第七章 救世の少女

第八十一話 ルーニ島奪還作戦、開始

 海賊船が、レージオ島を出発してから、日付が変わった。

 もうすぐで、ルーニ島に着く。

 空は明るいというのに、ルーニ島は、黒い靄がかかっている。

 ずっと、ルーニ島は、暗いままだったのだろう。

 日の光を拝むことなく。


「もうすぐだね……」


「ああ……」


 ルチアは、呟くと、クロウが、うなずく。

 ルチアの声は、震えていた。

 緊張しているのだろうか。

 当然かもしれない。

 いよいよ、ルーニ島奪還作戦が始まるのだから。

 ルチアの様子に気付いたクロスは、ルチアの肩に優しく触れた。


「ルチア、大丈夫か?」


「うん、私は、いつだって、大丈夫」


 クロスは、ルチアを気遣う。

 だが、ルチアは、大丈夫のようだ。

 強がっているわけではない。

 緊張はしていても、怖いとは思っていなかった。

 クロス達が、側にいてくれるのだから。


「もうそろそろですね、船長」


「気合、いれてくぜっ!!」


「絶対に、勝たないとね」


 海賊船が、ルーニ島に近づいていく。

 もうそろそろで、到着する予定だ。

 フォルス、ルゥ、ジェイクも、気合が入る。

 もう、引き返せない。

 いや、引き返すつもりなど毛頭ないのだ。

 ルーニ島を守りきれなかったことを、ずっと、悔いていた。

 だからこそ、ルーニ島を救うと心に誓ったのだ。


「もちろんだ」


 ヴィクトルは、うなずく。

 彼も気合を入れたようだ。

 海賊船が、ルーニ島に到着しかけた瞬間、ヴィクトルは、手を上げた。


「行くぞ!!」


 ヴィクトルは、魔法・バーニング・ショットを空に向けて発動する。

 これは、合図だ。

 大精霊達に力を発動してもらう為に。

 ヴィクトルの命令で、外で待機していた大精霊達は、結界を広げていく。

 邪悪な結界を破壊するためだ。


「結界が、広がっていく……」


 ルチア達が、あたりを見回す。

 結界が、広がっていくのが見えたからであろう。

 地水火風の四つの結界は、邪悪な結界に衝突する。

 邪悪な結界は、耐え切れず、硝子のように、割れて消滅した。


「結界を破壊することに成功した!!これより、俺達は、ルーニ島に、突入する!!絶対に、生きぬくぞ!!」


「うん!!」


 結界が、破壊され、ヴィクトルは、舵を取る。

 このまま、ルーニ島に突入するためだ。

 ルチアは、強くうなずく。 

 ついに、ここまで来た。

 海賊船は、スピードを上げて、ルーニ島にたどり着いた。



 ルーニ島の遺跡では、帝国兵や妖魔達がいる。

 神聖な場所だというのに。

 ルチア達が、知ったら、怒りを覚えるだろう。


「結界が、解かれてしまったようだね」


「どうなさるおつもりですか?」


 帝国兵のリーダーと思われる人物が、呟く。

 帝国兵のリーダーは、女性のようだ。

 しかも、落ち着きがある。

 結界を破壊されたのに、焦燥に駆られていないようだ。

 帝国兵は、リーダーに問いかけた。


「あの子には、限界まで、力を使ってもらわないと……。でも、楽しみもないとね……」


 リーダーは、ルチアの利用するつもりのようだ。

 一体、ルチアをどうするつもりなのだろうか。

 目的は、不明だった。

 しかも、利用するだけでなく、ルチアを弄ぼうとしているかのような発言をするリーダー。

 彼女は、何を企んでいるのだろうか。

 表情は、影に隠れており、誰にも見えていなかった。


「君達に任せよう。あいつらを使って、襲わせるんだ。いいね?」


「了解しました」


 リーダーは、妖魔達に命じる。

 誰かを操るようにと。

