すら許してもらえない感じだった。これ確実に怒ってるなぁと思う悠利だった。ついでに、正直に話したら話したで、特大の雷が落ちるんだろうなとも思った。その程度は悠利でも解る。

 とはいえ、答えないという選択肢は既にない。逃げるタイミングは完全に逃しているのだ。なので、悠利はしょんぼりと肩を落としながら素直に答えた。




「鍋を洗うみたいに、錬金釜を丸呑みにして掃除をしてくれました」




 言葉にするとそれだけだ。ルークスの体内で細かい汚れまで分解吸収されるので、悠利の錬金釜はいつも新品のようにぴかぴかなのだ。

 答えた悠利は、恐る恐るグルガルを見た。多分怒ると思ったのだが、何も言われない。それはそれで逆に怖いなと思う悠利だった。

 ちなみに、グルガルは怒る気が失せたわけでも、怒っていないわけでもない。単純に、驚きすぎて固まっているのだ。それほどに、悠利が告げた内容は歴戦の錬金鍛冶士の親父殿にしてみても、突拍子のないことだったのだ。

 しばらくしてようやっと立ち直ったグルガルは、震える声で悠利に問いかけた。いつもの迫力が半分ぐらいになっているが、怒られると思って身構えていた悠利は気にしなかった。


「丸呑みじゃと……?」

「はい」

「そこのスライムが、錬金釜を、丸呑みに、した……と?」

「はい」


 顔を引きつらせて問いかけられた内容に、悠利は何度も何度も頷いた。全ては事実だ。現実的にあり得ないと思われそうだが、事実なのである。仕方ない。事実は小説よりも奇なりという言葉もあるのだから。

 確認作業を終えたグルガルは、わなわなと震えていた。「あ、これは雷が落ちる」と悟った悠利は、ご機嫌状態のルークスをひょいと腕の中に抱え込んで、ぎゅっと目を閉じた。本当は耳を塞ぐべきだと思うのだが、何も解っていないルークスが驚いて飛び跳ねないようにしっかりと抱くことにしたのだ。

 そして、悠利の予想通りに、超特大の雷が落ちた。




「何をやっとるんじゃ、お主らぁああああああ!!!!!」




 工房中に響き渡る大絶叫だった。今まで悠利が聞いた雷の中で一番大きい。それぐらい、グルガルにとっても衝撃だったのだろう。

 間近で怒鳴られた悠利は、ぐわんぐわんといつまでも余韻みたいに響くグルガルの罵声にふらふらしていた。山の民は元々声が大きい人が多く、グルガルもその例に漏れず素晴らしい肺活量と声量の持ち主だった。それで怒鳴られたのだから、悠利がびっくりするのも無理は無かった。

 突然のグルガルの叫びに驚いたのは、何も悠利だけではない。

 ルークスは驚きのあまり、「キュピ!?」と周囲を見渡しながら飛び跳ねようとした。悠利の腕にしっかりと抱え込まれているので動くことは出来なかったが、反射で動こうとしてしまうぐらいには大声に驚いたのだ。

 そして今一人、グルガルの工房内を真剣な表情で見学していたミルレインもまた、突然の大絶叫に驚いていた。彼女こそ、不意打ちでグルガルの怒鳴り声を聞いたのである。心臓が飛び出るぐらいに驚いて、その場で軽く飛び跳ねていた。


「ひよっこ」

「あの、一応鑑定で確認したら、問題ないってことだったんです。後、手作業で掃除するよりルーちゃんの方が早いし綺麗になったんです」

「ひよっこ」

「ルーちゃんだって悪気があったわけじゃないんです。むしろ、おかげでこんなにぴかぴかなんです」


 低い声で呼ばれた悠利は、グルガルの発言を遮るように立て板に水状態で説明を続けた。ルークスがいかにお役立ちかを、自分がどれだけ助かっているかを切々と訴える。……つまりは、ルークスがグルガルに必要以上に怒られないようにと必死なのだった。

 そんな悠利を彼の腕の中で見上げていたルークスは、眼前で表情を完全に消しているグルガルに気づく。怒鳴られて驚いたのもあるが、今の感情がまったく読めない無表情もなかなかに怖い。そしてルークスは、身体の一部をちょろりと伸ばしてグルガルをちょんちょんと突いた。


