第四十六話 純粋な心を受け入れた直後

 牢から脱出し古の剣を取り戻したヴィクトルは、洞窟内を駆け巡っている。

 ルチア達と合流するためだ。

 だが、探しても出会うのは、帝国兵や妖魔ばかり。

 ヴィクトルは、古の剣で、帝国兵を殺し、妖魔を消滅させて、進んでいた。

 それでも、帝国兵や妖魔が、ヴィクトルと遭遇する。

 ヴィクトルは、一瞬で、帝国兵や妖魔を蹴散らした。


「ふぅ。どうにか片付いたな」


 帝国兵を殺し、妖魔を消滅させたヴィクトルは、額の汗をぬぐう。

 連戦であった為、さすがに、疲労しているのだろう。

 早く、ルチア達と合流したいところだが、どこにいるのかも不明だ。

 正直、ヴィクトルは、途方に暮れていた。

 その時であった。


「船長!!」


 背後からフォルスの声が聞こえる。

 ヴィクトルは、振り返ると、フォルス、ルゥ、ジェイク、フィス、カトラスが、ヴィクトルの元へと駆け寄った。


「フォルス!!皆も来てたのか!!」


「当たり前だってのっ!!」


「心配したんだからね。良かった、良かった」


「悪いな」


 フォルス達と合流できたヴィクトルは、安堵する。

 ルゥも、ジェイクも、心配していたのだ。

 ヴィクトルは、申し訳なさそうな表情を浮かべて、謝罪する。

 自分が、油断していたばかりに、攫われてしまったのだから。


「ルチア達は?」


「自然災害の影響で、バラバラになってしまったんです」


「……あの女の仕業か」


 ヴィクトルは、ルチア、クロス、クロウの姿が見当たらない事に気付き、フォルスに尋ねる。

 フォルスは、申し訳なさそうに説明した。

 帝国が、自然を操り、バラバラになってしまったのだ。

 幸い、フォルス達は、すぐに合流できたのだが。

 フォルスの説明を聞いたヴィクトルは、エマの仕業だと察した。


「何か知ってらっしゃるんですか?」


「おう。エマは、敵だ」


「やはり……」


 フォルスは、ヴィクトルが、真相を知っていると気付き、尋ねる。

 ヴィクトルは、エマが、敵である事を告げた。

 誰もが、エマの正体を見抜いていたらしく、納得していた。


「だったら、早く、合流しないと!!」


「ルチアが、危ない」


「そうだな。核も、あの女が持ってるだろうからな」


 フィスが、焦燥に駆られた様子で、カトラスは、冷静に呟く。

 誰もが、ルチアの事を心配しているのだ。 

 ルチアは、エマと仲が良かった。

 もし、エマの正体を知ってしまったら、どうなるか想像がつく。

 しかも、エマが、核を持っているとヴィクトルは、推測している。

 ゆえに、急いで、ルチア達と合流する必要があった。


「行くぞ、野郎ども!!」


 ヴィクトルは、フォルス達と共に駆けだした。

 ルチア達と合流するために。



 ルチア、クロスは、シェイと死闘を繰り広げていた。

 クロウは、エマと死闘を繰り広げている。

 エマの様子が、気になるが、今は、目の前の敵に集中しなければならなかった。


「やああっ!!」


「ちっ!!」


 ルチアは、蹴りを放ちながら、オーラを飛ばし、そのオーラをシェイの前で、爆発させた。

 その名は、魔技・ブロッサム・インパクト。

 爆発で、吹き飛ばされたシェイであったが、すぐさま、体勢を整え、ルチアの元へと迫り、精霊型の妖魔が、発動できる魔法・エビル・スプラッシュを発動した。

 邪悪な水のオーラは、ルチアに襲い掛かる。

 ルチアは、エマの方へと視線を向けていた為、シェイが魔法を発動したことに気付かず、邪悪な水のオーラは、ルチアに迫った。


「ふっ!!」


 クロスが、ルチアの前に出て、魔法・フォトン・スパイラルを発動する。

 光のオーラが、邪悪な水のオーラをかき消し、相殺した。


「ごめんね、クロス」


「大丈夫か、ルチア?」


「うん」


 ルチアは、クロスに謝罪する。

 自分が、よそ見をしていたがために、クロスが体を張って守ってくれたのだ。

 申し訳なく感じたのだろう。

 だが、クロスは、ルチアを責めるつもりはない。

 ルチアを守る事は、当然なのだから。

 しかし、シェイは、バルスコフと同じ、強敵のようだ。

 一筋縄ではいかないとルチアは、推測していた。


「あの女の事が、気になるのか?ヒヒヒッ!本当、おかしいよな。女のくせに」


「エマを悪く言うな!!」


 シェイは、ルチアが、エマの事が気がかりであると察し、わざとエマを見下すような言い方をする。

 すると、ルチアが、怒りを露わにした。

 エマは、ルチアの敵だというのに。

 エマの事を悪く言われ、腹立たしく感じたのだ。


「へぇ、信じてるのか?まだ」


「……わからない。でも」


 シェイは、ルチアに問いかける。

 エマの事を信じているのかと思うと、おかしくて仕方がないのだろう。 

 ルチアは、正直に答えた。

 わからないのだ。

 エマの事を信じているのか、そうでないのか。


「まぁ、いいや。どうせ、お前らは、死ぬからな!!」


 シェイは、再び、ルチアに襲い掛かる。

 ルチアが、エマの事をどう思っているのかなど、最初から、どうでも、良かったのだ。

 ルチアは、シェイの攻撃に備えて、構える。

 だが、その時だ。

 クロスが、地面を蹴り、シェイに向かっていったのは。 

 シェイは、魔法・エビル・スプラッシュを再び、発動するが、クロスは、魔技や魔法を発動することなく、向かっていき、傷を受けてしまう。

 クロスの行動に、驚愕するシェイであった。