 「あいつら」とは、いったい誰のことなのだろうか。

 妖魔達は、わかっているようで、承諾した。



 海賊船から、降りたルチア達。

 ルーニ島は、まだ、空が暗い。

 まだ、結界は、完全に解かれていないのだろうか。

 ルチアは、少々、不安に駆られた。


「行くぞ!!突入だ!!」


 ヴィクトルは、叫び、ルチア達は、ルクメア村に突入する。

 ルチア達の気配を察したのか、帝国兵と妖魔達は、ルチア達に向かって、襲い掛かってきた。

 ルチアは、すぐさま、通常モードのヴァルキュリアに変身した。


「えええいっ!!」


 ルチアは、固有技・インカローズ・ブルームを発動する。

 それも、何度も。

 妖魔達は、次々と消滅した。

 クロス達は、帝国兵に斬りかかる。 

 クロス達に斬られた帝国兵は、血しぶきを上げながら、倒れ、命を落とした。

 ルクメア村は、戦場と化した。


「皆、大丈夫?」


「ルチア姉ちゃん!!」


「ごめんね、遅くなって」


「ううん。ありがとう、助けてくれて」


 ルチアは、子供達の元へ駆け寄る。

 帝国の命令で、外に出ていたのだろうか。

 戦いが始まり、子供達は、怯えていたが、ルチアの姿を目にした時、すぐさま、駆け寄ったのだ。

 ルチア達は、子供達に、謝罪したが、子供達は、ルチアを責めようとはしなかった。

 ルチアが来てくれて、安堵しているようだ。

 信じていたのだろう。

 ルチアなら、助けに来てくれると。


「フォウ様達は無事なの?」


「わからない。遺跡に連れてかれたから……」


 ルチアは、フォウ達の事を尋ねる。

 だが、子供達は、知らないようだ。

 邪悪な結界が張られた後、シャーマンとパートナー精霊は、遺跡に連れていかれたらしい。

 ゆえに、無事であるかどうかも、不明なのだ。

 不安に駆られるルチア。

 だが、帝国兵や妖魔達が、次々と、ルチア達に襲い掛かり、ルチア達は、戦い続けるしかなかった。


「数が多すぎる……」


 ルチアは、舌を巻く。

 劣勢を強いられているわけではない。

 だが、数があまりにも多い。

 このままでは、キリがないだろう。

 ヴィクトルも、ルチアと同じことを感じていたようだ。

 何かを決意したようで、拳を握りしめた。


「ここは、俺様とフォルスが残る」


「え?」


 ヴィクトルが、衝撃的な言葉を口にする。

 これには、さすがのルチアの驚きを隠せないようだ。

 もし、ヴィクトルとフォルスが、残れば、苦戦を強いられるのは、目に見えている。

 故に、ルチア達は、戸惑った。


「ヴィクトル、何を言ってるんだ?」


「俺様達の目的は、島を救うことだ。そのためには、結界を張らないといけない」


「邪悪な結界は、破壊できましたが、妖魔を弱体化させる結界は、まだ、張られていないのです」


「だから、ルチア、お前が、結界を張れ。いいな?」


 クロウも、衝撃を受けたようで、ヴィクトルに問う。

 ヴィクトルは、奪還作戦を遂行するためには、結界を張る必要があると考えているようだ。

 フォルスも、同じことを考えていたらしい。

 結界を張るには、遺跡に向かう必要がある。

 だからこそ、誰かが、遺跡まで、いかなければならないのだ。

 ヴィクトルは、ルチアに命じた。

 ルチアが、結界を張るようにと。


「……わかった。死なないでね」


「誰に言ってる?俺様は、海賊だぞ?」


 ルチアは、ヴィクトルの命令に従う事を決意する。

 本当は、ヴィクトル達を残して行けるはずがない。

 だが、誰かが、いかなければ、島を救うことはできない。

 ルチアは、感情を押し殺して承諾したのだ。

 どうか、死なないでほしいと願いながら。

