第六十九話 地のシャーマンは、ヴァルキュリアを導く

 ルチア達は、アウスとエモッドのアジトに向かっている。

 アジトは、どうやら、洞窟の中にあるようだ。

 その洞窟の中では、アウスとエモッドがいる。

 どうやら、ネロウの読みは、当たっていたようだ。


「ど、どうなっている!?」


「わ、私に聞かないでくださいよ!!」


 アウスとエモッドは、動揺している。

 計画が狂ったからであろう。

 まさか、島の民が、反撃するとは予想していなかったのだろう。

 島の民も、ルチアも、甘く見ていたという事だ。

 アウスとエモッドは、逃げ延びたのだかが、帝国兵や妖魔は、全員、ロクト村にいる。

 つまり、洞窟内にいるのは、アウスとエモッドのみであった。


「なぜだ。なぜこんなことに……。先ほどまで、うまくいってたというのに……」


「それも、あのヴァルキュリアのせいですね」


 アウスは、頭を抱えている。

 先ほどまで、計画通りだったというのに、計画が狂わされてしまったからだろう。

 エモッドの言う通り、ルチアのせいで。

 そう思うと、アウスとエモッドは、拳を握りしめる。

 ルチアに対して、憎悪を抱いているかのようだ。


「こうなったら、殺すしかない。我々の手で」


「では、戻りますか?」


「いや、あいつらは、ここに来るはずだ」


「ですが、私達だけで、防ぎきれるでしょうか?」


 アウスは、自分達の手で、ルチアを殺すしかないと思っているようだ。

 本当ならば、処刑させ、島の民を洗脳するつもりであったが。

 ルチアさえ殺すことができれば、再び、自分達は、島の民を支配することができる。

 もう、妖魔を倒す手段は、なくなるのだから。

 エモッドは、村に戻るかと尋ねるが、アウスは、ここで、待機することを選んだ。

 ルチア達が、ここに来ると推測しているようだ。

 だが、この洞窟内にいるのは、アウスとエモッドのみ。

 正直、戦力は乏しい。

 ゆえに、エモッドは、不安に駆られていた。


「案ずるな。我々には、これがある」


「そうでしたね」


 アウスは、懐から、核を取り出す。

 どうやら、核を使って、ルチア達を殺そうとしているようだ。

 核を目にしたエモッドは、不敵な笑みを浮かべていた。

 これで、勝てると確信を得ているのだろう。



 何も知らないルチア達は、ネロウの案内で、アジトを目指していた。


「急ぐぞ!!」


 ネロウは、ルチア達を連れて、急ぐ。

 島の民の為に。

 だが、その時だ。

 突然、岩が、ルチア達に向かって降り注いだのは。


「わっ!!」


「ルチア!!」


 岩の存在に気付いたルチアは、とっさに、後退して、回避する。

 クロスとクロウは、すぐさま、ルチアの前に立ち、魔技と魔法を発動して、岩を破壊した。


「あいつら、自然災害を……」


 クロスは、察した。

 アウスとエモッドが、自然災害を発動して、自分達の行く手を阻んでいるのだと。

 いや、ルチアを殺そうとしているのだと。

 なぜなら、岩は、ルチアに向かって降り注いでいるからだ。

 明らかにルチアを狙っているとしか思えない。

 クロスとクロウは、魔技と魔法を発動し続けて、ルチアを守った。


「ここは、僕に、任せて」


「でも……」


「大丈夫、僕は、シャーマン候補なんだから」


 ネロウが、ルチア達の前に出る。 

 何か、考えがあるようだ。

 だが、ルチアは、不安に駆られる。

 このままでは、ネロウも、危険な目に合うと。

 それでも、ネロウは、大丈夫だと告げる。

 岩は容赦なくネロウに向かって、落下し始める。

 その時であった。


「せいっ!!」


 ネロウは、オーラを発動する。

 すると、岩は、宙に浮いた状態で止まっていた。

 まるで、ネロウは岩を操っているかのようだ。


「すごい、どうやって……」


「あいつらは、ノームを操っているようなものなんだよ。でも、ノームは、まだ、抗い続けてる。だから、僕の呼びかけに応えてくれるのさ」


「なるほど」


 岩を止めたネロウを目にしたルチアは、驚きを隠せない。

 どうやって、止めたのか、見当もつかないからだ。

 ネロウ曰く、あの核は、ノームを封じ込めている。

 いわば、ノームを使役しているようなものだ。

 だが、ノームは、完全にしたがっているわけではない。

 ネロウは、その事に気付いているからこそ、オーラを発動して、ノームに呼びかけたのだ。

 ネロウの呼びかけに反応し、岩を止めてくれたのだろう。

 シャーマン候補であっても、ネロウとノームの絆は、それほど、強く深いのだろう。

 ネロウの説明を聞いたルチアは、納得した。


「ほら、行くよ。ヴァル……じゃなかった。ルチア」


「うん!!」


 ネロウは、ルチアの名を始めて呼んだ。

 と言っても、ヴァルキュリアと呼びそうになったが。

 ルチアにとっては、うれしい事だ。

 ネロウは、自分の事を許してくれた気がしたから。

 ルチアは、ネロウと共に、洞窟に向かった。



 アウスとエモッドは、不敵な笑みを浮かべている。

 核を手にしながら。


「よし、これなら、もう、大丈夫だ」


「そうですね」


 二人は、確信を得ているようだ。

 だが、二人は、まだ、知らない。

 ルチア達が、自然災害を食い止めて進んでいるとは。

 ゆえに、二人は、笑っていた。

 その時であった。


「何が、大丈夫なの?」


「っ!!」


 ルチアの声がして、アウスとエモッドは、目を見開きながら、奥の方へと視線を移す。

 ルチア達が、アウスとエモッドの元へと迫ってくる。

 気付いてなかったようだ。

 ルチア達は、ここに来れないと思い込んでいたからであろう。


「ヴぁ、ヴァルキュリア……」


「なぜ……」


 アウスとエモッドは、戸惑いを隠せない。

 予想もしていなかったのだろう。

 まさか、ルチア達がここまで来るとは。

 一体どうやって、自然災害を潜り抜けてきたというのだろうか。

 二人は、思考を巡らせるが、見当もつかなかった。


「僕が自然災害を防いだからさ」


「ネロウ!!」


 ネロウが、アウスとエモッドに教える。

 しかも、誇らしげに。

 ネロウの姿を目にしたアウスとエモッドは、さらに、動揺する。

 ネロウまで、ここにいるとは、予想もしていなかったからだ。

 まさに、計算外づくしと言ったところであろう。


「僕が、なんで、ルチア達と一緒にいるのかって顔してるね。簡単だよ。ルチアを信じてるからさ」


 ネロウは、アウスとエモッドが、何を考えているのか、見抜いているようだ。

 彼らの疑問に答える。

 ネロウは、信じているからだ。

 ルチアは、自分の事を騙してなどいない。

 心の底から、自分も、救いたいと願っていると気付いた。

 だからこそ、ルチア達と共にここまで来たのだ。

 島を取り戻すために。


「アウスは、僕達が、引き付ける。君達は、エモッドをお願い」


「うん!!」


 ジェイクは、ネロウ、ヤージュと共にアウスと戦うつもりのようだ。

 エモッドの事をルチア達に託して。

 ルチアは、うなずき、ヴァルキュリアに変身する。

 エモッドに迫っていくルチア。

 エモッドは、体を震え上がらせた。

 恐怖で、怯えているかのようだ。


「く、来るな、来るなあああっ!!」


 エモッドは、魔法・エビル・アースを発動する。

 まるで、ルチアを拒絶するかのようだ。

 だが、ルチアは、魔法・ブロッサム・スパイラルを発動して、相殺した。

 エモッドは、目を見開く。

 予想していなかったからだ。

 ルチアが、自分の魔法を相殺するなど。


「お前達は、島の民を苦しめた」


 ルチアは、ゆっくりと、エモッドに迫りながら、語る。

 怒りを露わにしながら。 

 島の民を苦しめた事が、許せないのだ。

 エモッドは、再び、魔法を発動するが、やはり、ルチアも、魔法を発動して、相殺した。


「ネロウを傷つけた」


 ネロウの心を操り、傷つけた事も、許せなかった。 

 彼は、まだ、幼い少年だ。

 その彼の心を揺さぶり、傷つけた。

 エモッドは、体を震わせながら、後退するが、ルチアは、容赦なく、エモッドに迫った。


「だから、絶対に許さない!!」


 ルチアは、構える。

 エモッドを倒すことを決意して。

 ネロウ達を救う為に。


「クロス、やるぞ!!」


「うん!!」


 クロスとクロウも、構えた。

 エモッドは、何度も、怯えながら、がむしゃらに魔法・エビル・アースを発動する。

 クロスとクロウは、魔技・シャドウ・ブレイドとフォトン・ブレイドを発動し、エモッドの魔法をかき消す。

 さらに、クロスとクロウは、剣で、エモッドの体を切り裂き、エモッドは、痛みにもだえながら、雄たけびを上げた。

 これで、エモッドの動きは、止められたようだ。


「ルチア!!今だ!!」


「たああああっ!!」


 クロスが、ルチアの名を呼ぶ。

 エモッドを倒すチャンスが来たからであろう。

 ルチアは、容赦なく、エモッドの元へと迫り、固有技・インカローズ・ブルームを発動した。


「ぐああああああっ」


 エモッドは、雄たけびを上げながら、仰向けになって倒れる。

 このまま、エモッドは、消滅するはずだ。

 ルチアは、そう確信していた。

 島を救えると。

 だが、その時であった。


「うっ」


「ルチア」


 ルチアが胸を抑えて、苦しそうな表情を浮かべる。

 クロスとクロウは、ルチアの側へ駆け寄った。

 一体どうしたのだろうか。

 ロクト島に向かった時も、同じ症状があった。

 偶然というわけではないようだ。

 だが、ルチアは、自分の身に何があったのか、不明であった。


「ほほう、そうか。そういう事か」


「何?」


 ルチアの状態を目にしたエモッドは、不敵な笑みを浮かべる。

 何か知っているかのようだ。

 クロウは、エモッドをにらんだ。

 それでも、エモッドは、怯えることなく、笑みを浮かべたままであった。


「お前は、まだ、知らないようですね。魂が、消えかけている事に」


「え?」


 エモッドは、衝撃的な言葉を口にする。

 なんと、ルチアの魂が、消えかけているというのだ。

 これには、さすがのルチアも、驚きを隠せなかった。

 なぜ、エモッドは、そのような事を言ったのか、理解に苦しんだ。

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