 クロスは、その隙を逃すことなく、古の剣で、シェイを突き刺した。


「く、クロス!?」


「ルチア!!今だ!!」


「うん!!」


 クロスがシェイを刺し戸惑うルチア。

 シェイは、消滅しかけている。

 このままでは、復活してしまうだろう。

 だが、クロスは、彼が、消滅する前にルチアに倒させようとしていたのだ。

 今の状態では、シェイも、反撃はできない。

 ゆえに、シェイを倒すチャンスであった。

 ルチアも、そのことを察し、跳躍する。

 クロスは、とっさに、古の剣から手を離し、シェイから離れた。


「やあああああっ!!」


「ぎゃあああああっ!!!」


 ルチアは、固有技・インカローズ・ブルームを発動する。

 シェイは、絶叫を上げながら、消滅した。

 これで、シェイが、復活することはもうないだろう。

 一呼吸し、心を落ち着かせるルチア。

 クロスも、古の剣を拾い上げ、ルチアの元へと歩み寄った。

 しかし……。


「いやああああっ!!」


「っ!!」


 エマの叫び声が聞こえる。

 ルチア達は、驚愕し、エマの方へと視線を移した。

 すると、エマが、クロウに追い詰められていた。

 しかも、体中に切り傷を負っている。

 クロウは、容赦なく、エマを斬ったのだろう。


「エマ!!」


 ルチアは、目を見開く。

 クロウは、エマを殺すつもりではないかと察して。


「こ、殺さないで……お願い……」


「俺は、お前を許さない。ルチアを騙し、傷つけたことを後悔するがいい」


 エマは、怯えた目で、クロウを見ている。

 殺されると察しているのだろう。

 だが、クロウは、怒りを顔に出していない。

 いつも以上に、冷静だ。

 だが、クロウは、許せなかった。

 ルチアを騙して、傷つけたのだ。

 殺さないわけがなかった。

 クロウは、突きを放とうとする。

 その時だった。


「待って!!」


「ルチア!!」


 ルチアが、クロウの前に出る。

 両手を広げて。

 これには、クロスも、驚きを隠せなかった。


「なぜ、止める!!そいつは」


「わかってる」


「なら……」


 クロウは、声を荒げてルチアを責める。

 こんなクロウは、クロスも、始めて見た。

 ルチアを大事に思っているクロウが……。

 それほど、理解できないのであろう。

 ルチアを傷つけたエマをなぜ、かばうのか。

 もちろん、ルチアも、わかっている。 

 エマは、敵だと。

 ならなぜ、止めるのか。

 クロウは、余計に、理解に苦しんだ。


「確かに、エマは、私を騙したかもしれない。でもね。信じてる事もあるの」


「え?」


 ルチアは、エマは、自分を騙すために近づいたことは、わかっている。

 だが、それでも、信じている事があるらしい。

 これには、さすがのエマも驚きを隠せなかった。


「助けてくれたのは、本当のことだから。どんな理由があったとしても」


「……」


「だから、殺さないで」


 ルチアは、感謝しているのだ。

 エマは、ルチアを助けてくれた。

 彼女のおかげで、ルチアは、命を落とさずに済んだのだ。

 たとえ、それが、自分を騙すために近づいたとしても。

 ルチアは、エマの事を命の恩人だと思っているようで、クロウに、殺さないでほしいと懇願する。 

 ルチアの言葉を聞いたエマは、何も言えなくなった。


「バカな子ね……私なんかの為に」


「エマ?」


 エマは、笑みをこぼしながら、呟く。

 ルチアは、振り向くと、エマは、穏やかな表情を浮かべていた。

 ルチアの優しい心に胸打たれたのだ。

 

「良かったのかもね。あんたの事、殺さなくて……。あたし、罪を償うわ」


 エマは、決意した。

 今までの罪を償う事を。

 ルチアは、微笑み手を差し出す。

 エマのルチアの手を握ろうとしていた。

 しかし、突如、エマは、目を見開く。

 何か、異変が起こったかのように。


「うっ!!」


「エマ?」


 エマは、目を見開いたまま、うずくまる。

 ルチア達は、困惑した。

 彼女の身に何が起こったというのだろうか。


――ま、まさか。あれが……。


 エマは、自分に何が起こったのか、察しているようだ。


「エマ」


「来ないで……」


 ルチアは、エマに歩み寄ろうとする。

 エマは、声を振り絞って、来ないでと告げる。 

 だが、ルチアは、エマの事が心配であり、エマに歩み寄った。


「い、いや……あたし……」


「どうしたの?エマ?」


 エマは、首を横に振る。

 何かに、怯えているように。

 ルチアは、エマに尋ねるが、エマは、何も答えようとしなかった。


「いやあああああっ!!!」


「っ!!」


 エマは、泣き叫ぶ。

 その時だ。

 エマが、邪悪なオーラを発動したのは。

 ルチアは、吹き飛ばされ、クロスとクロウが、ルチアの元へと駆け寄る。

 そして、邪悪なオーラが、静まるとエマが、姿を現した。

 しかし……。


「え?」


「なぜだ」


「嘘だろ?」


 ルチアは、何が起こったのか、理解できない。

 クロウも、動揺しているようだ。

 クロスも、信じられないと言わんばかりの表情をしていた。

 なぜなら、目の前にいるのは、エマではない。

 いや、エマだと思うのだが、精霊の姿をしていない。

 黒褐色の肌に、青色の髪、そして、邪悪なオーラを放っている。

 彼女は、まさに、妖魔だった。

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