 もちろん、ヴィクトルとフォルスは、死ぬつもりなど毛頭ない。

 笑みを浮かべながら、反論してみせた。

 ルチアは、彼の笑みを目にし、クロス達と共に、遺跡へ向かった。

 妖魔達が、ルチア達を通すまいと、ルチア達の前に立ちはだかるが、ヴィクトルとフォルスが、古の剣の力を発動して、妖魔達を切り裂く。

 ルチア達は、その間に、ルクメア村を出た。


「さて、久々に大暴れするぞ!!フォルス!!」


「もちろんですよ、ヴィクトル!!」


 ヴィクトルとフォルスは、背中を向け合い、剣を握る。 

 しかも、フォルスは、ヴィクトルの事を呼び捨てにして。

 船長と部下としてではなく、友として、共に戦うことを決したのだろう。

 帝国兵や妖魔が、ヴィクトルとフォルスに襲い掛かるが、二人は、同時に地面を蹴って、向かっていった。



 ルチア達は、遺跡を目指している。

 だが、フーレ村とラクラ村から、妖魔達が、現れ、ルチア達に迫ってきた。


「フーレ村とラクラ村から、妖魔が!!」


 ルチアは、思わず、立ち止まってしまう。

 ルチア達を遺跡まで行かせたくないのだろう。


「ジェイク、やってやろうぜっ!!」


「もちろんだよ!!」


 ルゥとジェイクが、ルチア達の前に出る。

 彼らは、ルチア達を先に行かせようとしているようだ。


「ルゥ!!ジェイクさん!!」


「あんたらは、先に行けってっ!!」


「信じてるからね!!」


「うん!!」


 ルゥとジェイクは、信じているようだ。

 ルチア達なら、島を救ってくれると。

 だからこそ、ここに残って、戦うことを決意したのだ。

 二人の石を感じ取ったルチアは、うなずく。

 ルゥとジェイクの為にも、先に進むと。

 ルゥとジェイクが、妖魔達の相手をしている間に、ルチア、クロス、クロウが、走り始め、遺跡へ向かった。


「さあ、覚悟しやがれっ!!」


「僕らが、相手だよ!!」


 ルゥとジェイクは、構える。

 最後まで、生きぬくと、誓って。

 二人は、地面を蹴り、妖魔達に向かっていった。



 ルチア達は、遺跡に入る。

 遺跡から、まがまがしい力を感じた。

 帝国兵や妖魔が徘徊しているのだろう。

 神聖な場所だというのに、アジトにしているようだ。

 ルチアは、それが許せず、怒りを露わにした。

 地下にある結界の部屋へと向かうルチア達。

 だが、その時だ。

 帝国兵と妖魔が、ルチア達の前に現れたのは。

 しかも、帝国兵は、リリィと捕らえていた。


「妖魔!!」


 ルチア達は、妖魔と遭遇し構える。

 妖魔は、不敵な笑みを浮かべていた。

 まるで、余裕があるかのように。

 ルチアは、地面を蹴り、妖魔に向かっていく。

 だが、その直後、華の魔技が放たれた。


「っ!!」


 ルチアは、ギリギリのところで回避する。

 だが、動揺していた。

 あの魔技は、妖魔が、発動したものではない。 

 明らかに、人間が、発動したものだ。

 まがまがしさを感じなかった。

 だからこそ、ルチアは、動揺したのだ。

 島の民の誰かが、自分を殺そうとしているのだと、察してしまったから。

 足音が聞こえ、ルチア達は、警戒し始める。

 足音は、大きくなり、何者かが、ルチア達の前に姿を現した。

 だが、その瞬間、ルチアは、目を見開き、動揺した。


「な、なんで?サナカ……様?」


 ルチア達の前に現れたのは、なんと、サナカだった。

 しかも、サナカの瞳は、光を失っている。

 まるで、操られているかのようであった。

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