第八十四話 シャーマンとパートナー精霊が対立する時
「ランディ様が……」
ルチアは、愕然としていた。
わかっていたはずだ。
彼らが、操られているだろうと。
だが、いざ、目にすると、衝撃を受ける。
自分のせいで、彼らを巻き込んでしまったのだから。
「どうだ?これでは、戦えないだろう?」
妖魔は、不敵な笑みを浮かべて、問いかける。
ランディを操り、ルチア達に襲わせれば、自分達が勝つと思い込んでいるのだろう。
ルチア達が、ランディを殺せるはずがない。
ましてや、傷つけることさえ、不可能だ。
ゆえに、妖魔は、勝ち誇っていた。
「貴様、ノーラはどこにいる?」
「さあな。教えねぇよ」
クロウは、妖魔に問いただす。
ノーラの姿が見当たらない。
どこかで、囚われの身となっているのだろう。
推測はしていたものの、見当がつかない。
だが、妖魔は、教える気などなかった。
教えても、無意味なのだ。
どうせ、ルチア達は、死ぬ。
ランディの手によって。
「ほら、とっとと、殺してやれよ」
妖魔は、ランディに命じる。
ルチアを殺すようにと。
ランディは、ゆっくりと、歩き、ルチアに迫っていった。
そこで、クロスとクロウが、ルチアの前に立つ。
ルチアを守るために。
だが、妖魔が、クロウに襲い掛かり、クロウは、吹き飛ばされた。
「ぐ……」
「クロウ!!」
クロウは、体勢を整え、ルチアの元へと駆け寄ろうとする。
だが、妖魔が、それを遮ってしまった。
クロスは、クロウの身を案じつつ、構えるが、右から、何者かか、斬りかかろうとする。
それに気付いたクロスは、よけるが、魔法が放たれ、クロスは、後退した。
「クロス!!」
クロスは、ルチアの身を案じる。
だが、クロスは、無事のようだ。
一体、誰が、クロスに襲い掛かったのだろうか。
ルチア達は、あたりを見回す。
すると、クロスの前に帝国兵が、現れた。
「帝国兵までいるのか……」
「残念だったな」
クロスは、歯を食いしばる。
帝国兵は、ノーラの監視をしているのではないかと、思い込んでいたからだ。
ゆえに、ルチアを守れると、勘違いしてしまった。
帝国兵は、まるで、勝ち誇ったような顔つきを見せる。
クロウは、妖魔に行く手を阻まれ、クロスも、帝国兵と対峙している。
誰も、ルチアを守れる者がいなくなってしまった。
それでも、ランディは、容赦なく、魔法を放ち、ルチアに襲い掛かる。
ルチアは、ランディの魔法を回避するしかなかった。
その頃、ノーラは、別の場所にいた。
両腕をロープで縛られた状態で。
「まずい、まずいよ……。このままじゃ……」
ノーラは、察していたようだ。
ルチアとランディが、戦闘を繰り広げてしまったのだと。
ランディのオーラを感じ取って、気付いたようだ。
ゆえに、ノーラは、焦燥に駆られる。
両腕を動かして、ロープを強引に引きちぎろうとするが、ロープは、頑丈だ。
両腕は、痣になりならがも、ノーラは、もがき続けた。
ランディは、容赦なく、魔法・スパーク・スパイラルを発動する。
それも、連発して。
ルチアは、魔法で相殺したり、回避したりするが、追い詰められていた。
「ランディ様、お止めください!!」
ルチアは、叫ぶ。
だが、やはり、ルチアの声は、ランディに届いていない。
ランディは、魔法・スパーク・スパイラルを発動し、ルチアは、回避するが、よけきれず、足に衝撃が走った。
「うあっ!!」
ルチアは、うめき声を上げ、足を抑える。
足が痛むのだ。
しびれに近い痛みが走っているのだろう。
それでも、ルチアは、歯を食いしばり、起き上がる。
ランディが、容赦なく、魔法を発動し続けるからだ。
ルチアは、痛みに耐え、回避し続けた。
――何とかしなきゃ……。でも、どうしたら……。
ルチアは、回避しながらも、思考を巡らせる。
どうやって、ランディを正気に戻せばいいのか。
サナカのように、何か、きっかけがあれば、戻るかもしれない。
だが、それは、困難を極めるであろう。
方法が見つからず、焦るルチアであったが、クロウと対峙している妖魔を目にし、思いついた。
――そっか、あの妖魔を!!