「キュイー……」

「ルーちゃん?」

「……」

「キュピ、キュピィ……」


 悠利に抱きかかえられているので身動きできないルークスは、伸ばした身体の一部でグルガルの太い腕を突きながら、不安そうな目でか細く鳴いていた。ご主人を怒らないで、みたいな感じだった。そんなルークスに悠利はちょっと感動した。僕の従魔は本当に優しい、みたいな感じだ。安定の主人バカな悠利だった。

 そんなルークスを見ていたグルガルは、しばらくしてから盛大に溜息をついた。完全に毒気を抜かれたという感じだった。


「もう良いわい。お主ら相手に普通を説いても無駄じゃった」

「……えー?」

「……キュピー?」

「問答はしまいじゃ。儂が点検をしてる間はその辺で大人しくしておれ」

「はーい」

「キューイ」


 しっしっとまるで犬猫を追い払うみたいな仕草で扱われる悠利とルークス。そして彼らは、大人しくしていろと言われて、素直に返事をするのだった。基本的には真面目だし素直だし良い子なのである。悠利もルークスも。

 ……ただちょっと、彼らの常識が他の人の常識とは違う場所にあって、かっ飛ばしちゃうだけで。

 とりあえず、大人しくしていろと言われた悠利とルークスは、いつものように工房の掃除を始めた。学生鞄から愛用の掃除道具を取り出す悠利と、床のゴミを吸収しながら片付けていくルークス。アジトでも見られる光景である。

 そんな風に、勝手知ったる我が家のように掃除をする悠利の肩を、ぽんぽんとミルレインが叩いた。


「ん?ミリー、どうかした?」

「どうかした?じゃない。グルガルさんに怒られてただろ?何やった?」

「んー、錬金釜の掃除、ルーちゃんがやってくれてるって言ったら予想外だったみたいで怒られた」


 尊敬するグルガルに怒鳴られた悠利とルークスという状況で、悠利がグルガルを怒らせたのだと確信しているミルレインだった。彼女がグルガル贔屓というのもあるが、そもそもグルガルは意味なく怒鳴ったりしないのだ。彼に怒鳴られるというのは、何らかの理由が存在するということになる。

 そんなミルレインに、悠利はさらっと説明した。その説明を聞いた瞬間、ミルレインがくわっと目を見開いて叫んだ。


「そりゃ怒られるわ!」

「えー……。だって、僕が自分で拭くより、ルーちゃんがやってくれた方が綺麗になるんだよ?」

「そうかもしれないけど!」


 この馬鹿!と言いたげなミルレインだった。しかし、相手は悠利だ。暖簾のれんに腕押しレベルでへろんとしている。言っても無駄だと解ったのか、ミルレインはがっくりとその場で肩を落とした。どんまい。

 何やら疲れているミルレインに首を傾げつつ、悠利は気になっていたことを聞くことにした。錬金釜の定期点検が終わるのを待っている間は暇なのである。掃除をしているのだって、手持ち無沙汰だからに他ならない。


「そういえば、ミリーは何を見学してるの?グルガルさんの工房って、あの大きな錬金釜以外はそんなに変わったものとか無いと思うんだけど」

「何をって……。そんなの、ここに決まってるじゃないか……!」

「……えーっとここって、素材棚?」

「そう!」


 ミルレインが自信満々で示したのは、大量の素材が保管されている素材棚だった。錬金釜を作ることを生業なりわいにしているグルガルの工房には、大量の金属と宝石類が素材としてストックされている。希少な素材も並ぶその素材棚は、一目で何が置かれているのか解るガラス戸の戸棚だった。

 高さは悠利の頭よりまだ高い。側に脚立が置いてあるので、それをを使って出し入れをしているのだろう。確かに、ちょっと見応えはあった。

 けれど、あくまで悠利にしてみればそれだけだ。綺麗な宝石やインゴットがいっぱい並んでるなー程度の感想しか出てこない。

 しかし、ミルレインにとっては違った。まさにそれは、知識の塊と言うべき素材棚なのだ。


「ミリーはたくさん素材があるのを見てるのが楽しいってこと?」

「違う。全然違う」

「え?違うの?ごめん。じゃあ、この大きな素材棚の何を見てたの?」

「保管方法だ」

「保管方法?」


 ミルレインの言葉に、悠利ははて?と小首を傾げた。金属のインゴットと宝石類は、戸棚に無造作に並べられている。一応種類別に分類されているようだが、ガラス戸はそのまま閉まっているだけにしか見えない。その状態で保管方法と言われても、悠利にはさっぱり解らなかった。

