第四十五話 エマの本性

「ヒヒヒッ、来たか、ヴァルキュリア」


 シェイは、不気味に笑っている。

 ルチアが、来た事を楽しんでいるのか。

 それとも、味方のふりをしてここまで来たエマが、どこまで、ルチアを騙し続けているのかと、様子をうかがっているのだろうか。


「ヴィクトルさんは、どこ?」


「ヴィクトル?ここには、いないぞ?」


「え?でも……」


 ルチアは、シェイに問いかける。

 だが、シェイは、ヴィクトルは、ここにいないと、告げる。

 ルチアは、驚愕し、戸惑っていた。

 そんなはずはない。 

 エマが、教えてくれたのだから。

 もしかしたら、シェイが、自分を騙しているのかもしれない。

 思考を巡らせ、警戒し始めるルチア。

 その時だ。

 突如、ルチアの背中に鈍い痛みが走ったのは。


「がはっ!!」


 ルチアは、うめき声をあげ、片膝をつく。

 何が起こったのか、ルチアは、不明だ。

 何者かが、自分を襲ってきたのだろうか。

 すると、エマが、ルチアの前まで、移動した。


「はぁ。もう、いいかしらね。騙すのは」


「な、なんで……」


 エマは、不敵な笑みをルチアに見せている。

 ルチアは、悟ってしまった。

 先ほどの鈍い痛みの原因は、エマではないかと。

 だが、エマが、そんな事をするはずがない。

 ルチアは、戸惑いを隠せなかった。


「まだ、気付かないの?あたし、帝国兵よ?ルチア」


「え?」


 ついに、エマが、正体を明かす。

 自分は、帝国兵だと。

 これには、さすがのルチアの驚きを隠せない。 

 何が起こっているのか、理解に苦しんだ。


「うそ、だよね?」


「まだ、疑うの?じゃあ、こうしましょう!!」


 ルチアは、まだ、信じられない。

 エマが、帝国兵だと。

 シェイを欺けているのではないかと。

 だが、エマは、容赦なく、魔法・スプラッシュ・ショットを発動した。

 いくつもの水の弾は、ルチアに襲い掛かった。


「っ!!」


 ルチアは、とっさに、回避する。

 全て、回避しきれたようだ。

 目を見開くルチア。

 これで、悟ってしまった。

 エマが、自分の敵であり、自分を殺そうとしていると。

 エマは、容赦なく、ルチアに歩み寄った。


「どう?これなら、信じてもらえるかしら?あたしが、貴方の敵だって事」


「本当に?」


「そうよ。あたしは、帝国兵。しかも、ここのリーダーよ」


「そんな……」


 ルチアは、愕然とする。

 エマは、帝国兵であり、この島を支配するリーダーだったのだ。

 つまり、島の民を苦しめていたのは、エマだ。

 そう思うと、ルチアは、絶望にたたき落とされた感覚に陥っていた。

 自分は、騙されていたのだと。


「さあ、どうする?エマ」


「もちろん、殺すわ」


 シェイは、エマの隣に歩み寄り、問いかける。

 エマが、どうするのか、様子をうかがっているのだろう。

 エマは、殺すと宣言する。

 シェイは、不敵な笑みを浮かべ、ルチアに襲い掛かった。

 シェイは、妖魔だけが、扱える魔法・エビル・スプラッシュを発動する。

 まがまがしい水のオーラが、ルチアに襲い掛かった。


「っ!!」


 ルチアは、回避し、シェイに蹴りを放とうとする。

 だが、ルチアの前にエマが現れ、ルチアは、躊躇してしまったのだ。

 エマが、再び、魔法・スプラッシュ・ショットを発動し、ルチアは、回避しきれず、傷を負う。

 ルチアは、後退し、エマ達から距離を取った。


「嘘だよ!!惑わされてるんだよ!!エマは、そんなことしない!!」


「まだ、わからないの!?」


 ルチアは、エマを説得する。

 まだ、エマを信じているようだ。

 エマは、シェイに騙されているのではないかと。

 だが、エマは、自分を信じていることさえも、腹立たしく感じ、ルチアの鳩尾に向かって蹴りを入れた。


「あがっ!!」


 ルチアは、苦悶の表情を浮かべながら、吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる。

 激痛が走る鳩尾を手で抑えたルチアは、歯を食いしばって立ち上がった。

 それでも、エマは、容赦なく、ルチアの元に迫った。


「ふふ、これで、あたしは、認められる。誰もが、あたしに逆らおうなんて、思わないわ!!」


 エマは、笑みを浮かべている。

 勝ったと思いっているのだろう。

 ルチアは、戦う意思がない。

 だからこそ、エマは、もう、ルチアを殺せると思い込んでいるようだ。