ランディを解放する方法は、あの妖魔を倒すことだ。
おそらく、ランディは、妖魔に操られているはず。
そう考えたルチアは、地面を蹴り、妖魔に向かっていく。
妖魔を倒すために。
だが、ランディは、ルチアの目的に気付いたのか、先回りし、ルチアの前に立ちはだかった。
「っ!!」
ルチアは、思わず、立ち止まってしまう。
まさか、ランディが、先回りするとは思ってみなかったのだろう。
それほど、距離があったのだ。
妖魔が、戦闘能力を上げたのかもしれない。
ルチアは、後退しようとするが、ランディが、すぐさま、魔法・スパーク・スパイラルを発動する。
ルチアは、回避できず、魔法に直撃してしまった。
「あああああっ!!」
「ルチア!!」
ルチアは、絶叫を上げ、倒れる。
体中が、焼け焦げたような後が遺った。
それほどの威力があったのだろう。
クロウは、ルチアの元へ、駆け寄ろうとするが、妖魔が、攻撃を仕掛け、邪魔をする。
ルチアの元へ行くことも、許されず、クロウは、苛立った。
「よし、止めを刺せ」
「やめろ!!」
帝国兵は、ランディに命じる。
クロスは、ランディを止めようと、強引に帝国兵に斬りかかろうとするが、帝国兵は、クロスの動きを詠み、剣をはじき返す。
クロスは、バランスを崩し、倒れかけそうになるが、踏ん張った。
だが、ランディは、ルチアの元へ迫り、魔法を放とうとする。
ルチアは、激痛に耐え、構える。
魔法を放とうとしているようだ。
だが、ルチアよりも、早く、ランディの魔法が放たれてしまった。
その時であった。
ノーラがルチアの前に出て、魔技を放ち、ランディの魔法を相殺したのは。
「おっと、レディには、優しくしないと駄目だろ?ランディ」
「の、ノーラ様……」
ノーラは、あのロープを引き裂き、ルチアの元へ駆け付けたようだ。
これには、ルチアも、ランディも、驚きを隠せない。
それでも、ノーラは、あえて、きざなセリフを言ってみせた。
「ちっ。抜け出しやがったか。まぁ、いいけどな」
帝国兵は、苛立ったようで、舌打ちをする。
ルチアを殺せると確信していたからであろう。
だが、それでも、帝国兵は、自分達が、勝つと思い込んでいるようだ。
ランディを正気に戻す方法などどこにもない。
妖魔を倒すしか。
それすら、ルチア達は不可能であろう。
「ノーラ様、お怪我を……」
「構わなくていいよ。ルチア。今は、ランディを止めないとさ」
「……はい」
ルチアは、ノーラが、両腕に怪我を負っている事に気付いた。
ノーラの両腕は、切り傷がある。
おそらく、ロープを引きちぎるために強引に両腕を動かしたのだろう。
ノーラは、ルチアの不安を取り除くように、語りかける。
今は、自分の怪我よりも、ランディを元に戻さなければならないからだ。
ルチアは、うなずきながらも、ノーラの身を案じた。
ノーラとランディは、向かい合う。
互いに、苦楽を共にしてきた彼らは、戦うことを決意したかのようであった。
「どいてよ。ノーラ」
「駄目だよ。ランディ。レディを守るのが、僕の役目だからね」
ランディは、ノーラに告げる。
ノーラの事を邪険に扱うように。
だが、ノーラは、退くつもりなどない。
ルチアを守ろうとしているのだろう。
あえて、キザなセリフを吐くノーラ。
ランディは、さらに苛立った。
「ちっ。相変わらずだな。そうやって、かっこつけて、うざいんだよ!!」
ランディは、怒りをぶつけるかのように、魔法・スパーク・スパイラルを発動する。
まるで、本音を言っているかのようだ。
だが、ノーラは、動揺することもなく、魔技・スパーク・インパクトを発動する。
魔法と魔技は、ぶつかり合い、爆発を引き起こした。
風圧が発生し、ルチアは吹き飛ばされかけるが、ノーラが、ルチアの元へ駆け寄り、守る。
風圧が収まると、ランディは、ルチアとノーラを見下すかのような目つきをしていた。
「本音を言ってくれるなんて、うれしいね!!僕も、今の君が、気に入らないんだよね!!」
ノーラも、あえて、怒りをぶつけるかのように、魔技・スパーク・インパクトを発動する。
ランディが、操られている事は、もちろん、知っている。
だからこそ、早く、正気に戻れと叱咤しているかのようだ。
だが、ノーラの声は、ランディに届いていない。
ランディは、魔法・スパーク・スパイラルを発動し、相殺させた。
何度も、魔技と魔法を発動し、ぶつけ合うノーラとランディ。
ルチアは、なぜ、この二人が、戦わなければならないのかと、心が痛んだ。
それでも、自分も戦うしかないと、覚悟を決め、ルチアは、妖魔の元へ迫っていく。
妖魔を倒せば、ランディは、解放されるからだ。
だが、ランディは、ルチアの前へと立ちはだかった。
「っ!!」
「させないよ!!」
ルチアは、驚きつつも、強引に妖魔の元へ向かおうとする。
ランディは、魔法・スパーク・スパイラルを発動しようとするが、ノーラは、ルチアの前に立ち、魔技を発動しようとした。
「ちっ」
ランディは、苛立ちながらも、魔法を中断させ、後退する。
危険を察知したのだろう。
至近距離で魔法と魔技をぶつけ合えば、巻き込まれてしまうと。
「どうして、そいつをかばうんだよ」
「やるべきことがあるからね」
「やるべきこと?」
「そうさ」
ランディは、ノーラに問いただす。
理解できないのだろう。
なぜ、ルチアを守ろうとしているのか。
ノーラは、やるべきことがあると告げた。
今のランディには、理解できないようだ。
ノーラのやるべきこととはいったい何なのかが。
「彼女には、帝国に行ってもらわないといけないんだ」
「どうしてさ?」
ノーラは、ルチアを帝国に行かせたいらしい。
これには、ルチアも、驚きを隠せない。
なぜなのだろうか。
ランディも、理解できず、問いただした。
「……ヴィオレットを連れて帰ってもらうためだよ」
「え!?」
ノーラは、意外な言葉を口にする。
ヴィオレットの事を知っているようだ。
しかも、彼女を連れて帰ってほしいと望んでいるらしい。
ルチアも、ランディも、驚きを隠せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます