第四十七話 妖魔の真実
ルチア達にとって信じられない事が起こった。
エマが、妖魔になってしまったのだ。
「エマが、妖魔に?なんで……」
ルチアは、愕然とする。
一体、エマの身に何が起こっているのか。
なぜ、エマが、妖魔になってしまったのか。
「あはは。知らないの?」
「え?」
エマが、ルチアに語りかける。
しかも、不気味に笑いながら。
どう考えても、エマの声だ。
目の前にいる妖魔は、間違いなくエマなのだろう。
だが、ルチアは、考えることもできないほど、混乱していた。
「妖魔はね、帝国の奴らのなれの果てなの」
「帝国の?」
エマは、衝撃的な真実をルチアに突きつける。
なんと、妖魔は、元は帝国の者達だったのだ。
ルチアは、体を震わせる。
今まで、戦ってきた妖魔達を思いだしながら。
もし、本当に妖魔が、帝国の奴らのなれの果てだとしたら、ルチアは、彼らに何をしてきたのか、察してしまったのだから。
「じゃ、じゃあ、今までの妖魔達は……」
「そうよ。元帝国の奴ら。貴方は、殺してたのよ。帝国の奴らを。人殺しってわけ!!」
ルチアは、恐る恐る問いかける。
嘘であってほしいと願いながら。
だが、時に真実は、残酷だ。
エマは、笑いながら、答えた。
ルチアは、今まで、帝国の者達を殺してきたことになる。
エマは、容赦なく、ルチアを人殺しと罵り、高笑いをし始めた。
彼女の言葉を聞いてしまったルチアは、絶望する。
自分は、今まで、帝国の人や精霊を殺してきたのだと知って。
「そ、そんな……」
「大丈夫。貴方は、罪を償えるようにしてあげる。死をもってね」
ルチアは、地べたに座り込む。
自分の力が、抜けていくのを感じた。
妖魔を倒し、島の民を助けてきたルチアだったが、それは、間違いだったのではないかと思うほどに。
エマは、ルチアに歩み寄ろうとする。
ルチアを殺そうとしているのだ。
だが、クロウが、エマに斬りかかり、エマは、すぐさま、回避した。
「邪魔する気?そんな事をしたって、この子は、救われないわよ?」
「黙れ!!」
エマは、クロウを煽る。
わかっているからだ。
クロウにとって、ルチアは、どれほど大切な存在なのか。
クロウは、声を荒げ、剣を振るう。
エマは、剣で、クロウの剣をはじく。
それでも、剣は、ルチアの前に立ち、守った。
「クロス、ルチアを連れて、逃げろ!!」
「クロウ!」
「早く!!」
クロウは、ルチアを連れて逃げるようにと、クロスに促す。
自分が、おとりになるつもりなのだ。
クロスは、ためらってしまうが、クロウは、声を荒げる。
このままでは、ルチアが、殺されると察したのだろう。
「邪魔しないで!!」
エマは、懐から、核を取り出し、制御し始める。
大精霊の力を無理やり引き出したのだろう。
そのため、入口は、水のシールドが張られてしまった。
触れれば、水の刃がルチア達を襲うはず。
これでは、ルチア達は、逃げる事も不可能になってしまった。
「これで、逃げられなくなったわね」
「ちっ!!」
エマは、ルチア達を閉じ込めてしまった。
クロウは、苛立ち、舌打ちをする。
だが、エマは、容赦なく、魔法・エビル・スプラッシュを発動する。
クロウは、後退して、回避するが、その隙をついて、エマは、ルチアの元へ向かってしまった。
クロウは、エマを止めようと地面を蹴る。
しかし、エマのスピードは、予想以上に早く、間に合わない。
エマは、呆然としているルチアに向かって、再び、魔法・エビル・スプラッシュを発動した。
クロスは、魔法・フォトン・スパイラルを発動して、防ぎきり、相殺させる。
だが、その隙をついて、エマが、クロスの鳩尾を殴りつけ、吹き飛ばした。
エマが、妖魔となってからその威力は、異常だ。
クロスは、そのまま、壁に激突し、うつぶせになって倒れた。
「がっ!!」
「クロス!!」
クロスは、起き上がろうとするが、さらに、エマは、核を使って、クロスを水の球体の中に閉じ込める。
クロスは、息ができず、もがいた。
ルチアは、クロスを助けようと、クロスの元へ向かうが、エマが、ルチアを追うように、向かっていく。
クロウは、ルチアの前に立ち、構えた。
だが、エマは、クロウの脇腹を蹴り、クロウは、吹き飛ばされた。
「かはっ!!」
「クロウ!!」
クロウは、地面にたたきつけられ、エマは、続けて、核を発動し、クロウまでも、水の球体の中に閉じ込める。
クロウも、息ができずもがいた。
その間に、ルチアは、球体に蹴りを放ち、クロスを助け、続けて、クロウの元へと駆け寄る。
エマが、魔法・エビル・スプラッシュを発動し、ルチアに直撃するが、ルチアは、歯を食いしばり、クロウの元へとたどり着く。
クロウを閉じ込めている球体に蹴りを放って、クロウを助けるが、二人は、咳き込み、意識が朦朧とし始めた。
「やっと、殺し合いができるわね。ルチア」
「待って……私、殺したくない……お願い……」
エマは、ルチアに迫る。
だが、ルチアは、涙を流して、懇願した。
エマと戦いたくないのだ。
「待たないわよ!!」
「うああああっ!!」