 そんな悠利に、ミルレインは興奮気味で説明をしてくれる。……鍛冶関係になると、途端にテンションが上がるのは職人の性みたいなものだった。いつものことなので悠利も特に気にしない。

 正確には、そんなことを気にしていたら《真紅の山猫スカーレット・リンクス》の面々とは付き合えないのだ。各々、自分の興味のある分野、好きな分野になると突っ走ってしまうところがあるので。代表的なのはジェイクだが、肉に突撃するレレイも、スイーツに興奮するヘルミーネとブルックも、出汁に一直線なマグもそんな感じだ。


「金属も宝石も、確かにそんなに繊細じゃない。でも、適切な保管方法にするだけで、ぐっと質が良くなるんだ」

「へー。金属や宝石にもそういうところあるんだねー。植物とかなら何となく解るんだけど、ちょっと意外かも」

「産地の環境に近いと良い状態保たれるって意味なら、金属や宝石も一緒だよ」

「なるほど」


 ミルレインの説明に、悠利は納得した。心の中で、「つまり、食材をきちんと保管するのと同じ感じだよね」と思っている。思っているだけで口に出さないので、ミルレインには伝わらないのだった。……まぁ、今回は概ね間違っていない。

 そんな悠利に、ミルレインは事細かに目の前の素材棚がどれほど素晴らしいのかを力説していた。専門知識の無い悠利は右から左に半分ぐらい聞き流してしまっているが、ちゃんと相づちを打つのは忘れない。人の話を聞くのは得意だった。


「まず、この素材棚の中身は、同じ環境に置く方が良いものが固めてある。同じ金属でも産地が違うだけで少し質が変わるから、それも考慮して分類してあるんだ。それだけの知識があるってことが、それだけでも解るだろ?」

「ふむふむ。確かに、こんなにいっぱいある素材の性質を全部ちゃんと理解しているのって凄いね」

「だろ?」


 ミルレインはまるで自分が褒められたみたいに嬉しそうな顔をした。悠利に説明がちゃんと伝わったのが嬉しいのと、自分が尊敬しているグルガルの凄さが伝わっているのが嬉しかったのだ。

 なお、悠利が考えたのは「僕、鑑定技能スキルあって良かったー。全部覚えろとか言われたら、頭パンクしちゃうやー」ということだった。悠利には最強の鑑定系チート技能スキルである【神の瞳】さんがついているので、困ったら即座に発動すれば大概のことは調べられるのだ。正解しか出てこないウィキペディアみたいなもんである。


「それで、少しでもそれぞれに適した環境に整える為に、棚のあちこちに魔石が配置されてるんだ。各属性の魔石を使うことで、素材棚の中の温度を整えてるんだよ」

「あ、あの飾りみたいになってるの、そういう意味なんだ。お洒落な飾りかと思ってた」

「あははは。その発想が出るのはユーリらしいな。でも、アレはちゃんと実用的な意味で付けられてるんだよ。それだけじゃなくて、素材の下に敷かれてる布とかもそれぞれに最適なものを用意してあるんだ」

「流石グルガルさんだねー」

「そう!流石なんだ!」


 のほほんと悠利が呟いた言葉に、ミルレインが食いついた。キラキラと顔を輝かせるミルレイン。彼女の中で、同じ山の民であるグルガルはかなり高評価らしい。憧れの尊敬する先輩、みたいな感じなのだろう。

 その後も、ミルレインは素材棚に関する説明を延々と続けた。素材棚全体に関する説明が終わったかと思うと、次は区画ごとに説明が入る。寒い地域の金属だから涼しく設定されているだとか、乾燥に弱い宝石だから対策がされているとか、そういう話だ。

 全然専門知識が存在しない悠利は、テレビで雑学番組を見ているような気持ちで、ミルレインのテンション高めの説明を聞いていた。彼女が楽しそうなので良いやと思うのと、ここで説明を聞いておいたら、訓練生達との話題になるかなと思うのが半々な悠利だった。




 なお、テンションが上がりまくったミルレインの語りは、グルガルが錬金釜の定期点検を終えるまで続くのでした。……そして、我に返って耳まで真っ赤にしながら謝罪するミルレインがいました。




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