 エマは、ルチアの左わき腹を踏みつけた。


「ぐっ!!」


 ルチアは、左わき腹に、衝撃と激痛が走り、苦悶の表情を浮かべる。

 エマは、不敵な笑みを浮かべたまま、ルチアを見下ろしていた。

 このまま、ルチアを殺すつもりなのだろうか。


「エマ……」


 ルチアは、苦悶の表情を浮かべながら、エマの方へと視線を向ける。

 それは、怒りではない。

 悲しみだ。 

 彼女の表情を目にしたエマは、一瞬だけ、力を緩める。

 シェイは、エマの一瞬の異変を見逃さなかった。


「どうした?殺さないのか?」


「だから、やるって言ってるでしょ?」


 シェイは、エマに問いかける。

 ルチアを殺そうとしないからだろう。 

 エマは、苛立ったように、答えた。

 ルチアに心をかき乱されたような気がして。


「まさか、迷っているわけではあるまいな?」


「あたしが?」


「そうだ。この者に心を動かされ、殺すべきではないと。ヒヒヒッ!!」


 シェイは、エマに語りかける。

 ルチアの影響を受けたのではないかと。

 ゆえに、迷いが生じているのではないかと悟ったようだ。

 だが、警戒しているわけではない。

 この状況さえも、楽しんでいるかのようだ。


「そんなわけないでしょ!!」


「ああああっ!!!」


 エマは、怒りを増幅させ、魔法を発動する。

 スプラッシュ・ショットを発動したのだ。

 いくつもの水の弾が、ルチアを襲い、ルチアは、絶叫を上げた。

 身も心も、ボロボロにされたルチア。

 そんな彼女をエマは、容赦なく、蹴り飛ばした。


「こいつは、殺すべきよ!!あたし自身の為にも!!」


 エマは、剣を抜き、ルチアに向かって振り下ろそうとする。

 ルチアは、抵抗できず、剣は、ルチアを切り裂こうとした。

 だが、その時だ。

 闇の弾が、エマとシェイに向かって放たれたのは。


「っ!!」


 エマは、殺気を感じ、回避する。

 シェイも、後退して、回避した。

 すると、クロスとクロウが、ルチアの前に立った。

 彼女を守るかのように。


「ルチアを殺そうとするなら、容赦はしない」


「クロス、クロウ……」


 クロウは、エマとシェイに、剣を向け、にらむ。

 怒りを露わにしているようだ。

 エマが、ルチアを騙し、傷つけたと悟って。

 クロスは、すぐさま、魔法・スピリチュアル・リフレクションで、ルチアを癒し始める。

 ルチアの傷は、すぐさま、癒えた。


「ちっ」


 エマは、舌打ちをする。

 苛立っていたのだ。

 クロスとクロウに邪魔をされて。


「だから、すぐに殺せばよかったものを。ヒヒヒッ」


「う、うるさい!!」


 シェイは、笑いながら話す。

 殺せば、このような事にはならなかったと、エマを責めているようだ。 

 エマは、シェイをにらみつける。

 怒りをぶつけるかのように。

 その直後、クロウは、地面を蹴り、エマに向かっていった。


「邪魔しないでよ!!」


「クロウ!!」


 エマは、剣を振るい、クロウの剣をはじく。

 さすがは、リーダーだ。

 クロウの剣術についていけるのだから。

 クロスは、クロウの身を案じるが、クロウは、冷静だ。

 このまま、エマと対峙するつもりだろう。


「こいつは、俺がやる。だから、お前達はあの妖魔を殺せ!!」


「わかった」


 クロウは、エマの相手をするつもりらしい。

 クロスに手を汚させないためだろう。

 人殺しは、自分一人で、十分だと思っているようだ。

 クロスは、そんなクロウを心配するが、敵は一人ではない。

 妖魔であるシェイも、相手にしなければならないのだ。

 クロスは、ルチアの治療を終えると立ち上がり、構える。

 ルチアも、立ち上がり、構えた。


「ルチア、行くぞ」


「う、うん!!」


 ルチアは、うなずくが、心配していた。

 クロウが、エマを殺してしまわないかと。

 だが、迷っている暇はない。

 シェイを倒さなければならないのだから。


「やろうって言うのか?いいだろう。ヒヒヒッ!!」


 シェイは、不気味に笑っている。

 今も、この状況を楽しんでいるかのようだ。

 狂っているかのように、ルチアは、思えてならなかった。


「さあ、来い!!」


 シェイは、構えた。

 傍観者ではなく、ルチアと戦うことを決めたようだ。

 こうして、ルチア達の悲しい戦いが、始まってしまった。

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