エマは、待つはずもなく、魔法・エビル・スプラッシュを発動する。
ルチアは、邪悪な水のオーラの渦に巻き込まれ、地面にたたきつけられ、うつぶせになって倒れた。
「貴方が、殺さないって言うんなら、あたしが、殺してあげる」
「うっ!!ぐっ!!」
エマは、ルチアの背中を何度も、踏みつける。
ルチアは、苦悶の表情を浮かべながら、歯を食いしばり、耐えた。
「ほらほら、どうしたの?反撃しなさいよ!!」
「うあああっ!!」
エマは、力を込めて、ルチアの背中を踏みつける。
骨が折れる音が聞こえ、ルチアは、絶叫を上げた。
ルチアは、もう、力が入らず、荒い息を繰り返している。
エマと戦うことも、できないのだろう。
しかも、激痛により、動けなくなってしまったのだ。
エマは、容赦なく、剣を振り上げた。
「死ね!!」
エマは、剣をルチアに向かって振り下ろした。
剣が、ルチアに迫っていく。
ルチアの首を斬り落とそうとしているのだろう。
だが、その時であった。
クロウが、エマに向かって斬りかかったのは。
エマは、ギリギリのところで後退し、回避した。
「ルチアは、俺が……」
「邪魔だって言ってるでしょ!!」
クロウは、息を切らしながらも、構える。
あの球体は、実は、邪悪なオーラも、宿っていた為、クロスとクロウの体を蝕んでいたのだ。
回復していない体に鞭を打ち、ルチアを守ろうとするクロウ。
だが、エマは、容赦なく、魔法・エビル・スプラッシュを発動した。
「がっ!!」
「クロウ……」
クロウは、回避することもできず、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる。
ルチアは、荒い息を繰り返しながら、クロウを見た。
意識が、ぼんやりとしかけている。
ルチアは、気を失いかけていたのだ。
そんな彼女に対して、エマは、迫っていた。
「ふふふ」
エマは、不敵な笑みを浮かべながら、剣を握りしめる。
今度こそ、ルチアを殺すためだ。
その時であった。
「っ!!」
エマの腹部に激痛が走る。
まるで、剣で刺されたような痛みだ。
エマは、ゆっくりと下を見下ろすと、腹部は、剣で貫かれていた。
クロスが、背後から、エマを古の剣で刺したのだ。
「く、クロス……」
クロウは、目を見開く。
クロスは、エマが、元人間である事をわかっていながら、刺したのだ。
ルチアを守るために、手を汚した。
エマは、体を震わせ、水の大精霊・ウンディーネの核を手放す。
核は、クロウの元へと転がった。
「これは……」
「核だ!!」
クロウは、核を拾い上げる。
その時だ。
ヴィクトルの声が聞こえてきたのは。
クロウは、視線をヴィクトルの声がする方へと移すと、ヴィクトル、フォルス、ルゥ、ジェイク、フィス、カトラスが、駆け付けに来ていた。
しかし、エマが、水のシールドを張ったため、入れないようだ。
ヴィクトル達は、水のシールドの前で立ち止まっていた。
「ヴィクトル!!」
「そいつを、早く!!」
クロウは、ヴィクトルに、言われるがままに、核をヴィクトルの方へと投げる。
核は、シールドをすり抜ける。
ヴィクトルは、見事に核をキャッチした。
「頼んだぜ、フィス」
「わかった!!」
ヴィクトルは、フィスに核を託した。
カトラスが、オーラを注ぐ。
そして、フィスが、集中し始めた。
「ウンディーネよ。我が、声を聞き給え。我は、フィス。水のシャーマンなり。契約せよ、ウンディーネ!!」
フィスが、呪文を唱えると、核が、光り輝き始める。
そして、核が割れ、青い髪の女性が、フィスの前に立った。
それと同時に、水のシールドが破壊され、ヴィクトル達は、すぐさま、ルチア達の元へと駆け付けた。
エマの前に、ヴィクトル達が、立つ。
ルチアを守るためだ。
クロスは、剣を抜き、ルチアの元へと駆け付け、魔法・スピリチュアル・リフレクションを発動し、ルチアの治療を試みた。
「ウンディーネ」
「ありがとう。フィス、カトラス」
ウンディーネと再会を果たしたフィスは、涙ぐんでいる。
うれしいのだろう。
ウンディーネと会えたことが。
ウンディーネは、母のように微笑み、フィスとカトラスに礼を言う。
フィスとカトラスは、静かにうなずいた。
「さあ、静まりなさい!!」
「うぎゃああああああっ!!」
ウンディーネは、結界を張る。
結界は、瞬く間に、ウォーティス島を包みこんだ。
それと同時に、エマが、苦しみ始める。
結界の効果が聞いており、弱体化しているのだろう。
「エマ……」
クロスの治療により、傷が癒えたルチアは、立ち上がる。
エマの事を心配しているのだろう。
その時だ。
苦悶の表情を浮かべたエマが、助けを求めるかのように、ルチアを見たのは。
「ルチアちゃん……」
「え?」
エマは、ルチアの名を呼ぶ。
まるで、正気に戻ったかのようだ。
ルチアは、驚き、戸惑っていた。
「お願い……私を……殺して……」
エマは、ルチアに懇願する。
だが、それは、ルチアにとって、残酷な願いであった。
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