第五十五話 大胆な手段で

 クロス達は、要塞に侵入していたようだ。

 まさか、誰も、予想していないだろう。

 ルチアとルゥが、要塞に乗り込もうとしていることなど。

 何も知らないクロス達は、帝国兵を気絶させ、帝国兵の制服を奪い、着替えた。

 帝国兵に成りすまして、行動するつもりのようだ。


「よし、これで、大丈夫だな。どうだ?俺様の変装は?」


「バカなこと言っていないで、先に進みますよ」


 ヴィクトルは、フォルスに感想を求める。

 フォルスは、冷たくあしらった。

 完ぺきではあるが、緊張感にかける。

 ゆえに、フォルスは、呆れているのだろう。

 ヴィクトルは、少し、落ち込んだ様子を見せた。


「ねぇ、船長」


「なんだ?ジェイク」


「これで、良かったと思う?思う?」


「何がだ?」


 ジェイクは、ヴィクトルに尋ねる。

 納得していない部分があるようだ。

 だが、何を聞きたいのかは、ヴィクトルでも、不明だ。

 ゆえに、ジェイクに尋ねた。


「ほら、ルチアの事だよ。ちょっとさ、心配でね……」


「仕方がないだろ。ああするしかなかったんだ」


 ジェイクは、ルチアの事が気がかりだったのだ。

 ルチアの為とは言え、ルチアを残して、要塞に乗り込んでよかったのかと。

 しかも、ルゥまで、残ると言ってしまったのだ。

 二人のことを心配しているのだろう。

 だが、ヴィクトルは、仕方がないと答える。

 今のルチアを要塞に乗り込ませるわけにはいかない。

 これも、ルチアの為であった。


「ジェイク、核さえ取り戻して、大精霊を復活させれば、問題ないはずだ」


「確かに。俺も、そう思う。もう、ルチアが、傷つくところは、見たくない……」


「そう、だよね……。ごめん、ごめん」


 クロウは、ヴィクトルに同意見のようだ。

 核を取り戻し、大精霊を復活させれば、結界は、張られる。

 そうなれば、妖魔は、弱体化するはずだ。

 ルチアが、戦い必要がなくなると、クロウは、推測しているのだろう。

 クロスも、同じことを考えていたようだ。

 何より、ルチアが、傷つく姿を見たくはない。

 ルチアを苦しめたくなかったのだ。

 ジェイクは、納得し、謝罪した。


「じゃあ、作戦通り、二手に分かれるぞ。俺様とフォルス、ジェイクは、帝国のリーダーに接触する。クロスとクロウは、ターニャ達を救出してくれ」


 ヴィクトルは、命じる。

 二手に分かれて行動するつもりのようだ。

 ヴィクトル達は、帝国のリーダーに接触し、核を取り戻そうとしている。

 クロウとクロスには、シャーマン候補とそのパートナー精霊であるターニャとマシェルの救出に向かう予定のようだ。

 彼女達の協力が必要だからであろう。


「ヴィクトル、その事なんだが……」


「なんだ?」


 クロウは、ヴィクトルに語りかける。

 何か、言いたいことがるようだ。

 だが、何が言いたいのかは、わからず、ヴィクトルは、尋ねた。


「俺とクロウで、帝国のリーダーに接触しようと思うんだ」


「なぜだ?」


 クロスは、帝国のリーダーに自分達が、接触しようとしているようだ。

 帝国のリーダーに接触するという事は、妖魔と接触することになるだろう。

 ターニャとマシェルを救出するよりも、危険だと悟った。

 ゆえに、自分達が、帝国のリーダーに接触すると提案したのだろう。

 だが、ヴィクトルが、納得するはずがなく、問いただした。


「他の奴らが、俺達が、味方だとは知らない。だが、ヴィクトル達が、行けば、安心するだろう。それだけの事だ」


「けどな……」


 クロウは、ヴィクトル達に説明する。

 ターニャとマシェルが要塞のどこかにいる事は、わかっている。

 しかも、ターニャ達だけでなく、ウィニ島の民もいるはずだ。

 自分達が、行けば、警戒されてしまうかもしれない。

 だが、ヴィクトル達が行けば、安堵するだろう。

 協力者が現れる可能性だってある。

 と言う理由だと言い張るが、ヴィクトルは、本当の理由に気付いているようだ。

 ゆえに、クロスとクロウの提案を受け入れることはできなかった。

 だが、クロスとクロウは、真剣な眼差しで、ヴィクトルを見る。

 自分達の意見を変えるつもりはないのだろう。


「仕方がない。そういう事にしておいてやるか」


「お気をつけて」


「頼んだよ」


 ヴィクトルは、ため息をついて、二人の提案を受け入れる。

 観念したかのように。

 フォルスも、ジェイクも、クロスとクロウに託すことを決意したようだ。 

 自分達が、反対しても、二人は、行くつもりだろう。

 その事を悟ったため、あえて、反対しなかった。


「ああ」


「うん」


 クロスとクロウは、うなずき、ヴィクトル達と別れる。

 ウィニ島、救出作戦が、開始された。


 

 その頃、ルチア達は、要塞にたどり着いていた。


「ここが、要塞だなっ」


「うん」


 ルチアとルゥは、要塞を見上げる。

 自分達の何倍の高さだ。 

 しかも、見渡す限り、広い。

 これを島の民達は、作らされていたのだろう。

 一日、どれほどの時間、働かされているのだろうか。

 休む暇なく、働かされている可能性がある。

 そう思うと、ルチア達は、心が痛んだ。

 ルチアは、帝国兵に気付かれないように、歩き始める。

 すると、ルチア達は、急に立ち止まった。


「あの人達、ウィニ島の人達なんだよね?」


「おう……」


 ルチア達が目にしたのは、ウィニ島の民だ。

 それゆえに、立ち止まったのだ。

 島の民は、頬が痩せこけており、生気を失っている。

 ファイリ島やウォーティス島の民よりも、明らかに、ひどい。

 休むこともできず、重労働させられているのだろう。

 女子供、関係なく……。


「ひどい事、するよね」


「だよな……」


 ルチアとルゥは、怒りを覚える。

 特に、ルゥは、帝国を許せるはずがなかった。

 共に育ってきた島の民が、こんなひどい目に合っているのだ。


「絶対に助けなきゃ……」


 ルチアは、拳を握りしめる。

 今は、ヴァルキュリアに変身できなくても、助ける事は、できるのではないかと。

 決意を固めたのだ。

 少しだけだが、ルゥのおかげで、恐怖も、消えかけている。

 ゆえに、ルチアの決意は、固かった。


「ルゥ、行こう」


「行きたいけど、このままだと、ばれちまうしな……」


 ルチアは、ルゥに、先に進もうと促す。

 だが、ルゥは、躊躇した。

 当然であろう。

 このまま、奥に進めば、確実に、帝国兵に見つかってしまう。

 そうなれば、捕まってしまう可能性だってある。

 先に進みたいところではあるが、ルゥは、どうすればいいのか、戸惑っていた。


「大丈夫だよ。帝国の服を盗んじゃえば」


 ルチアは、意外な言葉を口にする。

 なんと、帝国の服を奪おうとしているようだ。

 つまり、クロス達と同じように、帝国兵を気絶させ、服を盗み、帝国兵に成りすまそうとしているのだろう。


「だ、大胆なこと言うよな……。船長みたいだっ」


「でも、それしか、方法ないよ」


 ルゥは、戸惑っているようだ。

 最善な作戦ではあるが、捕まってしまう可能性もある。

 何とも、大胆な作戦だろうか。

 ルゥは、ルチアが、ヴィクトルのようだと思えてならなかった。

 だが、ルチアは、意見を変えるつもりはない。

 迷っている暇などないのだから。


「ほら、行こう!!」


 ルチアは、ルゥの腕をつかんで、歩き始める。

 もちろん、帝国兵や妖魔に見つからないように。

 幸い、ここの帝国兵や妖魔は、ルチア達が、侵入している事に気付いていない。

 ゆえに、ルチアとルゥは、忍び足で進んでいた。


――少しは、元気になったのかもな……。


 ルゥは、ルチアの心情を察知したようだ。

 自分が、妖魔に関する持論をルチアに話したため、ルチアは、少しだけだが、元気になったのかもしれない。

 前を向こうとしているのだろう。

 恐れを拭い去ろうとしているのかもしれない。

 ルゥは、安堵していた。



 ルチアとルゥは、二人の帝国兵を発見する。

 しかも、島の民を監視しているわけではなく、ゲラゲラと笑っている。

 休憩しているのだろうか。


「あいつら、行けそうじゃない?」


「だよな?」


 ルチアとルゥは、確信を得ているようだ。

 帝国兵は、警戒していない。

 油断しているも同然だ。

 ゆえに、帝国兵を気絶させるのは、たやすいと言っても過言ではなかった。


「じゃあ、行ってくるね!!」


「え?お?」


 ルチアは、すぐさま、地面を蹴り、駆けていく。

 ルゥは、驚き、一人、取り残された。

 ルチアは、帝国兵に気付かれる前に、跳躍し、蹴りを放った。


「ぎゃっ!!」


「ぐへっ!!」


 一人の帝国兵が、蹴り飛ばされ、あっさりと気絶する。

 もう一人の帝国兵が、警戒するが、ルチアは、隙を見せず、鳩尾に蹴りを入れる。

 蹴られた帝国兵は、そのまま、仰向けになって、倒れた。


「よし、完璧」


「さ、さすがだなぁ……」


 ルゥは、ルチアの元へと駆け付けるが、すでに、帝国兵は、気絶している。

 気絶した帝国兵を見て、ルゥは、顔を引きつらせる。

 ルチアの蹴りは、威力がある事は、知っている為、さすが、と言ったところであろう。

 ルチアは、本当に、容赦ない。

 蹴られないように、気をつけなければならないと、感じ取っていた。

 ルチアは、すぐさま、帝国兵の制服を奪い、ルゥと共に、変装する。

 気絶した帝国兵をロープで縛り、口を布で、縛って、叫ばせないようにして。


「行こう、ルゥ」


「おうよっ!!」


 ルチアは、ルゥを連れて、走り始める。

 妖魔のことを知る為、そして、島を救う為に。

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