王子様の秘密 7

 イズミさんが帰った後、透さんとふたりで出かけるのは眞澄くんが絶対反対で、近所だと誠史郎さんが一緒に行けないということで、みんなで少し遠くに遊びに行こうということになった。


 電車で1時間ほどの、海にほど近い有名な場所なので、もし知り合いに会っても誠史郎さんとは偶然会ったということで押し通すと決める。淳くんが言ってくれたらみんな信じてくれるだろう。

 それにしてもこの集団は目立つ。駅でも電車の中でもキラキラしている。


「着いたら昼飯?」

「俺、中華街がええなー」

「中華街って何?」

「中華料理店がたくさんある場所だよ」

「予約できるお店を探しましょう」


 誠史郎さんがスマホを操作してお店探しをしてくれている。私もそろそろスマホに変更したいなと誠史郎さんの手元を見つめてしまう。


 電車を乗り継いで中華街に1番近い駅で降りた。そして誠史郎さんが予約してくれたお店へ行ってみんなでランチを楽しくいただいた。

 そして腹ごなしの散歩に海沿いの大きな公園へ移動する。潮の香りが風に乗って漂う。

「気持ちいー」


 私は精一杯伸びをした。

 色とりどりのお花がたくさん咲いていて見ているだけで楽しい。枝垂れ桜やいろいろな種類のバラを見ることができた。しばらく散策していると海上バス乗り場のあたりへ差し掛かる。もう少しで出発の時間だったので乗ることにして、みんなで移動した。



 次の停船場で降りると赤レンガ倉庫は目の前だった。海の方を見ると大きなクルーズ船が悠々と進んでいる。

 柵に掴まって海を眺めていると、淳くんが隣にやって来た。

 琥珀色の髪が風になびいて、それを片手で抑えているだけなのにとても絵になる。


「みんなは?」

「裕翔がアイスクリームが食べたいって言うから買いに行ったよ」

 すごい食欲だと感心する。


「誠史郎が僕らの分も買ってきてくれるって言ってたから、ここで待っていよう」

 公園も中華街もそうだったけれど、さすがに土曜日なのでここも混雑している。


「みんなで出かけられて良かったね」

 淳くんはとても穏やかに微笑んだ。私もつられて微笑んでしまう。淳くんは不思議だ。

「淳くんはどうしていつもそんなに穏やかでいられるの?」

 単純に疑問に感じていたことを思わず聞いてしまった。すると淳くんは、少し困ったように双眸を細めた。


「僕は穏やかじゃないよ。本当の僕を知ったら、みさきはきっと……」

 琥珀色の瞳に吸い込まれそうな錯覚に陥る。淳くんから目が離せなくなっていると、強い海風が吹いた。驚いて目を閉じてしまい再び開くと、目の前にいたはずの淳くんの姿がない。


「淳くん⁉︎」

 驚いて探しに行こうと一歩踏み出そうとしたとき、背後から私の両目を冷たくて大きな手が覆った。

「知らないままでいて」


 耳もとで淳くんの気品のある声が甘く囁く。頭の芯がぼうっとしたような感覚に陥り、無意識に頷いてしまっていた。

「ありがとう」

 淳くんは私をくるりと反転させて向かい合うと優しく微笑んでくれる。そして私の両方の二の腕のあたりをそっと掴むと額にキスをした。


 私自身に起こったことだと脳が理解して、真っ赤になって固まっていると淳くんがよしよしと頭を撫でてくれる。


「みさきー!」

 裕翔くんが両手にアイスクリームの入ったカップを持って走ってくる。

「はい、どーぞ」

 満面の笑みでバニラアイスの入ったカップを渡してくれる。


「ありがとう」

 ニコッと裕翔くんは笑うとスプーンいっぱいにストロベリーのアイスクリームの掬ってパクリと食べる。

「おいしー」

 本当においしそうに裕翔くんが食べているので、見ているこっちまで幸せな気持ちになる。


「はい」

 裕翔くんがは私にひと口くれようと口元にアイスクリームのたっぷり載ったスプーンを差し出してくれる。

「ありがとう」


 ありがたくいただいて、私のアイスクリームもスプーンに掬って裕翔くんの口の前に持っていくとパクリと裕翔くんがかぶりついた。淳くんは穏やかに微笑んで私たちの様子を眺めている。

「裕翔、抜け駆けはあかんでー」


 眞澄くん、誠史郎さん、透さんがアイスクリームを手に並んで歩いてくる。

 海辺でみんなでワイワイ言いながら分け合って食べたアイスクリームはいつもより美味しく感じた。


 心配していたようなアクシデントはなく、帰りの電車に乗って最寄り駅まで戻る。

 まだ日が暮れる前に帰れたのでヒスイくんに会うこともなかった。

「今日は俺、泊まらせてもらおうかなー」

 透さんの一言で家の中に妙な緊張感が走った。

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